最下位の違和感 side:未咲
和泉くんが葉川先輩に勝利した翌日。教室は未だにその話題で持ちきりだった。
「すげーな和泉、最下位っつっても1年上の先輩に勝てるなんてよ」
「このレベルなら俺たちでも勝てるかも…なんつって」
「っていうか、先輩が1年に負けるってどうなのよ?」
席についていた私の横で男子たちがやいのやいのと和泉くんの机を囲み騒いでいるが、当の本人は機嫌が悪そうだった。
「和泉くんも男子にあれだけ言われると鬱陶しいよね」
「うん、いかにも男子たちが調子に乗ってるし」
逆サイドでは女子が井戸端会議を行っていた。
「はい。座ってください。ホームルームを始めますよー」
担任の先生が教室に来たことで、全員が席についた。
「今日から本格的に授業が始まるので、皆さんしっかりと勉強してください。そして、今日から部活の仮入部期間が1週間あるので、入ってみたい部活がある人はその活動場所や先輩に言って参加してくださいね」
そう言って部の活動日と活動場所が書かれたパンフレットが配られる。
パラパラとめくっていくと、探偵部のページを見つけた。
中央に大きく「探偵部」と書かれており、下の方に活動日と活動場所が書かれているだけのシンプルなものだった。
(そう言えば、葉川先輩が仮入部になったらまた絡まれるみたいなことを言ってたっけ…)
もういっそのこと探偵部に入部しようかな。
今まで会った葉川先輩も壬生先輩もいい人だったし、特に入ってみたい部活もないし。
和泉くんは空手部かな? 険しい顔しながらパンフレットとにらめっこしてるけど。
休み時間になると、男子は和泉くん。女子は私の周りに集まってどの部に行くかを相談し始めた。
「宮部さんはもうどこに行くとか決めた?」
「え、えーっと」
「私と一緒に女バスやらない? 絶対楽しいよ!」
「いやいや、私と一緒に軽音部に…」
「いや、ウチと茶道部に…」
「あ、あのー」
私を無視し始めてどの部活に行くべきかを数人の女子が言い合い始めた。
…ゴメンナサイ、運動部は無理です。中学時代は理能力の修行にかかりっきりだったので…
「――それじゃあ宮部さんに聞いてみようよ!」
「どう思う宮部さん!」
「え、ええ…」
どう、と言われましても……
私が返答に迷っていると、光明が横から差してきた。
「未咲。聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
和泉くんが女子たちを避けて、私に声をかけてきたのだ。
「い、和泉くん。どうしたの?」
「昨日模擬戦した先輩と一緒にいた女の人と話してたよね。あの人達が入ってる部活が知りたいんだけど」
「そ、それならその二人は探偵部に所属してるって言ってたよ」
「探偵部…分かった。とりあえずそこに仮入部することにするよ」
「あ、それなら私も…活動しやすそうだし」
ここぞとばかりにその話に便乗して探偵部に所属することをアピールする。
「それはダメだ少年少女諸君!」
「「「!?」」」
突然教室の扉が開かれ、屈強な男女が教室に入ってきた。
その内の一人は、入学初日に葉川先輩に追い返された人だった。
「1年A組、宮部未咲、そして和泉
先頭の先輩が大声でそう言った。
「未来を視ることが出来る宮部の異能力、そして和泉のと大会を優勝した格闘センスは、異能部でこそ輝く! さあ、ここに仮入部の申請用紙がある! 署名してくれ!」
そう言って2枚の用紙を私達に渡してきた。
「あの、お気持ちは嬉しいんですが」
「すみません。俺たちもう仮入部するところ決めてるので」
私と和泉くんが申し訳無く答えると、即座に先輩の顔に青筋が浮かんだ。
「何ぃ!? どこの馬の骨だ! 空手部か!? 彼奴らめ、皆殺しにしてくれる!」
「お、落ち着いてください。探偵部です!」
探偵部、という和泉くんからの言葉から青筋が更にくっきりと浮かび上がった。
「たぁんてぇいぶぅ!!!???」
「は、はい…」
「あんなクソみたいな部活は部活とは呼べん! 所詮物好きな女が作ったお遊び集団だ! そこに身を置いてしまえば最後、3年間を腐って終えるぞ!」
怒涛の勢いで探偵部のネガキャンをし始める。
「君たち! 悪いことは言わない。探偵部だけには入るな! 君たちのような才気あふれる若者ならなおさらだ!!」
そう言って先輩はネガキャンを締めくくった。
「…あ、あー、熱弁ありがとうございます。でも仮入部するのは部活に興味があるんじゃなくて、そこの先輩に興味があるんです」
和泉くんが圧倒されつつもそう返すと、先輩は今までの剣幕を和らげた。
「む? そうなのか。なら壬生か日野か…確かにあそこには強者が多い。興味を持つのも当然か」
「え、ええ。それに異能部にも一応仮入部に行こうと思っていたところです」
更に和泉くんが異能部にも興味があることを示すと、先輩は朗らかに笑みを浮かべた。
「そうかそうか! ならいい! 二人のことをいつでも歓迎しよう!」
満足したように先輩はそう言って帰っていった。
「未咲も探偵部に行くのか。なら今日早速行ってみよう」
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授業が終わった放課後。私と和泉くんは予定通り探偵部の活動場所である会議室に向かっていた。
「和泉くんはなんで探偵部に行こうと思ったの?」
無言のまま向かうのも嫌だったので、ひとまず和泉くんが探偵部に行く理由を聞いてみる。
「葉川先輩が少し気になってね」
「そうなの?」
「うん、悔しいけどあの人は僕より強い。全部の攻撃を目で追われてた。しっかりガードもされてたしね。きっと本番なら負けてた」
「そう言えば壬生先輩もわざと負けてる、みたいなこと言ってた。」
「いや、確かに手を抜かれてるのはすぐにわかったよ。いかにも防戦一方って感じで振る舞ってたし。僕が気になったのは能力の方」
「葉川先輩の能力?」
「うん。僕の予想だと葉川先輩の異能力、もしくは理能力は『障壁』を作り出す能力だと思うんだ」
「障壁…」
「僕は理能力の能力がないから常に理力で身体能力を強化して攻撃してる。自慢じゃないけどその強度は多分中学生でもトップクラス。高校レベルでも十分通用するくらいにはね」
「うん」
「でも開始直後の僕の正拳突きは葉川先輩に止められた。正確には阻まれたと言うべきかな。先輩の鳩尾に触れる前に、見えない壁に止められた感触だった」
「うん、それで?」
「先輩からしたら、その障壁で僕の攻撃を防ぎ続ければいいだけなんだ。AIの判定なら、どっちが優勢かで勝負が決まるから」
「ああ、たしかにそうだね」
「でも最初の障壁以外、先輩は能力を使わなかった。それに違和感があったんだ」
そうやって話していると、ついに目的地出る第1会議室に到着した。
「ここかな」
「ここだね」
和泉くんが扉を開ける。
扉の奥には黒髪の先輩が書類に目を通していた。
「ん? ああ、君たちか。和泉薫くんに宮部未咲くん。ようこそ探偵部へ。部長の墨染桜だ」
墨染先輩が私たちに気づくと自己紹介をしてくれた。なんで私達の名前を?
「な、なんで僕たちの名前を?」
和泉くんも動揺したようにそう零す。
「それは私の探偵としての第6感が教えてくれたからさ。和泉くんはおそらく、葉川くんのことが気になって来たのだろう? 残念だけど今は私以外で払っていてね。もう少ししたら戻ってくると思うから席に座ってお茶でも飲むといい」
そういって墨染先輩が立ち上がって給湯室にお茶を淹れに行き始めた。
「じ、じゃあお言葉に甘えて」
私と和泉くんは席についてお茶が入るのを待った。
「砂糖とミルクはお好みで入れてくれ」
「あ、ありがとうございます」
「さて、ただ待っているのもなんだし、和泉くんの疑問に答えようか。探偵部に所属する面子ならみな、知っていることだからね」
「本当ですか!?」
「ああ、だが口外は禁止だ。最悪の場合、退学になる」
退学、その2文字が重々しく登場し、わたしたちは息を呑む。それほどまでに葉川先輩には秘密があるのだろうか。
「ただまあ、これは私の個人的興味なんだが。葉川くんのどういうところが気になったのか、それを教えてくれないかい? それが条件だ」
叡智を湛えた瞳が、和泉くんを見据える。
「あ、はい。昨日の模擬戦の時、葉川先輩はおそらく『障壁を作る』能力で僕の理力強化した正拳突きを止めました。しかしその後、一度もその能力を使うことはなかった。後輩である僕に華を持たせるなら、その能力を使ってダメージを無効化して判定勝利させればよかったのに」
「それで? 君の中の仮説は?」
「能力が理能力だとした場合、葉川先輩は理力量が少なく、連続した能力の使用出来ない。異能力だとしても、やはり連発できない能力なんじゃないか。……そう考えましたが、さっきの墨染先輩の話からそれはないと思いました。多分、人為的なものだと」
「ふむふむ。うん。君は良いね。A組でありながら、自分の才能に驕らず、冷静に分析している」
感心したように墨染先輩が頷くと、答え合わせとばかりにその口を開いた。
「君の見立て通り。葉川くんは学院でも少々特殊な状況にあるんだ」
紅茶を一口含み、唇を湿らせて墨染先輩が語り始めた。
「彼は入学時にある契約をしていてね。それは『入学するかわりに異能序列戦での異能出力を10分の1にする』というものだ」
「異能出力を10分の1?」
あまりピンと来なかった私は、首を捻った。
その様子を見て、墨染先輩がホワイトボードに詳しく解説を書き込み始める。
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なぜか和泉くんが主人公より主人公している、気がする。
そしていい感じに能力の解説に移れそうで一安心の作者。
次回、『異能力と理能力 side:未咲』。ほぼ解説になりそう。
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