第17話

 風を吹かせる……手で空中をあおぐ?

ううん、口でふぅって吹いたほうがいいかもしれない。 

「じゃあ、ユーリ。ウインドと言ってみて」

「はい。風」

 

 言葉を発した途端、緑の石が輝き、力が身体の中に入ってきた。

(今、ね)

ふぅっと息を細く吐き出す。

 

 ヒュォォォォォ

吐き出した息がつむじ風のように吹きすぎていった。

 

 「力が入ってすぐで、か」

増幅器ブースターとおっしゃいましたか……増幅したらどれほどの風が吹いたのでしょうね」

「うむ。ユーリ、今度はもう少し体内に溜めてから、同じように吹かせてみよ」

 

 「はい。風」

さっきと同じように力が入ってくる。

左腕から肩へと広がったタイミングで、ふぅっと息を細く吐き出す。

 

 ビュォォォォォォ

さっきよりも、強めの風が吹いた。

 

 「今度は、少し強めに」

「はい。風」

今度は肩まで届いたタイミングで、強めに吐き出す。

 

 ゴォォォォォォォ

かなり強めの風が吹いた。

「今の風は、どのタイミングで吹かせたのだ?」

 

 「今のは、このあたりまで入ったと感じたときに吹かせてみました」

私は右手で左肩を押さえた。

「今までの風は、口から息を吐いたものだったな?」

「はい」

 

 「では、手を使って風を起こしてみよ」

「はい。風」

肩まで届いたタイミングで、右手を広げて手をのばし、右から左へ横にあおいだ。

 

 ブワッ

空気が大きく動き、スノウクロア様とスロオイアス様の衣服がなびいた。

「今度は縦に動かしてみよ」

 

 「はい。風」

今度も肩まで届いたタイミングで、右手の指をまっすぐに伸ばして下から上へ縦に動かした。

 

 ヒュッ

スノウクロア様とスロオイアス様の間を、鋭く風が抜ける。

「かまいたち……か」

「そのようですね」

 

 「ふむ……。風の扱いにはすぐに慣れるであろう。次は水か。ケアスオーノ、少し良いか?」

今度は水の神ね。

水って、どうやったら扱ったらいいんだろう?

 

 「お呼びでしょうか?」

ケアスオーノ様があらわれるのと交代で、スロオイアス様が部屋を去っていった。

「ケアスオーノ、そなたもユーリの修練につきあってくれ」

「承知いたしました」

 

 「ユーリ、アクアと言って、水たまりを作ってくれるかな?」

「わかりました。水」

今度は白色の玉が光る。

 

 念のため、力が入ってきたと感じた瞬間に、水たまりをイメージした。

雨上がりに校庭にできた水たまり。

 

 ふっ……と目の前の地面に大きな水たまりができた。

「上出来、上出来」

ケアスオーノ様がにこにこと笑っている。

 

 「じゃあ、今度は噴水を作ってもらおうか。噴水は、知ってるよね?」

「はい」

王宮前の広場にある噴水。

大きさもあのくらいあったがいいのかしら?


 「水」

ブレスレットから入ってきた力が左腕をとおり肩から胸のあたりまで満たしたタイミングで噴水をイメージする。

 

 ブシューッ

地面から太い水柱が立ち上がる。

「ユーリ……噴水はもっと小さくていいんだよ」

ケアスオーノ様が、肩を震わせながら笑って言った。

 

 「すみません……王宮前の噴水をイメージしたのですが」

「いや、いいんだよ。なかなかに面白いものを見せてもらえて楽しいよ。そうだな……ユーリは水鉄砲って知ってるかな?」

 

 「はい。子どものころに作ってもらって遊んだことがあります」

「そうか。だったら指先から水が出せるか試してみないか?」

「指先から、ですか?」

 

 「そう。指をこんな形にして……」

ケアスオーノ様が右手をこぶしに握った状態から親指と人差し指とをのばした形にしてみせてくれた。

「この指を水鉄砲と思ってやってみてくれるかい?」

 

 「ああ、的があった方がいいのか。スノウクロア様、的になりそうなものを出していただけますか?」

「……こんなものでよいか?」

 

 スノウクロア様が空中から木の板を取りだす。

大きな円の中心に黒色の小さめの円が描いてある。

「この真ん中の黒丸を狙って。ああ、命中しなくても問題はないからね」

 

 「わかりました」

指をケアスオーノ神に言われた形にかたちづくって黒丸に向ける。

「水」

さっきより控えめに、肩のあたりまで広がったタイミングで水鉄砲で遊んだ時のことを思い出す。

 

 プシュ───ッ

指先から水が一直線に飛び出す。

その水は板には当たったものの、それは的から大きく外れたところだった。

 

 「ああ、残念。でも、指先から水が出せることは証明できたから十分かな」

「うむ。練習を重ねれば命中率もあがろうからな。さて、残るはヘイストか」

「おれも、待機していたがよろしいですよね?」

ケアスオーノ様がスノウクロア様に確認した。

 

 「そうだな……ヘイストの場合、何があるかわからぬからな」

そういえばアイガータ様もヘイスト様を暴れ馬って呼んでたけど。

どんな神なのかしら?

私が小石を岩に変異させた時もヘイスト様が関わっていたわね。

 

 「ヘイスト、ちょっと来てくれぬか?」

「やっと、あたしの順番が来たみたいね。って、なんであんたがいるのよ?ケアスオーノ?」

「念のため、さ。ユーリの力は不安定なんだ。万一のことがあったらおれが消せるだろう?」

 

 「それはそうだけどさ、なんか気に食わないわねぇ」

「よいではないか。もしケアスオーノが言い出さなかったら、儂が依頼していたであろうからな」

 

 「もう!スノウクロア様まで!」






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