第16話

 「ぼく、自分のコンプレックスを誰かに知られるのイヤだったんだ、ずっと。みんな、ぼくのことを『なんでもできる人』っていう目で見てるから……かっこつけ、だよね」

 

 ユウリにも、抱えてる悩みがあったのね。

 

 「私みたいにデキソコナイって邪険にされるのもイヤだけど、と思われる重圧も、きっと辛かったよね」

「まあ、ね。ふふっ」

「どうしたの?なにか、おかしい事あった?」

 

 「ん?ぼくとユーリって似た者同士だなって思って」

そうかもしれない。

周囲からの扱いは両極端だったけど。

 

 「……改めて、よろしくね。名前だけじゃない、似た者同士のドラヴァウェイとして」

ユウリがにっこり笑って右手を出してきた。

「うん」

私も笑顔を返し、ユウリの右手を握った。

 

 ユウリといっしょに頑張ろう。

ユウリの力になりたい。


 ピリッとした感触が手のひらに走った感じがした。

 

 「あ……メールス様が来るみたい」

ユウリが言った。

足音とか、とくに聞こえないけれど。

 

 キィ……

扉があいて、メールス様が入ってきた。

「修練の間の修復リセットが終了したので知らせに来たが……どうした?ユーリ」

 

 「あ……ほんとにメールス様が来られたなと」

私は答えた。

「ほんとに、とは?」

「ユウリが言ったんです。メールス様が来るよって。来られるほんの少し前、ですけど」

 

 「ユウリは、なぜ、そんなことを言ったのだ?」

「みえた、んです。扉の向こうをこちらに歩いてこられてる姿が」

「扉は閉じていたのに、か?」

「はい。扉が透けて見えたというか……」

 

 メールス様はあごに手を当てて、何か考えているようだった。

「……とりあえず、修練の間にもどろう」

そう言って、先に立って歩いて行った。

 

 修練の間には、スノウクロア様だけがいた。

「二人を連れてきましたが……スノウクロア様。ユウリに変化があらわれました」

「どんな変化だ?」

 

 「ユウリはロケイースのもとで予知夢と透視の修練を始めていました。双方ともそれなりの習熟度ではあるものの、まだ精度としては低いと聞いていました。が……先ほど迎えに行った折、扉の向こうから歩いてくる私の姿をというのです」

 

 「透視、か」

「さようかと」

「ふむ……休息の間になにかあったのか?」

 

 スノウクロア様は私たちに視線を向けてきた。

休息の間って言われても。

「えーと、コンプレックスのこととか、昔の思い出話をしてました」

ユウリが答えてくれた。

私も隣でうなづいて同意する。

 

 「そして、あらためてよろしくねって握手して……ぼく、ちょうど扉の方を向いていたのですが、扉が透けてメールス様が歩いてこられる姿がみえたんです」

「握手か……ほかに変わったことは?」

私とユウリは顔を見合わせた。

 

 ほかに……。

「握手した時に、手のひらに少しピリッとした感じはしましたが……」

私は答えた。

「そういえば、したね」

ユウリも答えた。

 

 「これもまたユーリの能力のひとつかもしれぬ」

スノウクロア様が言った。

「どう使えばいいか、は様子を見ながらになるな。まずは発動の出力を抑える方法を見出さぬとな」


 出力の押さえ方って言われても……。

「さっき、岩をこなごなにしたときはどんな感じだったの?」

ユウリが聞いてきた。

 

 「さっきは、スノウクロア様に言われたとおりエ……言われた言葉を口にしたのね」

……あぶないわ。

“ちゃんと”口にしたら、またパワーで体がいっぱいいっぱいになるかも。

 

 「そうしたら、青い玉が光って、そこから熱い力が体に入ってきて。それがどんどんふくらんでいっぱいいっぱいになった時に、スノウクロア様に『岩をねらえ』といわれて」

「うん」

「あの岩でいいか、確認するために指さしたら、光がでて岩がこなごなになったの」

 

 「山の時は?」

「アイガータ様が言われた言葉を言ったら同じように力が入ってきて、いっぱいになって……。山を作るように言われたから、自由国境地帯にある山を思い描いたの」

 

 「その力が体内をどのくらい満たしているか、は感覚でとらえられるか?」

スノウクロア様が聞いてきた。

「だいだいは……でも結構すぐにいっぱいになる感じで」

 

 「一番無難なのは、スロオイアスか。スロオイアス!来てくれぬか」

たしか風の神。

「およびでしょうか?」

空中からスロオイアス様があらわれた。

 

 「すまぬが、ユーリの修練につきあってもらえぬか?」

「ぼくで、よろしいのですか?」

「うむ……実を言うと、儂とアイガータでも試したのだ。儂の時は岩を粉砕しただけだったが、アイガータの時はこの空間がいっぱいになるほどの山を作ってな……さきほど修復したところなのだ。まだ発動が制御できぬゆえ、ヘイストやケアスオーノでは……」

 

 「……たしかに危ないですね。万一暴走したら、ぼくたちには問題なくともユーリたちが危険だ」

「それでは、ユーリ。今度はスロオイアスと修練してもらおう。力が体内に入ったと感じたらすぐに風を吹かせてくれ。それからロケイースはいるか?」

 

 「お呼びでしょうか」

「うむ。ユウリの能力に変化があらわれたらしい。あちらで確認してくれぬか?」

「承知いたしました。ユウリ、あちらに参るぞ」

そう言って、ふたりは扉から部屋を出ていった。

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