第20話
「ユーリです。ただいま戻りましたので,ご挨拶に伺いました」
しばらく待っても、何の返事もなかった。
もう一度ノックする。
「帰ったのはわかった。さっさと自分の部屋に戻ってろ」
怒ったような声が聞こえる
帰宅のあいさつすら受け入れてくれないんだ。
どうせ受け入れてくれないからとあいさつに来なかったら、それはそれで非常識だって怒るくせに。
ああ、その手があったんだったわ。
そうしたら執務室に呼び出されて、ねちねちと叱責されて。
でも帰宅のあいさつだけはできるんだったわ。
部屋の扉をあける。
ここを出て行ったときのままだわ。
そういえば帰るときに聞こうと思ってたことを忘れていた。
いったい、あれからどのくらいの時間が経ったのかしら?
というか、実際今は何時なんだろう?
コンコン
ノックの音が聞こえた。
「はい?」
メイドだったら返事も待たずに入ってくるから……執事かしら?
「失礼します」
扉を開けて入ってきたのは思ったとおり執事だった。
「なんでしょう?お父様からのお呼び出し?」
「いいえ。旦那様から確認するよう承りましたので、参りました」
「確認って、なにを?」
「お嬢様が本当に修練を終えて戻ってこられたか……です」
私はその質問にびっくりした。
というか、あっけにとられた。
「あ、あたりまえじゃない。ちゃんと『修練を終える』って許可していただいて。だからここに戻ってこられてるのよ。ちゃんと帰宅の連絡がいってるはずと送ってくださった神官が言ってたわ」
「その帰宅というのが……旦那様がおっしゃるには『デキソコナイゆえ、役に立たぬと帰されたのだろう。厄介者のハジサラシが』とのことでして」
……なんてこと!
「私の口から、お父様に説明するわ!」
私はあまりの怒りに我を忘れた。
「お嬢様!」
静止しようとする執事を突き飛ばして部屋を出、執務室へと走った。
そして扉をノックもせずにあけた。
「お父様!なんということをおっしゃるのですか!私はちゃんと修練しました!そして、修練が終了したと認めていただいたから戻ってきているのです!」
お父様は、私の顔を冷たい目でじろりと見た。
「ちゃんと修練したと申すか?ドラヴァウェイの使命を果たすために戻ってきたと申すか?」
「そうです!」
「この痴れ物が!デキソコナイだとは思っておったが、そんなすぐに露見するような嘘をつくとは。そこまで愚かだとは思わなかったぞ!」
「嘘では、ありません!」
「たった、たったの一週間で、どれほどの修練ができるというのだ!言うてみよ!」
「いっ……しゅう、かん?」
「そうだ。おまえを神官が連れて行ってからちょうど一週間だ。そんな短期間でなにができる?」
「いっしゅう……かん?」
頭がついていかない
「儂ですら、クラウディウス家きっての魔法師と、天才と評された儂ですら新たな魔法を会得するには数ヶ月を要する。それを……たかが一週間で?デキソコナイがなにを会得できると言うのだ!」
「……失礼、します」
神々の元での修練を最初から最後まで語っても、きっと夢物語だと一蹴するだろう。
それも話をちゃんと聞いてくれたとして、だ。
いまのお父様では、話すら聞いてくれない。
まあ、私の話を聞いてくれないのは今に始まったことじゃないけれど。
部屋に戻ると、執事が立って待っていた。
「いかがでしたか?旦那様は話を聞いてくださいましたか?」
「ううん、それどころか嘘つきと言われたわ」
「うそつき、ですか」
「うん。ねえ、聞きたいことがあるのだけど」
「なんでございますか?」
「一週間ってほんとなの?私がここを出てから、今日でちょうど一週間だってお父様が」
「ほんとうでございます」
「そうなのね」
たしかに修練の間は時の進みが違う場所だとメールス様がおっしゃていたけれど。
こういう弊害があるのね。
「私が『時の進み方が違う場所』で長期間修練していたと言ったら、お父様は信じてくださるかしら?」
「旦那様がその場所をご自分の目で見て確認なされたら信じられると思いますが、お話だけでは無理かと存じます」
「そうよね。ごめんなさい、へんなこと聞いて」
執事は一礼して部屋を出、扉をそっと閉めた。
魔法だなんて……普通の人は持ちえない能力を使うわりには、お父様には空想力・想像力がないのよね。
まあ、私も話に聞くだけだったら信じてないかも。
実際に魔物に挑んでみないと、私自身どれほどのことができるかわからないけれど実戦を見てもらうしかないのかしら。
あ、そうだわ、神様たちどなたかの
ベッドに寝転がって手首のブレスレットを見る。
このブレスレットと胸元のピンが証拠と言えば証拠なのだけど。
きれいな普通のアクセサリーと言われてしまえばそれまでなのよね。
どうしたら、わかってもらえるのかな。
そんなことを考えていたらいつの間にか眠っていたらしかった。
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