第10話 闇の力VS病みの力



「なぜじゃ、なぜ儂の攻撃が通じん!?」


「そんなの、俺たち――いや、レーヴァよりも弱いからだろ」


「なんじゃと貴様あ! 『シャドウ・ガーゴイル』」


 激高したダークは俺に向けて魔術を放つ。


 出てきたのは影でできたガーゴイルだ。

 

 雄たけびを上げながら俺へと襲い掛かってくるが、それもレーヴァの一振りで消し飛ばす。


「ガ、ガーゴイルが……」


 ダークは驚愕しながら小さくつぶやく。


 それが、最後の一押しだったのだろう。

 彼の理性を保たせていた、最後のつなぎ目だったのだろう。


「ひいいい!」


 彼は情けない声を上げながら腰を抜かした。


 俺は一歩踏み出してダークの元へと進む。

 すると自分の元へと行こうとしていることがわかったダークは、腰を地面につけながらも後退した。


「ここにきて逃げるのかよ」


 逃がしはしない。


 この魔物たちを時間をかけずに倒すには、ダークを倒さなければいけないのだ。

 逃がすつもりはなかった。


 それに、ここでこいつを逃がせばまた別の場所で似たようなことを続けるのだろう。

 それを許してはおけない。


 歩み寄る俺を恐怖に強ばった顔で見てくるダーク。

 まるで怪物を見るような目でこちらを恐れていた。


「く、来るな……!」


 ダークは言う。


 恐怖しながら。

 絶望しながら。


「来るなあああああああああああ!」


 恐慌状態に陥ったダークはやたらめったら魔術を撃ち始めた。


 しかし、どれも先ほどの技よりも弱い威力だ。

 先ほどの『ダークネス・レーザー』という魔術は彼の扱う中でも強い方だったとわかる。


 それを二十発も一気に出すあの技はよほど自身があったのだろうな。

 それら全てを防がれて、ダークは狂乱してしまっている。


「『ブラック・エクスプロージョン』、『ダークネス・フレイム』、『シャドウ・トルネード』、『メサイア・ブラスト』」


「無駄だって。ああまったく、面倒だな」


 ダークは次々と魔術を発する。


 俺はそれらすべてを打ち落としている。

 というか、全て打ち落とさなければいけない。


 この魔術は全て俺とレーヴァからすればなんてことない魔術であるが、他の冒険者にとってはそうじゃない。


 打ち漏らして他の冒険者に当たれば、その冒険者は簡単に死んでしまう。

 それほどの威力だ。


 うち落とすのに手を取られて、なかなか前に進むのに時間がかかる。


「来るな来るな来るなあああ!」


 ダークは一人叫び始めた。


「わ、儂が何をしたというんじゃ。儂はただ人間を襲い、絶望させ、殺して……。殺しまわって……。ただそれだけしかしてないのに」


「それがダメなんだよ!」


「来るなと言っておろうが、『ダーク・ブレッド』」


 複数の黒い球体がこちらに襲い来るが、それらを切り裂く。



「なぜじゃ、なぜ効かないんじゃ。儂の、儂の力は数百年研鑽した闇の力が! 魔王様に次ぐ至高に届きる闇の魔力が! わしの闇の力がぁ!」



「何が闇の力だよ……!」





『マスターかっこいいです愛してますマスターかっこいいです愛してますマスターかっこいいです愛してますマスターかっこいいです愛してますマスタかっこ――』




「こちとら病みの力だぞ!」



 ちなみに、ダークと戦っている最中ずっとこの声が頭の中に響いていた。

 ダークを追い詰めている俺の戦いに感動しているらしい。


 正直、めちゃくちゃやりづらい。

 でもそんなこと言えば、悲しむか怒り始めるかのどちらかで更に面倒になることはわかっている。

 

 だからあえてスルーしてダークを倒すことに専念している。



「こ、こうなったら奥の手じゃ。いでよケルベロオオオオオオオオス!」


 ダークが叫びながら右手を上げると、黒い門が出現した。

 門が開き、三つの首を持った巨大な犬が出てくる。


 見るからに強力そうな魔物だ。


「ふ、ふは、ふははは。もう終わりじゃ。全員終わりじゃ。このケルベロスは魔界にいる最強の魔物。魔王様ですら手なずけることはできなかった怪物じゃ。わしもろとも、ここにいるみな死にさら――」


「えい」


 何やらぶつぶつ呟いている間に、ケルベロスの三つの首を全て切り落とした。

 強そうだったが、俺たちの敵ではなかった。


「死んだぞ、その最強の魔物」


「バカなああああああ!」


 ダークは叫び、ついに力が抜けて仰向けに倒れた。


 よほどショックが大きかったらしい。

 肉体には傷を負っていないはずなのに、身動き一つできなくなっている。


「ケルベロスが……嘘じゃ……。魔王様すら倒すのに手傷を負ったほどの魔物を……。魔王軍四天王の儂すらも超える魔物を……」


「もう終わりか? というかさっさと終わらせたい。死ね」



 魔術が止んだから簡単にダークの元へ行ける。

 動けないダークを殺すために、彼のところへ駆け寄る。


「…………た、助けてくれ」


「はあ?」


「お願いじゃあ。儂の命だけは助けてくれ。お願いじゃ。死にたくない。死にたくはないい」


「同じことを言った人間に対して、お前はどうした?」


「そ、それは……」


 殺したのだろう。


 さっき自分で言っていたことだし。

 殺しまわった、と。


「死んで詫びろ」


 ダークに向かってレーヴァを振り下ろす。

 肉体は砕け散り、ダークはいとも簡単に死んだ。



 魔王軍四天王、『闇の魔術師』ダークは死亡した。



 すると、周囲の魔物に変化が起こる。

 先ほどまでは冒険者のみに対して戦っていた魔物たちだが、彼らは周囲の魔物に対しても襲い掛かり始めた。

 先ほどまでの狂暴性を失い、戦いから逃げる魔物も現れ始める。


 どうやらダークが死亡したことによって、魔物たちの支配も解けたようだ。



「これでやりやすくなるな」



 互いに殺し合う魔物は無視できる。

 冒険者相手に襲い掛かる魔物を殺しに行く。



「ありがとう! 助かった!」

「君は命の恩人だ」


 冒険者を食い殺そうとしていた魔物を殺す。

 他にも襲われている者や必死に戦う者を助ける。


 何体も、何体も。

 斬る。斬る。斬る。斬る。


 魔剣を手にしてから、いいや魔剣を手にする前から考えても。

 もっとも多く剣を振るい続けた日だった。



 どれくらいの時間が経っただろうか。

 俺は、街を襲いに来た全ての魔物を殺しつくすことに成功した。


 

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