異能力と理能力 side:未咲

果たして未来の自分はうまい具合にこの世界の仕組みについて書くことが出来ているのだろうか。



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「さて、どこから話そうか」


墨染先輩が思案を巡らせる。


「そうだな。じゃあまずは君たちの知識を把握しよう。宮部くん、異能力についてなにか知っていることはあるかな?」


先輩の目が私に向いた。


「え、えっと! 異能力っていうのはまず人間だけに発現する能力です!」


「うん。落ち着いて話すといい」


「は、はい! それで……異能力は基本的に6〜9歳の間に突然発現します。たしか、殆どの場合遺伝とかは関係なく発現する…んですよね?」


「ああ、合っているよ。そして君は世にも珍しい遺伝性の異能力を持つ家系に生まれている。しかし遺伝性になる条件はまだわかっていない」


「…はい」


「ああ、すまない。あまり君はその力をよく思ってはいないんだったね」


「…何でもお見通しなんですね」


「いや、これは葉川くんが言ってたことの受け売りだ。宮部くんとは始めて顔を合わせたのが今だから、そこまではわからないよ」


一息ついて、先輩が今度は和泉くんに視線を投げた。


「では和泉君、理能力について、知っていることを話してくれ」


「はい。理能力はこの世界のすべての生物が持っている理力という体内エネルギーを使って使う能力のことです。理能力は遺伝するものが多いですが、発現する時期は人によって変わります」


「そうだね。ただ、理能力は使えなくても、ある程度理力を操作することは出来る。和泉くん、やっているよね?」


「はい。僕は体に理力を循環させて身体強化をしてますし、同じクラスでは理力を局所的に高密度で流す人もいました」


「ふむ、そこまで知っていれば十分。因みに理能力にはⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型のⅢ種類があるんだが、それは知っているかい?」


「…いえ、始めて聞きました」


「あ、私は…祖母から理力には性質があるってことを聞いたことが」


「うん。まあそれは知らないか。中学で教えることじゃないし。まあおいおい授業でもやるだろうからその時に学ぶといい。本題に入ろうか」


先輩が紅茶を飲み干し、ティーカップを机に置いた。


「これは君たちがこれから習うことだが、とてつもなくざっくりと『契約』について先に話しておこう」


「契約…?」


「二人が理力を使い、条件を設定して恩恵を得る。条件に反した場合はその恩恵が失われる。簡単だろう?」


「そうですね。ペナルティとかの設定もできるんですか?」


「ああ、そこは契約する二人が細かく決められる。因みに一人が契約できるのは一度に1つだけ。2つの契約を同時に行うことは出来ない」


「それで、葉川先輩はなんでそんな契約を?」


和泉くんが続きを促す。


「彼の家は、この学校の理事長の家と仲が悪くてね。この学院の合格を取消そうとしたくらいには、彼は理事長に嫌われているんだ」


「そんなことが…」


「しかも彼と理事長の一人娘が同年代でね。入学試験で一年前に合格した娘を超えてトップの成績を取った彼はそれはもう理事長を怒らせた」


「トップの成績!?」


「本当だったら合格は取り消しとなるところだったんだが……そこで声を上げたのが理事の一人であった私の父、墨染紅葉もみじだ。ある契約をすることを条件に、彼の入学を認めるように働きかけた」


「それが、『異能序列戦時に異能出力を10分の1にする』ってことですか」


和泉くんがそう言うと、先輩も頷く。


「ああ、理事長が危惧したのは自分の娘が彼に負けてしまうこと。絶対に負けることがないようにすればいいと言う父の主張を、理事長は渋々承諾した」


「それで、葉川先輩もその契約に同意した、と」


「和泉くんが感じた障壁の違和感は、1撃目に異能力の発動に意識を集中させて通常の10倍の出力を一瞬だけ発動させた事によって起きたものだろう。2回目以降はそこまで出力を上げられなかったんだ」


「だからだんだん柔らかくなっていったんですね」


「異能力の発動には集中力と精神力を使用するからね」


「…ってことは、アプリを使わないで行う模擬戦なら、普通に戦えるってことですよね?」


「ああ、その通りだよ」


私は先日の一幕を思い出す。確かに勧誘に来ていた先輩方は、最下位であるはずの葉川先輩を見ただけで嫌そうな顔をして去っていった。


アプリを介さない戦闘ならすごく強いことなのだろうか。


「…話してくれてありがとうございます。今度、葉川先輩に組み手を頼もうとお思います。今度は、縛りなしの全力で」


「彼なら快く相手してくれると思うよ。私もよく頼むしね」


その時、ノックとともに部屋の扉が開けられた。


「葉川です。依頼終わりましたー…ん? 和泉くんに宮部さんじゃん」


「ほんとだー。もしかして仮入部!?」


壬生先輩と葉川先輩が驚いたようにそう言う。


「あ、お、お邪魔してます!」


「おつかれ葉川くん。今、君のことについて彼らに話していたところだよ」


「俺の…? ああ、了解です」


葉川先輩はそれだけで察したように了解する。


「すみません、そこまで深刻な問題だとは思わなくて…」


私が謝ると、葉川先輩は軽く笑って手を振った。


「別にいいよ。知りたがるのは悪いことじゃないと思うし」


「葉川先輩。今度僕と模擬戦してもらってもいいですか? アプリなしで」


「あー、いいけど基本的に他学年とやるのは時間内から放課後になるよ? 放課後も基本的に部活やってるからなぁ」


「じゃあ、僕が探偵部に入れば、闘ってくれますか?」


和泉くんが食い気味にそう聞いた。


「ああ、それはもちろん。部員同士で模擬戦したりするしね」


「墨染先輩。仮入部届はありますか?」


「おっ、入ってくれるのかい和泉くん」


「はい」


先輩の言葉を聞いた和泉くんが二つ返事で仮入部した。判断が速い…


「宮部くんも仮入部するかい?」


「あっ、はい!」


そうだった。私も仮入部しに来たんだった。


「ただいまー。あれ? お客さん?」


「戻りましたー!……ええっ!? なんで1年がここに!?」


その時、さらに二人、三角耳の生えた獣人の先輩と天然パーマの先輩が部屋に入ってきた。


「お、全員戻ってきたね。集合だ2年諸君。仮入部する1年に自己紹介を頼むよ」


墨染先輩の号令の下、2年生の先輩4人が一人ひとり自己紹介を始めた。


「2年B組、葉川綾。異能力は物体や物質の状態を維持する『伴走者ペースキーバー』、理能力は未覚醒だよ。よろしく」


「状態の『維持』? 障壁ではなく?」


葉川先輩の自己紹介に和泉くんが疑問を漏らすと、葉川先輩が笑って答えた。


「あれは俺の前方の空間の分子の位置を『維持』して障壁みたいにしたんだ。なかなか便利な能力だよ。紅茶の適温を維持したりとか」


「そうだったんですね…」


「おし、じゃあ次は俺だな。俺の名前は猿渡はじめ。異能力も理能力も特に持ってないぞ。スポーツ推薦組の2年C組に在籍してるぜ」


天パの猿渡先輩がそういって快活に笑った。


「じゃあ次はウチでいいかな? 2年B組の日野一夏だよ。異能力は『新契約ニューオーダー』で、1度に2つ、契約を掛け持ちさせることが出来るよ」


「それを使って俺と一夏が契約してるんだよね」


「そうだよ。理能力は《炎熱操術》、単純に火を操ることが出来るとか、そういった感じ」




「そして! 最後の一人が我ら探偵部の最高戦力!」


「異能序列7位! 氷を操る神速の女剣士!」


「ちょ、ちょっと! そんなにハードル上げないでよぅ…」


壬生先輩が顔を赤くして手をバタバタさせる。


「はい、ええっと、ご紹介に預かった壬生千冬です…異能力は物体の運動エネルギーを操作する『調律者ペースメーカー』で、理能力は氷を操れる《氷結操術》です…」


「和泉薫です。理能力や異能力はありませんが、よろしくお願いします」


「あっ、み、宮部未咲です。異能力は…その、『未来視』で、理能力は《神具召術しんぐしょうじゅつ》です…」


「じゃあ男女ごとに別れて1年に活動を教えてあげてくれ。私は進路希望を書かなくちゃならない」


「了解です部長! 行くぞ和泉! 俺と綾が探偵部のなんたるかを教えてやるぜ!」


「よろしくお願いします!」


「じゃあ未咲ちゃんはウチたちと行こうか」


「は、はいっ! がんばります!」


こうして私達は探偵部に仮入部することになったのだった。

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