部費争奪戦前年度第1位 探偵部
俺たちが部室に戻ると、既に女性陣も仕事を終え、談笑していた。
「葉川、猿渡、和泉です。戻りました」
「お〜、おつかれ〜」
「お疲れ様、綾くん。今お茶淹れるね」
「いや、俺がやるよ。和泉君も適当に座ってて」
「あ、はい!」
「綾〜、俺は炭酸水がいいぜ」
「わかってるよ」
隣の給湯室の冷蔵庫にある炭酸水のボトルを投げ渡す。
「よっ、あんまり雑に渡すなよな。爆発するかもしれないんだから」
「そうならないようにちゃんと対策してる。和泉くんはほうじ茶でいい?」
「はい」
俺がほうじ茶を淹れて戻ると、墨染先輩がホワイトボードに何かを書いている途中だった。
「はい、これほうじ茶ね。で、墨染先輩は何を?」
「二人が理能力についてもっと知りたいと言ってきてね。今は理能力の分類について解説しよう思ってたところなんだ」
「なるほど。じゃあ解説お願いします」
俺が椅子に座ると、先輩は理能力解説講座を開講した。
「まず、理能力には大きく分けて3つの類型に分けられる」
「1つ目はⅠ型。これは理力自体に性質が宿っているものだ。壬生くんと日野くんがこれに当てはまるね。二人とも、能力を発動してくれ」
「わかりましたー」
「はーい」
先輩の指示で、壬生さんと一夏が能力を低出力で発動させる。
指先に氷と炎をそれぞれ浮かべ、くるくると回転させる。
「壬生くんの《氷結操術》は『氷』の属性が宿った理力を操作し、日野くんの《炎熱操術》は『炎』の属性が宿った理力を操作する」
「おぉ…すごいですね。ひんやりする…」
「出力を上げると水素が凍るくらいまでは温度下げられるよ。流石に範囲はすごく狭くなっちゃうけどね…」
「で、次がⅡ型。これは理力を媒介にして能力を使うタイプだね。宮部くんの《神具召術》は理力を消費して呪具を一時的に具現化する能力だから、これが当てはまる」
「そうなんですね…」
「で、最後…Ⅲ型は稀な存在でね。前述した2つの理能力は自分の理力を消費するんだが……Ⅲ型にはそれがない」
「? 理力を消費しないってことですか?」
和泉くんが首をかしげる。
「Ⅲ型は自分が理力を持たない。その代わり、「外付け」で理力の源になるものが存在するんだ」
「外付け…ですか」
「その源は「概念」。海、大地、星、善悪、様々な概念が尽きることのない理力として宿る」
「ていうことは…理力切れが起こらない?」
「そう。理能力者にとって致命的な弱点となる理力切れを起こさず、半永久的に能力の行使が可能になるんだ」
「…なんていうか、ずるいですね」
和泉くんがそう言った。理能力に目覚めていない彼にとっては能力が使えるだけでも羨ましいものなのに、それがずっと使えるというのはなかなかに理不尽なものなのだろう。
「もちろん弱点はあるさ。Ⅲ型能力者は人間が持つにはあまりにも膨大の理力を背負うことになる。能力の使用時は理力を垂れ流すことになり、その理力は自身の身体に余計な負担を与えるんだ」
「え、じゃあ、逆に長期戦に向いてないんですか?」
「ああ、短期戦の瞬間火力最強。それがⅢ型だ」
先輩が3つの型を説明し終えて、紅茶を飲む。
「余談だがⅢ型はその概念が持つ性質を扱うことが出来るのでⅠ型の派生という分類になっている」
「ありがとうございます」
「というわけで仮入部お疲れ様。君たちは明日どの部活に行くつもりだい?」
「一応異能部に行こうと思ってるんですけど…」
「異能部か。部長が朝に君たちのクラスに押しかけてきて入部を強要したそうだね」
「ま、まあそうですね…」
「あまり責めないでやってくれ。彼も必死だからな」
「そう言えば墨染先輩って元々異能部に所属してたんですよね」
「えっ、そうなんですか?」
壬生さんの言葉に、和泉くんが驚きの声を上げた。
「ん、まあね。今の部長と反りが合わなくて辞めてしまったんだ」
「その反りが合わなくなった原因っていうのが、戦闘に向いてない先輩とガチガチの武闘派のあっちの部長が1年の時に次期部長の座をかけて模擬戦した時に先輩が罠とゲリラ戦法でボコボコにしたことなんだよね」
「それは初耳だ〜。あの人変に自信家だからね、ボコボコにされてショックだったろうな〜」
「だからあの時探偵部の名前出しただけで烈火の如く怒ったんですね…」
宮部さんが納得したように言うと、先輩がため息を吐いた。
「まだ根に持ってるのか…彼が単純に頭が回らない脳筋ゴリラだっただけじゃないか」
先輩は不満そうに頬を膨らませて不満気に腕を組んだ。
「そういうのは本人が一番気にしてるんですよ」
「正面切って戦ったら私が負けるのが目に見えていたから頭を使って勝った。それに逆恨みするのは私は納得してないね」
そうしてあとは雑談を行い、仮入部の部活時間が終了した。
「ありがとうございました。先輩方はあと1時間あるんですよね?」
「ああ、一応6時までやるからね。あ、最後にアドバイスだけど、異能部に仮入部するなら2日はやらないと全部学べないと思うから気をつけて」
「あ、はい。ありがとうございます!」
そう言って和泉くんと宮部さんは部室を出ていった。
「あの二人、探偵部入ってくれないかな? そしたら部費争奪戦も楽になりそうだね」
「異能部は前回2位だっけ? 雪辱を果たすためにすごい強くなってそう」
壬生さんと一夏がそう言うが、その戦いを経験した先輩は余裕の表情を浮かべていた。
「あの二人がいなくても勝てるさ。なんせ前回1位になったのは他でもない私達だからね」
「え? それも初耳…」
「言ってなかったからね」
「ってことは、ウチたちがここに来る前だから…綾くんと先輩と猿渡くんの3人で勝ったってこと?」
「いや、俺はスポーツ推薦で入学したから参加できなかったぞ。戦闘で怪我でもしたら推薦できた意味がなくなっちゃうからな」
「じ、じゃあ二人で……?」
壬生さんが驚きながら俺たちを見た。
「ああ、私達が獅子奮迅の活躍で勝利――と胸を張って言えればよかったが、残り3チームになるまで逃げ続けて生徒会と異能部の決着がついた瞬間に漁夫の利で勝利したんだ」
「園芸部の食虫植物に襲われ、エンジニア部の銃火器を破壊し……なかなかスリリングでしたねぇ」
「え、なにそれ、楽しそう…」
「まあうちの部は部費をもらったところで特に使うこともないし、賞金の部費は9割位返したけどね」
「あの頃は3人だけの小さい部活だったのに、あの1件で結構悪目立ちしちゃいましたね」
「まあそのお陰で壬生くんも日野くんも噂を聞きつけて家に入ってきてくれたじゃないか」
「まあそうですね〜」
「さて、そろそろ移動しようか。訓練場の使用時間が惜しい」
今日は17〜18時の間で異能戦用の訓練場を予約しているので、俺たちはそのまま移動した。
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「葉川くん、今日はどうするの?」
「とりあえず軽めで。壬生さん、打ち合い頼んでいい?」
「もちろんだよー」
「じゃあその後は一夏、組み手お願いするね」
「おっけー。じゃあウチは先輩とだねー」
「じゃあ俺は見守ってるぜ!」
一人戦闘に参加できない猿渡は、カメラを用意して録画の準備を始める。
「じゃっ、いくよ?」
「いつでも良いぞ」
もはや恒例となった
お互いに木刀を構え、初動を見極め、俺は一太刀目を繰り出した。
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