第15話

 増幅器ブースター変異ミューティション

聞いたことがない言葉が神たちの口にのぼる。

 

 「ふむ。アイガータ、そなたで試してみてくれ」

「承知いたしました。それではユーリ、アースと唱えてくださいません?」

「……地」

 

 唱えたとたん、さっきと同じように今度は黄色い石が輝きだした。

私の中で何かがどんどん膨れ上がる。

「ユーリ、山を作ってくださいませ」

 

 山?

森の反対側にある自由国境地帯にあるあれ……よね。

頭の中に思い描く。

 

 ドドドドドド……

地響きを立てて、目の前に山がそびえる。

広い空間を埋めそうなくらい大きな山。

 

 「……ここまでとは」

「わたくしも、たいした力は送ってませんわ。山とは申しましたが、せいぜい丘。良くても小山ができるほどでしたのに」

 

 「……さきほど視せていただきましたところ、ユーリの意識層には果てというものがないようにございます」

「果てがないということは、いくらでも受け入れられるし、増幅できるということか?」

 

 「そう、考えてよろしいかと存じます。私どもの力の受け皿としては十二分な容量があると思われます。しかし残念ながら、ユーリ個人としての神秘力オーラは、そこまで強いものではございません」

 

 「小石を使っての修練がうまくいかなかったのは、そういう理由か」

メールス様が残念そうに言った。

「仕方があるまい。どのような能力を備えているかは儂たちには知り得なかったことだ」

スノウクロア様が慰めるように言った。

 

 「そうですわ。メールスが小石を用意し、ヘイストがお節介を焼いたからこそ、先ほどの岩ができたわけですし」

「あんたねぇ、ほめてんの?けなしてんの?」

「わたくしは、事実を申したまでですわ」

 

 「とりあえずは修練の方針転換をせねばならぬ。ユーリ個人ではなくヘイストやアイガータたち四名との共同修練とせねばな。ただ……このままでは」

メールス様が山を見上げる。

 

 「よい。この部屋は儂が修復リセットしよう。その間ユーリとユウリは休息をとるとよい」

スノウクロア様が言った。

 

 私とユウリはメールス様に連れられて、応接室のような場所に入った。

「ここで、しばし休息を取るとよい」

メールス様は私たちをソファに座らせると、そう言って部屋を出て行った。

 

 「さっきの、ほんとにすごかったよ。ユーリ」

ユウリの言葉に彼を見ると、目をキラキラと輝かせて私を見ていた。

お世辞じゃなく、本心からすごいって思っているのがわかる。

 

 「ユウリは」

「なに?」

「デキソコナイのくせに、生意気とか思わないんだね」

お父様だとかクラスメイトだったら、きっと言う。

ううん、それだけじゃない。

メイドたちもこっそり陰で言うはず。

 

 「なんで?そんなこと言うはずないじゃない?」

「だって、魔法師の家系に生まれたのに魔法が使えないデキソコナイなんだよ?神様の力が組み込まれたからって、あんな……」

私は腕に光るブレスレットを見つめた。

 

 「それがユーリの能力なんだもの。能力ってさ、家系によるものかもしれないけれど、本来はその人個人のものでしょう?神様の力を組み込むことができるなんて、すごいと思うよ」

「この能力が自分に備わってたら……とは、思わないの?」

 

 ユウリは少し考えて、答えた。

「すごい能力だな、とは思うけど。でも自分のものだったらとは、思わないかな。今のぼくがぼくだから」

 

 ユウリは、しっかりと『自分』を持っているんだわ。

「ねえ、ユウリはコンプレックスとか、ないの?」

私はコンプレックスだらけだ。

 

 「あるよ」

「ユウリにも、あるの?!」

「うん……まずは、誰かと争うことができない、かな。競争とかじゃなく、ムカッとすることがあっても、文句を言うことができない」

 

 「ユウリでも、ムカッとすることがあるの?」

「そりゃ、あるよ」

いつもニコニコしているから、腹を立てることがあるなんて思わなかった。

 

 「だから、いやなこと言われた時にちゃんと言い返せるユーリがかっこいいと思ってた」

「わ、私?!」

「うん」

 

 「きっとさ、ぼく、弱虫なんだよね」

「そんなこと、ないわよ」

「ううん……ずっと、気になってたんだ。ユーリが意地悪されてたのって、おそらくは、ぼくのせいだよね。入学してすぐの自己紹介」

 

 たしかにあれがなければ、もしかしたら意地悪は少なかったかもしれないけれど。

「ユウリのせいじゃ、ないわよ(そう、思ってたこともあるけれど)」

「……ユーリが、意地悪されてるの見かけてさ、助けたほうがいいんじゃないかってに相談したことがあったんだ。自己紹介の時のことから話して」

 

 「……うん」

は……その女の子を自信があるなら、助けるのもいいでしょう。でも、もしも自信がないなら見て見ぬふりをすることも時には必要ですって言ったんだ」

 

 いったん口をつぐんだユウリは、続けて言った。

「ぼくは、考えた。守り続ける自信があるかって……ぼくには、そんな自信はなかった。だから気づいてたけど……」

 

 そういうこと、だったのね。

「ううん、ありがとう……見て見ぬふりをしてくれて。たぶん助けてくれてたら、もっと意地悪されてたと思う。アドバイスくれたさんに感謝しなくちゃね」

 

 「ごめんね」

「ううん。ありがとう」

私とユウリは顔を見合せて笑った。

 


 

 



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