第26話
目の前には、恐ろしいほど大きい、フードつきのマントをまとった不気味な骸骨が立っていた。
魔物たちとは違う、ずっと強力な禍々しい気配を隠そうともしない。
【ふん……小僧に小娘か。お前たちのような下賤のものがわれの邪魔をするとはな】
地の底から響くような声。
空気までもがビリビリと震える。
「あんたが、イシュール」
【イシュール様と呼べ、下賤の者が】
「どうして、魔物たちを使って、私たちの仲間をさらわせたの?」
【
「なぜ、そのようなことを!」
【われの力を増すために決まっておろう?われは、星域すべてを総べる存在になるのだ】
「そんなことのために?魔物に私たちの仲間をさらわせて、贄として捧げさせてたの?」
【当然だ】
「贄とするには……命も奪わせてたんでしょう?どうしてそんなひどいことをさせるの?」
【彼奴らは、所詮は犯罪者。もとより生まれ変わりも転生もできぬ卑しい存在。だが、かような者どもに限って欲だけはすさまじいからな。そこを利用させてもらったまでよ】
「ひどい……さらに罪を重ねさせるだなんて」
【それはわれの責任ではない。われが流したデマを勝手に信じて、勝手に行動した彼奴らが愚かだったということよ】
なんて……ひどい。
これでも神の一員だというの?
【この星の者の魂はエネルギー効率が高いからな……喰らうた中で一番旨かったのは神官とかいう奴らだったか。われの力を増加させるには都合がよかったのだ……まだまだ足りぬがな。あの隙間をわれが見つけたということは、われに星域全てを総べよという思し召しに相違なかろう】
なんて……自分勝手な。
【死を司るからという単純な理由だけで、他の神どもに一段低く見られ,虐げられ続けたわれの思いなど、お前のような下賤の者にはわかるまい】
虐げられ……。
チクリと胸が痛む。
それは、私。
つらい記憶がよみがえる。
でも、だからって。
「そんなもの、わかるもんですか。ううん。わかりたくもないわ!」
相手は、死を司る。
おそらくは“闇”に属するもの……相反するものは“光”。
「
極限まで力をため込む。
ため込んだ力で、私は輝く球体を作った。
「はあっ!」
イシュールの胸あたりを狙って投げつける。
ガシッ!
「あっ!」
渾身の力で投げた球体は、ぶつかる前に受けとめられてしまった。
……魔物だったら、一発で滅せられる力で投げたのに。
【こんなもの、われに効くと思うたか。馬鹿らしい……ほれ、返してやろうではないか】
イシュールが手に持った球を投げ返してきた。
バシィッ!
光の球が私を直撃した。
「ああっ!」
イシュールを襲うはずだった攻撃が、そのまま私に返ってきた。
衝撃で飛ばされた私は、地面に打ちつけられる。
「う……っ」
痛い……苦しい……立ち上がれない。
【ふん。もう終わりか?期待はずれなことだ。それでも、お前ほど力がある者の魂を取り込めば、われの目的を達する日も早まるというもの。潔く贄になるがよい】
イシュールが、空中から槍を出してふりあげ、倒れて動けない私を突き刺そうとした。
グサッ
槍が何かを刺す音がした。
でも……痛みを感じないのは、何故?
ポタッ……ポタッ……
赤いしみが私の顔の横に広がっていく。
「よかった、ユーリに刺さらなくて」
ドサッと私の横に倒れこんだのは……。
「ユウリ!」
私の声に薄く笑い、そのまま目を閉じてしまった。
「いや!!ユウリ!目を開けてよ!!」
「ユーリ!お前はお前の使命を果たせ!」
叱咤する声が聞こえた。
「お父様……」
「ユウリは……儂たちで何とか治療しよう。まだ、息があるから望みはある。おまえは、ドラヴァウェイとしての使命を全うしろ。……儂が成しえなかった分も!」
そうだ。
私は、ドラヴァウェイ。
ユウリとふたり選ばれたドラヴァウェイ。
刺されようとした私をかばって刺されたユウリの分も、使命を果たさなくちゃ。
イシュールは、確かに強敵。
魔物たちと違って神という存在なのだから、あたりまえだけど。
でも、なにかひとつくらい弱点はあるはず。
考えて。
考えるのよ、ユーリ。
イシュールは死の神───闇。
だから生───光の象徴ともいえるスノウクロア様の力を使わせてもらったけれど……効かなかった。
生以外に、死に対抗できるものは??
「愛に勝るものは、ありませんわ」
いつ、誰から聞いた言葉だったろう。
そんな言葉が胸をよぎった。
そう、あれは美と愛の女神テラネーア様。
修練を終えた時、元に世界に戻る私たちに、そう言ってくれたわ。
そして……。
私の胸元には一本のピンが刺さっていた。
ピンクの石がはめ込まれたピン。
テラネーア様からの贈り物。
もしかして使えるかも?
「空」
私は唱えて、体中に満たした力で白く光る剣を作り出した。
スノウクロア様の核から作りだした強力な剣。
そして、その剣にさらにパワーを注ぎ込むために唱えた。
「
剣は淡いピンクの光を帯びて輝いている。
「私は、確かにデキソコナイ。でも、死者をも愚弄するあんたなんかよりは、ずっとマシだわ」
手は出せないまでも、見守ってくださっている神々の存在を感じる。
そして……お父様も。
それよりも何よりも、大切なユウリ。
みんなが住むこの世界を、守りたい。
私は渾身の力を込めて剣を投げつけた。
「
剣が勢いを増す。
ガッ!!
剣は……イシュールの胸のあたりに命中した。
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