第18話

 「まあ、それはさておき。ヘイストは何を出してもらいたいかい?」

ケアスオーノ様がたずねた。

「おれは水たまりと噴水(ぷふっ)と、指先から水を出してもらったよ」

 

 ……途中、笑われたのがちょっとなぁ。

たしかにやりすぎたけど。

 

 「そうねぇ。あたしも指から出すのをやってもらおうかしら」

「的は、どうする?あ、でもうまく火が出たとしても飛ばしたら外れた時にあぶないからなぁ。そうだ、さっき使った板を床に置いて、これに火をつけてもらおうか」

「いいわね」

 

 さっき的にした板が地面に置かれ、私はそのそばにしゃがむ……暴走をおそれて、らしいけど。

「じゃあ、ユーリ。フレアと唱えて、板に火をつけてみて」

「はい。火」

 

 パワーが入ってきた瞬間、ろうそくの火をイメージして指先を板にむける。

ごおっ!

強大な炎が噴き出し、板は一瞬で燃え尽きてしまった。

 

 「え?そんな。いまは、そんなに力をためてないっていうか、力が入ってきた瞬間にろうそくの火をイメージ……」

「想定内だよ、ユーリ」

ケアスオーノ様が笑いをこらえているような顔で言った。

 

 「ヘイストの力は、途方もないからね。おれたちでも舌を巻くくらいさ」

アイガータはまだしも……の言葉が思い出されるわ。

「いいじゃない。あたしは、優しいんだから!」

 

 「優しいというか、おせっかい焼きだな」

ケアスオーノ様が軽口をたたく。

「るっさい!」

 

 口喧嘩しているようだけど……仲良しなのね。

火と水で相反するものなのに。

「ヘイストと修練するときは、イメージは控えめにした方がよいぞ」

スノウクロア様が助言をくれた。

 

 それからの毎日は、それこそ修練に明け暮れた。

時おり栄養補給と休息をとるだけ。

ブレスレットを手にした今は、修練の相手をしてくれるのは主にメールス様だ。

 

 ……ヘイスト様の力を使わせてもらう時は、ケアスオーノ様が立ち会ってくれてたけれど、じきにそれもなくなった。

扱いに慣れたということもあるけれど、私がすぐに対応して消せるようになったから。

 

 「ユーリの成長には、目覚ましいものがあるな」

時々訪れるスノウクロア様が、そう言ってくれた。

 

 あれから、どれくらい経ったのだろう?

四元素それぞれの力を借り受けて、自在に操ることはできるようになった……と思う。

 

 直接攻撃に使ったり、武器状のものに変異させたり…最初は巨大なモノに変異させてたけれど、徐々に通常サイズで最大限の力を込められるようになっていった。

 

 そのほかにも風にのって高く飛び上がったり、地形を自在に変化……山だけではなく深い谷を作ったりもできるようになった。

……なんどかやりすぎて、スノウクロア様に修復リセットしていただいたけれど。

 

 ひととおり扱えるようになってからは実戦練習として、それぞれの神様の攻撃に対抗する修練をした。

魔物の情報は、ある程度は情報局に保管されているけれど、実際にどんな攻撃をしてくるかわからない以上、あらゆる準備をしておいたがいいとも言われた。

 

 その間、ずっとユウリとは会えないままだった。

どうしているだろう?と気にはなっていたけれど。

 

 「そろそろ、修練を終了してもよろしいかと存じます」

ある日、修練を見学に来たスロウクロア様にメールス様が言った。

「そうか。ユーリ、いくつか技を見せてくれ」

 

 わたしは風や火など“そのもの”を出現させたり剣などの武器を作り出したりと、いくつかデモンストレーションを披露した。

「うむ。どこまでやれば十分とはわからぬが、情報局に保管されている分に関しては対処ができそうだな」

 

 「よかろう。本日を以ってユウリ、ユーリ両名の修練を完了とする」

「ほんとうですか!」

「うむ……実際の現場に出たら想定外のことが起こるやもしれぬが。ふたりで補い合ってくれ」

 

 わたしは一番最初に光の柱で連れてこられた、とても広くて窓がなくランプもないのに明るい部屋へといざなわれた。

そこには、すでにユウリが待っていた。

 

 「お疲れ様、ユーリ。やっと帰れるね」

「お疲れ様……そうね」

ユウリは、帰れるのが純粋に嬉しそうだわ。

 

 私は……帰らずにすむなら、このままここにいたいと思った。

ここだったら、みんながわたしを認めてくれるもの。

 

 「それでも、帰らなくちゃね」

「え?」

「ぼく、ロケイース様の指導で予知夢の他に透視と読心とを修練してたんだ。情報局に保管してあった魔物たちの意識パターンを読み解くことも……どんな属性か、弱点はどこかも視られるようになった」

 

 「すごい!すごいじゃない、ユウリ」

「だから、帰らなくちゃ。ぼくたちがここにいるのはドラヴァウェイの修練のため、でしょう?だから、ユーリにとって居心地が悪い場所でも、使帰らなくちゃ」

 

 ものすごく真剣な顔をして、ユウリが言った。

そして、にっこりと笑った。

「ね」

 

 「うん」

 

 「では、ふたりを送り届けてまいります」

「頼んだぞ、メールス」

私たちはメールス様に促されて、来たときと同じように光の柱に足を踏み入れようとした。

 

 

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