紙片:誰がための物語か

 私の描く物語は、誰かの心に響いているのだろうか?

 そもそも物語なのだろうか?

 ただの説明になってはいないか?

 あの連中の言う設定集ではないのか?

 心が動く場面はあるか?

 心に残る言葉はあるか?

 すぐに思い出せる場面はあるか?


 私が挙げた名作の条件に則り、数々の名作を読み耽った。

 どれも心を打つものばかり。心を掴まれるものばかり。

 思考、妄想、考察、可能性。

 一話ごとに余韻に浸り、思わず読む手が止まってしまう。

 はたして私の描く物語に、そのような立派なものはあるか?

 間違いなく無いのだろう。


 毎日投稿を続けようとも、誰の記憶にも残らない。

 はたして望まれて読まれているのか?

 楽しみにされているのか? それともただの付き合いか?

 読まなきゃ報復されるから? そんなことはしないのに。

 いっそ投稿しないほうが、誰かの負担が減るのではないか?

 駄作を毎日投稿するんじゃねーよ。そんな声が聞こえてくる。


 栄光も証も夢と消え、もはやここには何も残っていない。

 もはや頼る先もなく、共に歩む者もない。

 天才、最高、百点満点。もう何も残っていない。

 夢の記憶など意味を成さず、奴らは成功の証しか見ない。

 消えた証に価値はなく、いったい何にしがみつくのか。


 何度も人間関係に破れ、物語を紡ぐ手も止まる。

 すでに大多数の善意は、大多数の悪意へと成り果てた。

 もはや慰めに意味はなく、絶対的な事実は覆せない。

 駄文、つたない文章、宴席の笑い話。それが私への評価。


 それでもしがみつくものがあるとすれば、それはあの人への報いのみ。

 一話五千字、一万字。とんでもない駄文を読んでくれた。

 十二万字で星九つ、そんな駄作を支えてくれた。

 おぞましい悪意に曝された私を、物語の中へと引き戻してくれた。

 唯一遺された証を思いだせ。それは掛けがえのない栄光だ。


 いつかあの人が戻ってくるまでに、創世神話を書きあげる。

 世界が今、動きだす。その瞬間を届けるために。

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