第11話 勇者ユーリ・クローター



 ダークとの戦いから一週間が経過した。


 俺は魔王軍四天王であるダークを倒し、多数いる魔物もほぼ一人で倒した。

 

 自分で言うのもなんだが、かなりの活躍だ。

 まさに八面六臂の大活躍だと言っていい。


 そして、そんな活躍をした俺は今――。



「勇者の登場だ!」



 勇者として扱われていた。


 俺が行くだけで、冒険者たちが歓声を上げる。

 

 立ち上がって拍手をする奴や握手を求めてくる奴。

 サインを貰おうとしてくる者までいる始末だ。


 今はどこに行こうともこんな扱いだ。


 俺はダークを倒し、さらには街に来た魔物のほとんどを倒していた。 

 だから街を救った英雄として扱われているのだ。


 それだけではない。 

 冒険者ランクも上がっていた。

 

 魔王軍が攻めてくる前はBランクだったのだが、魔王軍を倒した後にはAランクへと昇格。

 そしてそのすぐ後に功績を国から認められてAランクからSランクへと昇格した。


 Sランクとはなんぞや、と最初は思ったのだが。

 それは国が認めた伝説の称号らしい。

 

 与えられるのは百年に一人いるかいないかというすごい称号だ。

 Sランク冒険者となった者は勇者と呼ばれて国中から慕われる。

 あらゆる公共施設で優遇をうけるばかりか、国からの支援も手厚くもらえるらしい。 

 すごい立場になってしまった。


 今回、魔物の大群を倒して街を救ったばかりか、魔王軍四天王の一人をたおしたことによって、Sランクを与えるほどの価値のある人物だと認められたらしい。


 さらには国から偉業に対する褒章として大金ももらった。

 かなりの額を得ており、もう一生遊んでくらしていけるほどの金だ。


 Sランク。

 勇者。

 大金。


 一月前までDランクの普通の冒険者をやっていた身からすると、今の状況が信じられない。

 夢でも見ているかのようだ。


 そして、得たのは称号だけではない。



「今日もかっこいいなぁ、ユーリさんは」

「さっすが魔剣使いだ。その立ち姿も凛々しい」

「彼に一杯おごらせてくれ。あいつは俺の命の恩人なんだ」



 俺が冒険者ギルドに顔を出すと、このような声がどこからともなく聞こえてくる。


 周囲の冒険者が俺にたいして言っているのだ。

 

 この街にいる冒険者は全てあの魔王軍との戦いに参加した者。

 当然、俺の戦いも見ている。

 いやそれどころか俺が助けた人物も少なくない。


 俺に対して感謝の意や尊敬の念を表す冒険者も多い。


 というか街にいる普通の人よりも、どちらかと言えば。

 彼ら冒険者の方が俺を英雄視している人が多い。


 俺が実際に助けたのだから、そう思う気持ちもわからないでもないが。

 逆の立ち場なら、俺だってその相手を英雄視していたことだろう。


「はは……」


 彼らの声に手を上げてこたえる。


「うおお! あのユーリさんが俺に手を振ったぞ!」


 すると冒険者たちが歓喜の声を上げる。

 こうすると、彼らは喜んでくれることを一週間でよくわかっている。



「やあ、魔剣使いのユーリ君ではないか」


 そしてギルドにはAランク冒険者のジェットさんもいた。


「ユーリ君。君おかげで僕は助かった。礼を言わせてくれ。ありがとう」


 ジェットさんはダークに敗北して街の外壁まで吹っ飛んでいた。

 動けなくなっていたところを魔物に殺されそうになっていたのだが、間一髪俺が助けに入ったのだ。


「いえ、当然のことをしたまでです」


「当然のこと、か」


「ええ。魔物に襲われる人を助けるのが、冒険者ですから」


「ふふっ。なるほどな。その強さに加えて、謙虚さまで持っているとは。実力に見合う器の大きさだ」


 ジェットさんは感心したように頷く。


「君の強さと気高さを知って、目が覚めたよ。僕もAランク冒険者と持ち上げられて調子に乗っていたようだ。今回の件で自分の未熟さを思い知ったよ。傷が癒え次第、一から鍛え直すとしよう」


「ええ、がんばってください」


「ああそうだ。君に渡す物があったんだ」


「?」


 ジェットさんは懐から何かを取り出す。


 それは短剣だった。


「命を助けてくれたお礼として、これを君にあげたいと思っている」


「これは……」


「少し前にダンジョンで手に入れた短剣だ。なんでも聖なる加護を持っているらしく、その短剣は所有者の命を守ってくれるらしい。僕がダークの攻撃を受けても生きていたのはその短剣があったからだと思っている」


「いや、そんな大切な武器はもらえませんよ」


「いや持っていてくれ。命の恩人である君にはそれくらいの感謝を示したい」


「でも俺には魔剣がありますので」


「知っているさ。君の魔剣の強さを疑ってはいないし、あれに比べればこの短剣が劣る武器というのもわかっている。これはサブの武器か、いざという時のお守りにでもしてくれ」


「はあ……」


「要らなかったら売ってもらっても構わない。いや、勇者となった君はもう既に十分なほどの褒章を得ているんだったか。まあ、好きに扱ってくれ」


 ジェットさんの目的は果たしたらしく、「今日はもう帰るとするよ」とつげた。 


「君と次に会う時までには、僕はいまよりもずっと強くなろう。少しでも君に近づけるようにね」


 晴れやかな表情をして、ジェットさんはギルドを去って行った。


 それを見送りながら、俺は受付の方へと赴く。



「ユーリさん! 今日も魔物の討伐に行くんですか?」



 俺がギルドの受付に行くと、受付嬢が目をキラキラさせて話しかけてきた。


 ミレイさんではない。

 別の職員だ。

 

 魔王軍の一件以来、俺はギルドで女性職員から話しかけられることが多くなった。


 ギルドにいる若い女性職員全員から最低十回以上は話しかけられていた。


「ぜひ私のところで受付してください」

「あ、ずるい。今日は私が受付します!」

「あんたは昨日もやったでしょ!」


 女性陣がワーワー騒ぐ。


「ねえユーリさん。今日私の就業時間は夕方までなんです。そのあと一緒に食事に行きません?」

「私と一緒に食事に行きましょう。そしてその後は宿で一晩一緒に……」

「私だって、もう高級宿の予約もしているんですよ?」


 かなり直接的な誘い方をしてくる人もいる。


 そして、このような行動をしている人は何も受付嬢だけではない。


「ユーリさん。アタシと一緒にダンジョンに行きませんかぁ? 魔物の倒し方を手取り足取り教えて欲しいなぁって」

「下がりなさい小娘。ユーリ様はわたくしと一緒にダンジョンに行くんですの。冒険者であり貴族であるわたくしと一緒に」

「何を言っているんだ。ユーリ殿は私とパーティを組むんだ。どきなさい」


 女性の冒険者も、一緒に魔物退治に行こうと俺を誘ってくる。


「ちょっと邪魔しないでくれますぅ? 没落貴族に喪序の女騎士」

「なんですってこの小娘が!」

「誰が喪女だとこの頭と尻の軽いバカ女が!」


 とまあ、こんな風に俺を巡って争いが起こっている。



 街の人や冒険者からは英雄視され。

 女性陣からは食事や冒険に誘われる。


 魔王軍を倒して勇者と認められてから一週間。

 俺はこんな毎日を過ごしていた。


 正直に言うと悪い気はしない。


 少し前まで俺に見向きもしなかった人たちが、俺に対して尊敬や好意の目を向けてくる。

 その変わり身の早さに抵抗感を示す者もいるかもしれないが、俺は嫌いじゃない。


 彼らの行為は素直に嬉しい。



 金、権力、人望、女。

 俺は人が羨む物を、欲しがる物を、全て手に入れたと言っても過言ではない。


 まさに順風満帆と言ったところだ。


 ただ、一つ問題があるとすれば。





『マスター。さっき魔剣(わたし)以外の女のこと見てましたよね。どうしてですか??????』






 レーヴァがめちゃくちゃ嫉妬しまくる、ということだった。

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