第9話 VS魔王軍



「ずいぶん遅れてしまったな」



 魔王軍が現れたあと、俺は急いで街の門へと向かっていた。

 しかし辿り着く前にもうすでに戦闘は始まっていたらしい。

 

 魔王軍の元へたどり着いた時には、魔物はひとしきり暴れ回り、周囲の物や人に襲い掛かっていた。


 周りの冒険者も応戦しているが、AランクやBランクの魔物には歯が立たない。


 複数で相対しても、防戦一方であればいい方。

 なんとか逃げ回っているのが大半だ。

 その逃亡すら、長くは続かないだろう。


 少し前にミノタウロスに追い回されていた俺のように。



「まあ、あの時の俺よりは逃げられているけどな」



 とはいえ楽観視できる状況じゃない。

 すぐにでも方をつけなければ。


 暴れ回る魔物たち。

 その中のこちらに来た一匹をレーヴァで斬る。

 

 こいつは確かAランクの魔物のアラクネだったな。

 むかしだったら歯が立たない強敵だが、レーヴァを持つ今の俺にとっては敵ではない。



「馬鹿な、Aランクの魔物だぞ!」

「一撃だなんて……!」



 そのまま、周囲の魔物を殺していく。


 ランクなど関係ない。

 一振りで全て殺して進む。



「なんだあの強さ! Aランク、いやそれ以上の実力じゃないか!」

「いったい誰だあいつは」

「ジェット以外に、あんな強い冒険者なんていたのか?」

「知っているぞ。あれは最近活躍している冒険者だ」

「名前はたしか、えーと、【魔剣使い】のユーリ・クローター」




『魔剣使い。何度聞いてもいい名前ですねマスター♪』



 周囲の冒険者の声を聞き、レーヴァがうっとりとした声で話しかけてくる。



『魔剣の私と魔剣使いのマスター。まさにお似合いの二人です。私とマスターの素晴らしい関係が周りにも広まっているようで、とっても嬉しいです!』


「そう、だな!」



 レーヴァに応えながらも魔物を斬っていく。

 気にしている余裕がない。


 埒が明かないのだ。

 一体一体は一振りで殺せるが、数が多くて時間がかかる。

 これでは全て殺し切る前に街に侵入されてしまうかもしれない。



「どうにかして一気に倒す方法はないだろうか。魔物が互いに殺し合ってないということは魔人がどこかにいるはずだけど」


『マスター。あの緑色の老人が怪しいのではないでしょうか?』

 

「どこ?」


『あそこ、魔物の中心にいます』



 レーヴァが示した方向を見ると、確かに緑色の肌をした老人がいた。


 禍々しい雰囲気を発しているし、邪な顔で笑っている。

 確かに怪しい。



「あいつが敵のボスか?」



 ということは、あいつを倒せばここの魔物は制御を失うのか。

 仮に違ったとしても、他に手がかりがないんだから仕方ない。

 ひとまずアイツを倒すことにしよう。


 俺は緑色の老人の元へ向かって走る。

 老人はこちらの接近に気づいており、俺に目を向けた。



「次の冒険者はお主か?」


「ああ。Bランク冒険者のユーリ・クローターだ。【魔剣使い】って最近は呼ばれている」


 その言葉に、老人は目を丸くした。

 

「ほう、【魔剣使い】とは、また仰々しいあだ名じゃのう。名乗られたからには、名乗り返すとしようか。儂は魔王軍四天王が一人【闇の魔術】ダークじゃ」


 老人が杖をかまえる。


「儂の名前を知れたことをあの世で喜ぶが良い」


「死ぬのはお前だよ」



 俺は魔剣をかまえ、俺は周囲の冒険者に大声で告げる。



「皆、俺がこいつを倒す! その間に、魔物が街の中にはいらないように押しとどめていてくれ!」



「ほっほっほ、無駄じゃ無駄じゃ」


 ダークは笑いながら否定してくる。


「さっき似たようなことを言った冒険者はそこらで倒れておるよ。運が悪ければ魔物の胃の中じゃろうて。お主もそうなる」


「ならないよ。次の犠牲者が出る前にお前を倒すだけだ」


「ほう! 吠えるな若造。よいじゃろう、全力で相手してやろうか。『シャドウ・ハンド』」



 ダークが呪文を唱えると、俺の影から手が這い出てきた。


 数えきれないほど出てくる黒い手。

 それを――。


「無駄だ」


 俺は一振りで全て切り落とす。



「結構簡単に切れるな」


「少しはやるようじゃの。ならこれはどうじゃ? 『ダークネス・レーザー』」



 ダークの手の先から黒いビームが出る。


 かなりの威力があるだろう。

 当たれば俺程度ならひとたまりもない。

 しかし、この程度の攻撃ならばレーヴァには効かない。

 権を一振りするだけで消し飛ばした。



「な、なんじゃと!? ならこれはどうじゃ!」


 ダークの体の周囲に、黒い球が五つ浮かぶ。


「五つ同時じゃ! 受けきれまい!」



 五つの球から、先ほどのビームが出てくる。


 それぞれ俺の頭、両手、両足を狙った攻撃だ。

 なるほどこれなら対処は難しいだろう。


 剣は一つしかないのだから、一つを防いだとしても他の四つが襲い来る。

 頭を守れば手足をやられ、それ以外を守れば頭をやられる。

 やっかいな攻撃だ。



「全部をまとめて消し飛ばせばいいだけだ」



 俺はレーヴァを振るうと、その余波だけですべてのビームが消え去った。


「……は?」


 その光景に目を丸くするダーク。

 渾身の攻撃だったのだろうか。

 いとも簡単に対処されてしまい、呆気に取られていた。



「は? なぜじゃ? 見間違いか? 今、当たっていないのに消えたぞ」


「見間違いじゃないぞ。当たる前に、剣を振るった余波だけで防いだからな」


「そ、そんなわけないじゃろう! わしの魔術が、そんな簡単に防げるわけがない!」



 激高したダークは、さらに魔術を発動させる。

 彼の周囲にあった球の数が増えて、十個になった。



「これでどうじゃ! 十個同時の攻撃じゃ! これをくらって生きている者はおらん! 『ダークネス・レーザー』」



 ダークによって、十の球から十の黒いビームが放たれる。

 

 それに対して、一回魔剣を振るう。

 そして先ほどと同じように、剣の余波でビームは消し飛んだ。



「あ、ありえん! ならば二十でどうじゃ! わしの出せる限界個数じゃ!」



 二十の球が出現し、黒いビームが発射された。



「同じこと繰り返しても意味ないだろ」



 同じような攻撃に、同じように剣を振り同じように防ぐ。



「そ、そんな。攻撃が、まるで通じない……。嘘じゃ、ありえん……」


「どうやら、さっきまでの余裕はなくなったようだな」


「……なんじゃと?」


 俺の言葉に、ピクリとダークは反応した。


「余裕がないって言ったんだ。まあお前の気持ちなんかどうでもいいか。次はこっちから仕掛けさせてもらう」


「ひっ……」



 小さくおびえた声を出してダークが後ずさりする。


 どうやら先ほどまでの攻防で、自分と相手の実力差を理解したのだろう。

 俺と相対するダークの顔は、絶望に彩られていた。



「行くぞ、レーヴァ」


『はいマスター♪』


 


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