1-3:”何か”

「話、わかってくれたやろか。」

 西成さんがそう言った。俺の中で腑に落ちないところは幾つもある。そもそも、この世界・・・新世界はどういう経緯でできたのか。なぜ俺はマンホールの穴に落ちてこの世界に来たのか。あの穴は一体なんなのか。

 だが、今全部を訊いても仕方なさそうだ。西成さんも萩之組の運営で手一杯だろうし、その上で俺を助けてくれたのだ、余裕はないだろうし。

「・・・とりあえず、今のところはわかりました。俺、ここに向かいます。」

「うん、そうしい。・・・それとひとつ。」

「なんです?」

「そのカッコ・・・見るからに学生の子供や。服用意したったから、とりあえずそれ着とき。」

 そう言って西成さんが箱を数個出してくれた。どこまでも面倒見のいい人だな・・・

「ありがとうございます。」

 この人には、絶対に足を向けてられないな。恩人には、ちゃんと礼を言わないと。


 西成さんには、組長室の隣の別室で着替えるように言われた。ので、そっちの部屋で着替えた。

 服・・・といっても、黒のタンクトップにカーキのカーゴパンツ、重い安全靴に、なぜかカーキのヘルメットまであった。なんだ?これから俺は学生運動でも起こすのか?

 とりあえず、ヘルメットは被らずに持っておく事にした。手が塞がって煩わしいけど。鞄は私物をそのまま使えるとの事だった。抜き取られた物も無い。本当に西成さんは・・・萩之組は、潔白な組織らしい。

「ええやん、似合におとるわ。」

「ありがとうございます・・・でも、このヘルメットは・・・」

「それは持っときや。」

 ヘルメットの事を訊くと、西成さんはまるで親が子に言うかの如く、俺に言った。

「それは絶対に、後々役に立つハズやから。」

「はぁ・・・わかりました。」

 このヘルメットが、ねぇ・・・。後々、俺の身に何が起きるんだろうか。

 思えば、東京の高校に居た頃とはまた別の憂い方をしてるな、今は・・・。


「ほな、気ぃつけや。」

 西成さんは上新庄と井高野と一緒に表まで送ってくれた。

「はい、なんとかやってみます。」

「まぁお前が元気やったら、またどっかで会う事もあるやろ。達者でやれよ!」

「次会う時は仕事仲間やなぁ!」

 相変わらず、井高野は平等に話してくれるが、上新庄はどこか偉そうだ。気に食わん。気に・・・ん?

「・・・そういえば。」

「あら?どうしたん?」

「今気になったんですけど、もう一人の方は・・・?」

 そういえば、西成さんの話では、確か”もう一人”面倒を見ている人がいるハズだが・・・

「あぁ、あの子なら今外回りに出てるんよ。気にせんで大丈夫。」

「そう、なんですね。・・・その人が帰ってきたら、よろしく言っておいてください!」

 俺は元気を出してそう言った。そう言うと同時に、心を整理して、ちゃんと覚悟をした。

 この先、色んなことが起こるんだろう。それが例え、俺が嫌だと思っている事だとしても、だ。だが、この新世界に居る間はそんなことでビクビクしている暇は無い。ましてや、いつもの様に未来を憂う余裕も、無い。だから・・・

「俺、頑張ります!頑張って、生き抜いてみます!それでは!」

 しゃんと、胸を張って、背筋を伸ばして、応えなければ。

「うん、頑張りや!」

 西成さんの最後の一言を背に、俺は地図を見ながら・・・といっても、全然地理はわかんないんだが・・・とりあえず、歩いて行った。


「・・・行きましたね。」

「・・・やっぱり、あの子やったら変えれると思うわ。」

「変えれる?帰るの間違いやのうてですか?」

「うん。まぁ・・・その内わかるんとちゃうかな・・・」

 上新庄、井高野と西成がそう話す。その後ろで、それを聴いていた一人が、こう訊ねた。

「あの雑魚みたいな奴が、何を変えるんですか、組長。」

「あら、帰ってきてたんやね。」

「白々しい。最初から最後まで、全部陰に隠れて、見てた上に聞いてました。」

「ほな、わかるやろ?あの子が・・・」

「アイツとアタシと、何がちゃうんですかッ!」

「お前、組長に向かって・・・」

「やめぇ、上新庄。その癖、治し。」

「・・・すんません。」

「そんなに気になんねやったら、確かめに行ったらええやないの。」

「・・・いいんですか。」

「私はええよ。」

「・・・わかりました。」

 そう言って、その”女の子”は歩いて行った。

「・・・アイツ、拾うてからえらい経ちますけど、態度でかなりよりましたなぁ。」

「アンタが言いなや、上新庄。」

「・・・へぇ。すんません。」

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