幕間 とある二人組の密談
都内の高層ビルが立ち並ぶ大通り。街灯りによって彩られているが、一度路地に入ってしまうと、暗闇が空間を支配する。
そんな場所は密談にもってこいだ。特に、悪巧みをするときには……
丁度そこに二人の人影がある。片方の若い男は夜景に霞められた星空を見上げ、もう片方の壮年の男は下を向きタバコを堪能していた。
「やっぱり本部のほうが星がよく見えるっすね〜」
「タバコの品揃えは、都内のほうがいいがな」
「つれないっすね〜。もうちょい先輩はロマンってのを学ぶべきだと思いますよ?」
端から見れば仕事終わりで飲み歩く会社の先輩後輩にしか見えないだろう。
「ロマンで飯が食えるか? ったく、さっさと計画を教えろ。50年に1度の姫巫女だぞ。これを逃したら50年計画に遅れが出る」
「えーっ、まだ5軒しかハシゴしてないっすよ! もう1軒だけ! 美味しそうなラーメン屋があるらしいんで、そこ行ってから話しますから!」
「50過ぎのジジイに5件もハシゴさせんじゃねぇ! ったく、何ラーメンだ?」
「豚骨ラーメン屋っす! 背脂マシマシのこってり系らしいっすよ!」
「ジジイになんてモン食わす気で居るんだお前!」
翌日胃もたれ確定のメニューにタバコの男が悲鳴を上げる。
「えーっ、じゃあ明日の昼飯でどうっすか?」
「ったく、俺は油少なめしか食わないからな」
「つれないっすね〜…さて、じゃあ計画についてお話しましょうか」
若い方の男の雰囲気が変わる。
「私達『蛇の手』とあなた達『
「ああ」
「実行は基本そちら側が行い、我々は情報を提供。『巫女を奪還した暁には、今後10年に起こる蛇の手の出来事を未来視する』そういう契約です」
「ああ、だから計画を――」
「まあそう焦らないでください」
先を急かす男を宥めると、もう一人の男が続ける。
「実行時期は今後2週間以内、星霊学院高校は警備も厳重で、追跡も優秀なのでタイミングが重要です。あなた達が狙うべきは――」
そう言って若い男がスマホを見せる。そこには星霊学院高校のHPが表示されており、ある行事の結果について記載されていた。
「星霊学院高校名物、部費争奪戦。ここを狙うべきでしょう」
「…部費争奪戦?」
初めて聞く言葉に男はハテナを浮かべる。
「実力主義のあの高校だから出来る行事ですよ。参加を表明した部活が、学校全体をフィールドとして異能力戦を行うんです。それに勝利すればその部活に部費がボーナスで入る……面白いと思いませんか?」
「ああ…だけど死人が出たりすんじゃねぇか? 相当苛烈な戦闘になるだろ」
「いえいえ、もちろんそうならないよう自動的に生命維持装置が作動する仕組みです。各部活の部長が大将として旗を持ち、その旗を取り合うルールらしいですよ」
「ふん…最近の機械には疎くてな。そんなもんもあるのか」
「ええ、で、毎年この行事は混戦になるんですよ。それに乗じてあなた達は巫女を連れ去る。流れはこんな感じです」
「…悪くはねぇな」
「まだこちらは本格的に動いてはいませんが、巫女がどの部活に所属するのか、その部活が部費争奪戦に参加するのか、参加しない場合の計画は追ってお教えします」
「頼むぜ。こっちは50年間待ち続けてきたんだ」
「わかってます。私達も10年間に起こるトラブルを知ることが出来るのですから、全力でお手伝いしますよ」
若い男がそう言うと、また雰囲気を戻して陽気な声を出した。
「さっ、先輩! 居酒屋行きますよ! ラーメンは明日の楽しみにとっておきますから」
そう言って若い男はまた表通りに歩いていった
「嘘だろ……俺もう胃が…ゔっ…若いってのは良いもんだな…」
若干顔色を悪くしながら、男はそれについていくのだった。
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