2-1:新世界の"VISITOR"

 西成さん達に送られてから、30分程。

 本来ならついてるハズなのに、道が分かんなくて困ってます。どうも、東です。

 いや~、慣れない土地ってわかんないよなぁ。スマホ見ても意味ないし。そもそも電波飛んでないみたいだし。

 西成さんからもらった地図・・・は、小さすぎてどこをどう描いてるのかよくわかんないし。

 いや~~、訊くしかないよなぁ。道。でもなぁ、ここまで来る途中に何回も胡散臭い奴らに声かけられたしなぁ。しかも大体何語かわからん。多分中国語。時々、どこかわからん語。日本語で訊いて、マトモに返事が返ってきそうな人、全然いねぇんだなぁ、これが。

 でもまぁ、訊かないなら訊かないで気合で辿り着くしかないよなぁ。キツいなぁ。

 そもそも、ヘルメット邪魔。安全靴重い。いい加減疲れるぜこの格好。炭鉱夫か何かかよ、俺は・・・。


 ・・・ダメだ、訊くしかない。なんかマトモそうな人に訊こう。・・・ほら、いるじゃないか。あんまり人は寄ってないけど、お見せ出してるあの男の人。あの人に訊いてみようそうしよう。

「あの・・・」

「あん?」

 あぁ、忘れてた。ここ、飽くまで大阪なんだよなぁ。しかも、その裏の世界だしなぁ。こういう対応、むしろフツーだよなぁ。

「えっと・・・ここに、行きたい・・・んです・・・が?」

「あぁー、なんや、ぎこちない思たら・・・」

 うげ、東京だってバレたらなんかされるんじゃねぇか・・・?こういう時のヘルメットなのか・・・?とりあえず被っとこ・・・。

「中国か。」

 違ぁぁう!いやまぁ、確かにアジアよ?日本もアジアよ?けど漢民族の顔立ちでは無ぁい!

「あー、えと、その・・・」

「あぁ、ええんやええんや、まぁよう聞きや。」

 そんな肩ポンポンされながら言われましても。まぁ聞きますけども。

「この道あるやろ。ここをスッって行ったら左に曲がる角あるから、そこ曲がってバーッと行った所にあるわ。行ったらわかるよ。アーユーオーケイ?」

 Oh...MechaMecha,About...いやいや、話には聞いてましたとも。ええ、大阪人の道案内がアバウトな感じだとは。でもなんかこう、もうちょっとないですかね、伝え方。スッって行くって何?スッて行かないと左に曲がる角に出ないの?バーッとって何?そんなに勢いいります?それ。

「せ、センキュー、ソーマーッチ・・・」

「いやいや、ノープロブレム!いつでもまた訊きにおいでや!」

 いいや、結果オーライ、アバウトだけど大体の道は分かった。あとは行くしかねぇ。行けばわかるさ。スッと行ってバーッと行くぞっ!


 それから5分。あっけなく着いた。あれほど道に迷った30分は何だったんだ?あの30分を返してはくれないか、神様よ。

 地図には・・・”万事恵美須えびす屋”って書いてあるし・・・目の前の崩れかかった木造一軒家の看板にも、掠れた文字でそう書いてある。インターホンは・・・外れかかってるけどあるな。ポチッとな。

『・・・シュコー・・・・・・はい。』

「あ、あの、西成さんの・・・」

『シュコー・・・シュコー・・・』

「紹介で来まして・・・」

『・・・シュコー・・・あぁ、・・・シュコー・・・例の”ビジター”ね。』

 なんだろう、”シュコー”って音。なんかダー〇ベイ〇゛ーみたいな音聴こえてたけど。

 20秒くらいしてからだろうか、ボロボロの戸の鍵が開く音がして、声の主が現れた。

 俺よりも身長が50センチは低いだろうか、見た目は70代くらいの男性で、全身黒ずくめで、これまた黒いマントを着込んで、口には呼吸器が付いている。これが例の”シュコー”という音を立ててるのか。

「シュコー・・・東くん、やろ。」

「あ、はい、話が速くて助かります・・・」

「話が速いんがええんやったら・・・シュコー・・・早速仕事を・・・シュコー・・・受けてもらおか・・・」

 うーん、話が速すぎる。いくらなんでも追いつかないぞ、そりゃ。

「と、とりあえず、お名前とか・・・」

「あぁ。・・・シュコー・・・わし、”恵美須”な。上にも書いたあるやろ。・・・シュコー・・・」

「恵美須さん、ですか。わかりました。で、その、早速のお仕事って・・・」

「シュコー・・・まぁ簡単に言うなら・・・”借金の取り立て”や・・・シュコー・・・」

「取り立て、ですか。」

「シュコー・・・うちは万事屋や。シュコー・・・金貸しもやっとんのや。」

「はぁ、わかりましたけど、どこに迎えば?」

「シュコー・・・西の方の労働者団地住宅群の一室や。シュコー・・・頼んだで、”ビジター”。」

「・・・あのー。」

「ん、なんや。・・・シュコー・・・」

 さっきからどうも引っかかって仕方のないワードがあるのだが・・・

「”ビジター”ってなんです?」

「・・・・・・シュコー・・・これは仕事よりも先に・・・・・・シュコー・・・説明がいるなぁ・・・シュコー・・・まぁ、中入れや。」

 そう言われて、俺は恵美須屋の中に入った。


 内装はまぁ・・・想像通りというか、シンプルにボロっちいというか、ガタが来てるというか。

「そこ、座り。」

 恵美須さんが指さしたのは、ビール瓶を入れるよく見る箱だった。お尻が痛いけどまぁ、椅子がないよかマシか。

「お前・・・シュコー・・・右手、見せてみ。」

「右手・・・」

 そういえば、上新庄にスタンプで焼かれたっけか。

「"VISITOR"。・・・”外来者”言う意味や。」

「外来者、ですか。」

「この刻印・・・まぁ・・・シュコー・・・刺青に近いんやけど・・・それさえありゃ、ここでの身分証明になる。」

 確かに、上新庄もそう言ってたっけか。

「逆に言えば・・・シュコー・・・その刻印がある奴は、特例での滞在扱いになる・・・シュコー・・・」

「特例、ですか。」

「せや。企業、組織。そんなんが利用するために付けとくツバみたいなもんや・・・シュコー・・・」

「ツバねぇ・・・」

 つまり、これがある限り俺は苦力になる事は無い、か。でも、モヤモヤするなぁ。

「とりあえず・・・シュコー・・・訊きたいんはそんだけか。ほな・・・シュコー・・・ここ行ってこい。」

 と、恵美須さんが地図をくれた。今度は分かりやすい、団地の3階の312号室とまで書いてある。借用書もバッチリ受け取った。

「まぁ・・・シュコー・・・・・・仕事にトラブルはつきもんや・・・シュコー・・・気ィ引き締めていけよ。」

「・・・うっす。わかりましたっす。」

 こうして、俺の新世界での初仕事が、始まるのだった。

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