第21話

 学校でも……だれも信じてくれなかった。

 

 「ドラヴァウェイの修練っていって学校にこなかったけど、たった一週間じゃない。どうせ何もできなくって追い返されたんじゃない?」

「そのとばっちりでユウリも返されたってこと?」

「きっと、そうよ。あのデキソコナイのせいでね」

 

 チガウ……チガウ……チガウ……

 

 「ところで、ドラヴァウェイって何するはずだったの?」

「ほら、森の奥にすんでる魔物がいるでしょ?あいつらをやっつけるって話だったわ。お父様に聞いたの」

 

 「あなたのお父様って騎士だったわね。じゃあ、確かな情報だわ」

「そうよ。王宮も、騎士団もすごぉく期待してたんですって、そのドラヴァウェイに。だけど、たった一週間で追い返されたんじゃ、ねぇ」


 チガウ……チガウ……チガウ……

 

 「じゃあさ、そのドラヴァウェイがいないってことは……」

「ずーっと魔物におびえながら過ごさないといけないの?」

「そうなるわね……どっかのデキソコナイさんのせいでね」

 

 「頭にくるわね。ちょっとは責任感じてるかしら?」

「そんな繊細なやつじゃないでしょ?責任感じてるんだったら、学校なんて来てられないわよ。私だったら、家にこもっちゃうわね」

 

 前以上に、みんなおおっぴらに悪口を言っていた。

授業中でさえなければ、先生たちもなにも咎めだてしなかった。

 

 ユウリがときおり心配そうな視線を向けてくるけれど、私は視線に気づかないフリをした。

……もしくは目顔で(何も言わないで)と制した。

修練で読心も会得してたから、きっとわかってくれるはず。

 

 毎日、毎日。

悪意に満ちた目をむけられる。

かげにひなたに、悪口を言われる。

 

 石を投げつけたりとかは犯罪になるから、ありがたいことに怪我をさせられることはなかった。

 

 呼び出しを受けることはあっても、さりげなくユウリがあらわれてされるまえに呼び出した相手は去って行った。

 

 意地悪には、慣れていた。

それでも───こうも続くと、さすがに心が折れそうになった。

学校でも、家でも心が休まるひまがない。

 

 そんなある日。

また呼び出しを受けた私は、裏庭に向かった。

呼び出して意地悪しようというんだからひと目につきにくい場所を選ぶのは当然だけど、いつもいつも同じ場所だなんて、ワンパターンだわ。

 

 「よく、来たわね」

「来て悪かったのなら、帰るわ」

「!なによ、デキソコナイのくせに生意気!」

 

 あぁ、うるさい。

私は風で乱れた髪を左手で整えようとした。

その動作で、袖口からブレスレットが見えてしまったらしい。

「あんた、生意気!デキソコナイのくせに、こんなアクセサリーつけて学校に来るなんて許されると思ってるの?」

 

 ブレスレットのこと、すっかり忘れていたわ。

「私によこしなさいよ。あんたなんかより、私の方がそのブレスレットにふさわしいわ」

「いやよ」

 

 「よこしなさいって言ってるのよ!」

呼び出した相手……以前私を突き飛ばしたカリナは私の左手をつかみ、ブレスレットをうばおうと手をかけようとした。

 

 ビシィッ 

 

 「痛っ!」

激しい衝撃音がした。

カリナは右手をおさえて痛がっている。

 

 「はユーリでないと装着できないものなんだ」

ユウリの声がした。

偶然をよそおうための小道具、じょうろを手にしている。

 

 「ちょっと、手を見せて」

ユウリがカリナに近づいて手を確認していた。

「ひどい火傷になっているけど、本来だったらこんなものでは済まないんだよ?カリナ」

 

 「おそらくもぎ取ろうと金属部分をつかんだと思うけど。もしも石の部分を触ってたら……カリナは今頃どうなってたかわからないよ」

そう言いながら、カリナの怪我した手をじょうろの水で濡らしたハンカチで包んであげていた。

 

 「ハンカチこんなことでは応急処置にもならないから、帰って、ちゃんと魔法師のところで治癒してもらうんだよ?」

「わ、わかった」

そう言って、私をキッとにらむとそのまま帰って行った。

 

 「資格がない者が手にすると、その瞬間に消え去る……か」

ブレスレットのパワーは知っているつもりだったけれど、手をかける前ですら火傷を負うなんて。

 

 「火傷のあとが残らないといいんだけど。ああ、それよりもユーリに用事があったんだ」

「私に?」

「うん。知らせておいたがいいと思って。今朝、森の夢を見たんだ。暗くよどんだ森の夢……だから起きてすぐに神官長に伝令を走らせたんだけど」

 

 「もしかしたら……ってこと?」

「うん。いつか、まではさすがに読めなかったけれど。おそらくは近いうちに」

「わかった……ありがとう」

 

 数日後。

授業を受けていると扉が開き、神官が入ってきた。

「授業中失礼する。ユウリ、ユーリ。魔物があらわれた。これより私と共に行動するよう」

 

 私はユウリを見た。

ユウリも私を見ている。

「はい」「はい」

同時に返事をして立ち上がる。

 

 ざわざわざわ……

クラスのみんながざわめいている。

なにを言ってるか想像はつくけれど。

 

 私とユウリは神官のあとについて教室を出た。

「ユウリ、そなたの夢見のおかげで早くに出現を発見できた。礼を言う」

「礼には及びません。ぼくの役目を果たしたまでです」

 

 魔物が出現したという場所は森のはずれだった。

 

 「神官長、ドラヴァウェイのふたりをお連れしました」

「待っておったぞ。ユウリ、ユーリ。あれが今回出現した魔物だ」

 

 神官と魔法師と数人ずつが魔物の前に立っている。

お父様は……来ていないのね。

私たちも神官たちと並んで魔物の前に立った。

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