生徒会だからといって何してもいいと思うなよ! side:葉川綾

ここから主人公(一応葉川くんだからな! 和泉くんとか宮部さんじゃないぞ!)視点になります。



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墨染先輩の指示により、俺とはじめが和泉くんに探偵部の活動を教えることになった。


「よし、じゃあ俺が探偵部のいろはを教えてやるぜ」


「よろしくお願いします!」


そう言ってはじめはまず引き出し…依頼棚と呼ばれている依頼書が詰め込まれた場所から数枚の依頼書を取り出す。


「まず探偵部の活動内容から説明するぜ」


そう言ってはじめが机に依頼書を広げる。


「基本的にウチは『何でも屋』依頼書に書かれた依頼を達成するのが目的だ」


「運動部からも依頼が来るんですか?」


和泉くんが依頼書の一つ、「テニス部の助っ人」を手に取る。


「そういう運動部のは基本的にはじめが対応してるんだよ。ほら、内容にも『担当者を猿渡はじめであること』って書いてあるだろ」


「本当だ。担当者の指定も出来るんですか」


「もちろん断っても良いんだけどね。ウチの部の方針はできるだけすべての依頼をこなすことだから」


「わかりました」


「よし、じゃあ美化委員からの依頼『花壇の水やり』をやりに行くか。美化委員の担当の生徒が急な予定が入ってできなくなったらしいから代わりにやってほしいんだと」


「オッケー、じゃあ行こうか和泉くん。結構インパクトはないけど、記念すべき初仕事だ」



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簡単に花壇に水をやると言っても、星霊学院高校の敷地は広大である。


なので美化委員は3組ほどに分かれ、持ち場をひたすら水やりする。これは星霊学院高校苦行集(非公式)の一つに数えられているので、美化委員はあまり人気がない。


俺とはじめと和泉くんが持ち場につくと、底には整然と咲き誇る花々が。


「綺麗ですね」


「ああ、見る分にはな」


はじめが悟った顔で和泉くんに忠告する。


「さあ、苦行を始めようか。和泉くん、はじめ、持て。始めるぞ」


俺は水を8分目くらいまで入れたジョウロを6つ、2つを自分で持ち、4つを『伴走者』で運んで渡す。


「…本当に便利な能力ですね。自分とジョウロの距離を維持してるんですか?」


「結構難しいけどね。4つの対象を同時に意識しないといけないから、30秒くらいしか保たない。というわけではよはよ」


「いただきます」


「もらうぞー」


俺は二人がしっかりとジョウロを持ったことを確認すると、能力を解除して水やりを始める。


「さっさと終わらせよう。目標は1時間以内」


「わかりました」


「任せろ!」


俺の号令で一斉に水やりが始まる。まんべんなく花壇に水をやり、水が尽きたら水を汲みに行く。


俺とはじめは何回かこの依頼をやったことがあるので淡々とこなしていけたが、進捗が8割程になると和泉くんが疲れ始めていた。


さすがに鍛えていても疲れるよな。俺も最初そうだったし。


「和泉は少し休憩してていいぞ。あとは俺と綾でやっておくから」


「いえ! 僕はまだやれますから!」


「無理しない方がいいぞ。最悪明日もこの依頼が来るときかもしれない」


俺の言葉に和泉くんが若干顔を青くした。そして大人しく花壇の縁に腰を下ろす。


「…先輩たち、はいつもこんな依頼を?」


和泉くんが俺たちの様子を眺めながらそう聞いてきた。


「まあそうだね。総動員して動くことなんてそうそうないよ……と言いたいところだけど、去年は3件。大規模な活動をしたな」


「俺は多分…2回目? くらいのときに入部したんだよな?」


「そうだよ。1回目が夏休み中から2学期の始め、2回目が冬休み、3回目が冬休み明けにあった」


「…そのときは、どんな活動を?」


「んー、まあ端的に言うと……死にかけた」


「死にかけた!?」


俺の言葉に和泉くんが驚きの声を上げる。


「2回はウチの部員の壬生さんと一夏に関わりがある事件だったんだけど、残り1つは部長が首突っ込んで生徒会とバチバチにやりあった事案」


「生徒会と?」


ここで仕事を終えたはじめが口を挟む。


「ウチの部長、事件好きで首を突っ込みたがるからさ。たまにめんどくさい依頼を持ってきたりするんだよ」


「そうなんですね」


「さて、俺も終わったし、戻るか」


「よし、和泉には依頼初達成ってことで俺が飲み物奢ってやるよ!」


「ホントですか!? ゴチになります!」


コミュ力高め、陽キャ男子はじめは和泉くんと肩を組みながら歩き始めた。君たち馴染むの早いねぇ…


「綾も行こうぜ。俺が奢ってやるよ」


「マジ? 俺金欠だから3本くらい買ってもいい?」


「ダメだ! 一人1本だ!」


俺も奢られる流れになって、俺たちは意気揚々と戻ることにした。



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「…おい綾、あれって…」


「ああ、そうだな。だ」


「? なんなんです?」


自販機で飲み物を買って3人で帰路についていると、はじめが足を止めて前方を指さした。


俺はそれを見て「今年もあるのか」と哀れに思い、和泉くんはその反応に?を浮かべる。


「あの生徒って和泉くんの知り合い?」


「ん? あ、はい。同じクラスの桐野きりのくんです」


「てことはAクラスか…大丈夫か?」


「あの? 桐野くんが何か?」


前方にいる桐野くんは腕に『生徒会』と書かれた腕章を巻いており、誇らしく胸を張って歩いている。


「桐野くん、生徒会に入ったんですね」


「ああ、そうみたいだ」


生徒会というのは誰でも簡単に入れるわけではない。まず生徒会役員の推薦が1名以上必要で、更にそこから役員による多数決、生徒会長の承認と真に秀でた生徒しか入ることが許されない一線を画す存在だ。


役員に与えられる恩恵も凄まじく、まず最大の恩恵としてランキングが200位以下に下がることがなくなる。


そして学食の割引、更には各部活の監査などが行えるようになる。


因みに因縁をつけられるとめんどくさくなるので注意。俺みたいにね。


ただ、その生徒会役員にも恒例行事と言ってもいいものが存在する。


「ん? おうおう? 誰かと思ったら和泉かよ〜」


桐野くんが俺たちに気づいてこちらにやってくる。


「桐野くんは生徒会に入ったんだね、おめでとう」


和泉くんがそう称えると、桐野くんは更にふんぞり返った。


「だろ!? 生徒会という選ばれし存在に選ばれた俺は、まさに天!才! 和泉も入ればよかったのにな! あいにくともう募集はしてないんだと!」


「あ、ああ、うん。そうだね」


明らかに調子に乗っている桐野くんに対して和泉くんが引いている。


「あっれ? しかも一緒に居るのはぁ! 模擬戦で和泉にボコボコにされてた最下位の先輩じゃないっすか! お久しぶりでっす!」


「うん、久しぶり」


俺は若干憐れみの視線を向けながら答えた。


「あ、ちょうどよかった! 先輩! ちょっと付き合ってくれませんか! 生徒会の恩恵ってやつを感じたいので!」


「…ああうん。いいよ」


俺はさらに憐れみの視線を強くした。


生徒会に入るとき、1年は1つ、ある嘘の恩恵を知らされる。


『アプリで序列戦の申請をしなくても、強制的に序列戦を始められる』


因みに実際にあったら自分より実力の低い相手をひたすら倒してポイントを稼ぐという勝ち確チートが出来てしまうため、あり得ない仕様だ。


しかし年に一人はこれを信じて上級生に序列戦を申し込む馬鹿無能が出る。


それに勝てるならまだしも、ボコボコにされるとなると――


「じゃ、始めますよ。俺の合図で! よーい、始めッ!――」


桐野くんが高らかに開戦を宣言した瞬間、俺は右手に弧を描くように駆け出し、相手の間合いの半歩後ろに到達する。


上体を地面に叩きつけるように落とし、てこの要領で右足を勢いを乗せて跳ね上げる。


躰道における卍蹴りを鳩尾に突き刺した。


「おごぉ!?」


「速っ…!」


和泉くんが目を丸くして呟くのと、桐野くんがうめき声を上げて吹き飛ぶのが同時。


吹き飛んだ桐野くんは、何が起こったのかわからず痛みに転げまわっている。


「戦闘続行は不可能っぽいな。勝者、葉川綾!」


はじめがレフェリー代わりにそう言って締めくくった。


「あーあ、やっぱりこうなったな」


「あの、僕には何がなんだか…」


まだ事の経緯がよくわかっていない和泉くんに大まかに状況を伝える。


「つまり桐野くんはよく考えたら見破れる偽の情報に踊らされたと」


「ああ、で、その情報を鵜呑みにして、あまつさえ敗北した生徒は生徒会に相応しくない。そろそろ――」


「あら、もう終わりでしたか」


ふわふわとした声に俺たちが振り向くと、クリーム色の髪をふわふわさせたふわふわとした雰囲気の3年生がこちらに向かってきていた。


「ごきげんよう、葉川様」


「こんにちは中院なかのいん先輩。今年も出ましたよ」


「ええ、存じております」


そう言って中院先輩は桐野くんの方に向かっていく。


「あ、あの先輩、たしか入学式の時に生徒会長の傍にいました」


「うん。生徒会副会長、中院なかのいん楓香ふうか。異能序列3位の実力者だ」


「3位…っ」


「ま、そうとは思わせない独特のふわふわした雰囲気で学校中の男子から告白されてるんだけどな」


中院さんが壁で体を支えながら立った桐野くんの前に立つ。


「1年A組、桐野きりのしゅうさん。情報を鵜呑みにし校則外で決闘を行ったこと、そしてその際の振る舞いは、生徒会にふさわしいものとは言えません。よってここに生徒会副会長の権限であなたを生徒会から除籍させていただきます」


「えっ、はっ? そんな…」


これが恒例行事、『生徒会除籍RTA』。毎年一人は除籍されていく。


因みに一度除籍処分を受けるともう再加入することは出来ないので生徒会に入ろうと思っていた人は詰みだ。


「すみません葉川様。ご迷惑をおかけしてしまって」


「構いませんよ。もはやしきたりみたいなものですから」


調子に乗った生徒を叩き、身の程を弁えさせる。


去年もそれで入学早々心をおられて自主退学した人がいたっけな…


「探偵部の皆様はお元気ですか?」


「はい。相も変わらず」


「ふふっ、そうですか。…お連れの方もいらっしゃるようですし、また今度、ゆっくりお話しましょうね」


そう言ってふわりと微笑んだ。


この微笑により大半の男子生徒は恋に落ちるという。たしかに中院先輩は美人だし絵になる。現にはじめや和泉くんは顔を赤くしてるしな。


「ええ。またいつか」


この人は生徒会でも数少ない俺と友好的な関係を築いてくれている人の一人だ。まあその理由には俺の過去が関わっているんだけれども、それはこの際置いておくとしよう。


「さて、帰るか」


「あ、ああ…マジであの笑顔には勝てねぇ…綾はすげぇな、顔色1つ変えないで受け流して」


「まあな」


「あの…桐野くんは?」


和泉くんが茫然自失となっている桐野くんを見やる。


「しばらくそっとしといてやれ。行こう」


そうして俺たちは部室に戻っていた。

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