0-3:ようこそ、新世界へ

「・・・・・・・・・い。・・・・・・るか。」

 なんだか叫び声がする。そういえば、俺はマンホールの穴に落ちて・・・

「意識・・・・・・やぞ・・・・・・にかく・・・・・・」

 あぁ、助けが来たのか、と思って目を開けた。すると、目の前ではガスマスクを着けた軍服みたいな服の奴が二人、俺の荷物を漁っていた。

「・・・ん?」

 俺が一言発すると、気づいたらしい片方の奴が俺の方に寄って来た。

「大丈夫か?」

「あ・・・えっと・・・」

 不思議と痛くはない。気を失っていたのは確かだが・・・

「まぁ、大丈夫・・・です?」

「なるほど。で?どうやってここに?」

「・・・ん??」

 たちまちワケが分からなくなる。いや、最初からワケが分からなかったのだが。というのは、アレか?なんで落ちちゃったかの原因を話せばいいのか?

「えっと・・・友達にハメられたというか・・・」

「ハメられたって・・・お前、別に襲われた感じやないやんけ。」

「・・・・・・ん???」

 いや、別にられたというのはそういう意味合いではなく・・・アレか?この二人は、馬鹿田の言うところの売れない芸人って奴か?

「大体、それだけでここに来れるワケないやんけ。お前、どっから来てん。」

「どこ・・・えっと・・・東京の・・・」

 と、俺が言おうとすると、途端に話してる方の奴の態度が変わった。

「かーッ!なんやお前、東京の人間かい!」

「え?そう、ですけど・・・」

「ほななんや、アレか?偶然ここに来てしもたんか?」

「あの、なんというかその・・・」


「おい、コイツ学生やぞ。」

 俺がどういう事か訊こうとあたふたしていると、俺の荷物を漁っていた奴の方がそう言った。どうやら俺の学生証を見つけたらしい。

「あー?通りでこんなカッコなワケやな。めんどくさっ。」

「め、面倒くさいって、そんな・・・」

「やかましなぁ、こっちはこっちの仕事しとんねん。めんどくさいに決まってるやろ、ただでさえ東京から来た奴やのに、その上学生て。久々やわ、こういうの。」

 なんというか・・・態度が悪いな、コイツら。俺を助けに来た割には。

「・・・あん?なんやお前、”コイツら、僕を助けに来た救助隊なのに、態度悪いな”みたいな顔しよって。」

 そんなに顔に出てたか。

「・・・でも、その通りじゃないですか。」

「・・・けッ、コイツ、まーだわかっとらんで。」

「まぁ、しゃーないやろ。高校生のガキが、こんなとこきて目ぇ覚ましたらコレやねんから。」

「・・・あのう、どういう事です?」

「お前、ホンマになんもわかってへんねんなぁ。ほな教えたるわい。とりあえず、こっちいや。」

「え?あぁ、はい・・・」

 男の片方が手招きをする。まだ手足が覚束ないが、その男の方へと立ち上がって歩いて行った。男の片手には、いつの間にか、なにやら柄のついたスタンプの様なものが握られていた。

「手ェ、出し。」

「手?」

 そう言われたので右手を差し出した。すると男は乱暴に俺の手を握ってギュッとくだんのスタンプを俺の手の甲に押し付けた。その瞬間、”ジュッ”という焼ける音と共に、激痛が走る。

「熱゛ッ・・・!」

「あー、まぁやっぱ声出るか。でもまぁこれで、大方手続きもしまいや。」

 男が俺の手を離す。何をされたのか、右手の手の甲を見てみると、ヤケドの跡で”

 ”VISITOR"と書かれていた。文字が書かれているところが、まだヒリヒリする。

「まぁ、こっから先の身分証明みたいなもんや。痛みぐらい、安いもんやと思とけ。」

 男は淡泊に言い放ちやがった。ただでさえ、未だ何も状況を呑み込めてない俺に。

「ほれ、こっち来い。」

「ちっ・・・」

「舌打ちすな。これでもお前はまだラッキーな方なんやから。」

 ラッキー・・・?何がだ・・・こんな事されといて、ラッキーもクソもあるか。

「ええから、はよ来い。」

 男にスタンプの柄で小突かれる。これが救助・・・な、ワケないよな。今更。


 男に言われるがまま、暗い道を付いて歩いていくと、分厚そうな、金庫のソレの様なデカい鉄扉の前に着いた。

「あの、ここは・・・?」

「ええから、扉の前、はよ立て。」

「ここやここ、線描いてるやろ?」

 あまり喋らなかったもう片方・・・俺の荷物を漁っていた奴が、道を指さす。確かに、黄色い線が描かれている。

 こうなったら、流れに身を任せた方が良い。これで死ぬなら、仕方ない・・・と、割り切るしかない。死にたくないけど。

 俺が黙ってそこへ立つと、男が壁の操作盤のレバーを操作した。すると、重々しい音と共に鉄扉が開く。鉄扉が開ききって、その向こうの景色に驚愕する俺に向かって、二人の男が同時に言った。

「「ようこそ、新世界しんせかいへ。」」

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