第24話

 本当に、二体いる。

一体はごつごつとした、岩のような見かけをしている。

そしてもう一体は群青色で光沢がある身体だ。

 

 でも。

 

 「なにか、違う」

「うん。ぼくもそう思う」

魔物は魔物だけど、いつもと何かが違う。

 

 「殺気!殺気って言うのかな。いつものような襲ってやる的な気配がないんだ」

 

 前の二体の魔物からは、私たちをさらってやるんだという意志?のようなものが感じられたけれど、今日の二体には感じられない。

ユウリがいつものように魔物を確認スキャンする。

 

 「信じられない……〈タスケテクレ、モウイヤダ〉って」

「たすけてくれ、ですって?」

 

 「助けてって、どういうこと?」

ユウリが魔物に聞いた。

言葉が通じるかはわからないけれど。

 

 ユウリが魔物の確認を続ける。

かなりの時間が経ち、ユウリが疲れた顔をして私を見て言った。

「あの魔物たちは……自分たちを死なせてくれ、と思っているんだ」

 

 「うそでしょう?どういうこと?」

ユウリは、魔物たちから確認したことを伝えてくれた。

 

 「彼らは、もう転生なんてしたくないって。昔、何人かをにえにするために攫ったことは悪いと思っているが、もうずっとやっていない。そんなことで再転生できると信じたなんて愚かなことだった」

 

 「自分たちの前に出ていった二体は、贄を攫うために出ていったが戻ってこなかった。きっと以前侵入した神官が教えてくれたとおり、滅するものがあらわれたのだろう。だったら、自分たちも滅してほしい。

 

 「こんな姿で、魔物として存在し続けたくはない。事故に遭ったあの時、転生なんて願わなければこんなことにはならなかったんだ」

 

 「神官にチキュウのことを教えたのは自分たちだ……いつか滅してもらう日のために。もう森の奥には、一番最初に転生したリーダー気取りがいるだけだ……って」

ほんとうに?信じられない!

 

 でも、目の前の二体は、無防備に立っているだけ。

魔物から滅してほしいと頼まれるなんて、思ってもみなかった。

無抵抗の相手に攻撃を加えるなんて。

 

 「ユーリ、気持ちはわかるけど。あいつらもぼくたちの仲間を攫ったことを忘れないで」

 

 そうね、攫われた人とその家族にとっては憎いかたき

「わかったわ。ユウリ、属性と弱点を教えて」

「ごつごつした方の属性は地、弱点は頭。光る方は水で、弱点は首だよ」

 

 「あなたたちの願いを叶えるわ。どちらを先に滅したらいいの?」

ごつごつした方が一歩後ろに下がる。

それを確認して、光る方が軽くう なづく。

 

 「ウインド変異ミューティション、鎌へ」

苦しまないように、一瞬で。

そんな願いを込めて、風の鎌で魔物の首を切り落とした。

 

 魔物が煙となって消えた同じ場所に、ごつごつした魔物が進み出る。

恐ろしい顔つきなのに、穏やかな気配が感じられる。

フレア

 

 両手のひらを魔物に向け、炎を噴射し魔物を包む。

アース。変異、大球へ」

炎で黒焦げの頭をめがけて大球を投げつける。

 

 球が頭に命中した直後にばらばらに崩れ、煙となって消えさる時、かすかにアリガトウと聞こえたような気がした。

「ユーリ、よく頑張ったね」

ユウリがそっと頭をなでてくれた。

 

 「さっきの情報によると、森の奥には最後の一体がいるだけらしいな」

二体同時ということで驚いて駆けつけていた神官長が言った。

「このままこちらから攻め入ろうと思うのだが、そなたたちはどう思う?」

 

 「それがいいと思います」

ユウリが言い、私もうなづいた。

 

 「儂たちも同行しよう」

「お父様!」

魔法師たちを従えたお父様が立っていた。

 

 「実際に魔物を滅するのはユウリらドラヴァウェイだが、何が起こるかわからんからな」

ということはお父様が、私をドラヴァウェイとして認めてくれた?

 

 そして私たちふたり、魔法師団、神官団、そして呪術師団……20名ほどで森の奥を目指した。

 

 森の奥には、開けた場所があった。

 

 そしてそこには、最後の魔物がいた。

 

 ───最後の魔物。

その魔物は今までの魔物の姿をしていなかった。

私たちととても良く似た姿かたち。

魔物たちの元の姿……チキュウのニンゲンは私たちと似た姿とは聞いてたけれど。

 

 「てめえたちがおれ様の子分どもを、しやがったのかよ?」

 

 「言葉が、話せる?!」

「当たり前だ。おれ様は天才なのさ。てめえたちの言葉を覚えるなんて朝飯前ってことよ」

 

 「四千五百年もここにいればバカでも覚えると思うけど」

ユウリがぽつりと言った。

 

 「あいつらがいなくなったと思ったら、おまえたち獲物の方から来てくれるとは好都合だ」

「誰が獲物ですって!」

 

 「落ちついて、ユーリ。あいつは厄介そうだよ。属性は風だけど、かなり強力そうだ。そして少しだけど水も感じとれる」

「二つの属性?!」

 

 風と水……地と風で対抗しないといけないのね。

「危ないから、さがっていて。ウインド

みんなの前に、風で壁を作る。

 

 地と水の壁は、今回は役に立たない。

「はぁん。なかなか小癪な技を使うじゃねぇかよ、しょんべんくせえ小娘のくせに」

 

 「うるさいわね、極悪非道の罪人のくせに」

「極悪非道!いいねえ。おれ様にとっては最高の誉め言葉だよ」

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