第25話


 「かかってこねえのかよ?じゃあ、こっちからいくぜ!」

魔物が両腕を一旦身体まで引き、私にむかって突きだしてくる。

「この、空気砲でもくらいやがれ!」

 

 空気の塊が私にむかって飛んでくる。

ウインド

かまいたちで塊を粉砕する。

 

 「なかなか、やるじゃねぇかこれならどうだ。水針攻撃!」

左手のひらの指を伸ばして、上から下へと振り下ろす。

水が何本もの針になって飛んでくる。

 

 「風」

両腕を目の前でクロスさせ、針にむかって振り払う。

針は地面に落ち、そのまま水に戻って吸い込まれていく。

「ほう、そうくるか」

 

 「水龍、出でよ!」

左手を下から上へと振り上げる。

大きくて長い、牙を持った巨大なモノが私にむかって迫ってくる。

 

 「風。変異ミューティション、大剣へ」

巨大なモノの首と思われる部分を切り落とす。

その瞬間、水に戻ってしぶきがかかる。

 

 この魔物……まだ三種類の攻撃しか受けてないけれど、水の攻撃の時は二回とも左手だったわ。

絶対とは言えないけれど、試す価値はあるかも。

 

 「風。変異、かまいたち」

いつもはかまいたちは手を動かして作るけれど、今回は複数の小型のかまいたちを作り出し、左手に集めた……ひとつだけ、右手に隠して。

 

 「やあっ!」

かまいたちを投げつける。

「そんなひょろひょろで当たるもんか。これくらい片手で十分だ。バリア」

指を開いた右手を前につきだす。

 

 目は、かまいたちを捕らえている。

(今よ!)私は隠し持っていたひとつを下がったままの左手に投げつけた。

ザクッ!

 

 左手が切り落とされて、地面に落ちる。

「ぐあっ!きさま、よくもおれ様の手を。水龍出でよ!」

 

 水龍は……出てこなかった。

思ったとおりだわ。

切れた部分からは、何も出てこない。

 

 これで魔物は風しか使えない。

アース。変異、球へ」

 

 地面の土が無数の豆粒大の球となって宙に浮く。

「風」

そして、風に乗っていっせいに魔物にむかって飛んでいった。

ズドドドドドド……

 

 魔物は、身体に無数の穴を開けた状態でもまだ立っていた。

立っているのがやっと、という感じだったけれど。

 

 「ぐぬぅ……これで終わりだと、おれは認めんぞ。なんのために、これまでの長い年月を耐えてきたと思っているんだ。イシュール様!待っていてください。ここにいる者どもすべての命をイシュール様に贄として捧げますから。どうか、どうかオレに新たな転生先を。魔物としてではなく正当な扱いを受けることができる場所への転生を!」

 

 さすがに、一番最初にニンゲンの姿のままで転生してきてただけのことはあるわ。

今までの魔物たちとは比べ物にならないくらい、しぶといし強い。

それに私たちとそっくりな姿をしているこの魔物を倒し滅するのは、自分の仲間を攻撃しているようで気が引ける。

 

 でも。

 

 「迷ってちゃだめだ!ユーリ。こんな姿をしているけど、こいつはぼくたちの世界にとっては異物。魔物なんだよ」

 

 そう。

異物。

この場所に存在してはいけないもの。

 

 贄としてさらわれ、命を落としてきた人たち。

その人たちの魂を慰めるために、魔物はすべて滅しなければ!

 

 魔物がゆらりと立ち上がる。

両腕を組み合わせて、攻撃を仕掛けてこようとする。

エア、……フレア

 

 スノウクロア様のパワーに少しずつヘイトス様の力を混ぜ込んでいく。

その力を、右手に集める。

 

 「これでも、くらえ!」

魔物が波動を投げつけてきた。

「それはこっちの台詞よ!変異、雷へ!」

 

 かまいたちとは逆。

右手を上から下へと振り下ろす。

 

 バリバリバリ!

作り出した雷の矢がが魔物の頭から刺さり身体を地面に串刺しにした。

 

 「ぐぁぁぁぁ……」

雷に焼かれた魔物の身体は黒く焼け焦げ、ゆっくりと地面に倒れこんだ。

身体からは煙が立ち上り、やがて消えていった。

 

 「終わった……気配が消えたようだ」


 とうとう、すべての魔物を滅した。

森の奥の広くなった場所。

魔物がすまっていた場所に、私たちだけが立っていた。

 

 私とユウリ。

お父様をはじめとする魔法師たち。

神官たちに呪術師様たち。

 

 みんながいてくれたからこそ、最後の魔物を滅することができた。

 

 「苦しい戦いではあったが。やっと、魔物たちを滅することができた。感謝するぞ、ふたりとも」

神官長がねぎらいの言葉をかけてくれる。

 

 「あとは……首謀者を滅することができればよいのじゃが」

「どこにかくれているやら。魔物どもがあがめていたというのなら、奴らが住んでいたこのあたりにいるはずだ」

神官長とお父様があたりの気配を探る。

 

【……おまえたちか?われの駒をだいなしにしおったのは】

突然、低くくぐもった声が聞こえた。

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