第4話

 「いやな夢」

ベッドを出て、窓から外を見る。

いつもと同じ太陽がまぶしい朝だ。

起きて、朝食を食べ、学校に行き、帰宅して、夕食を食べ、眠りにつく。

その生活に不満があるわけではないけれど。

たまには何か変化が欲しい……昨日受けた嫌がらせみたいなことは要らないけれど。

 

 それから数日。

とくには何も起こらなかった。

ただ、毎日のように“あの夢”を見た。

 

 そして、今朝。

何度も見て見飽きた夢が終盤にさしかかり、魔物が襲いかかってきた


 そろそろこのあたりで目が……!!覚めない??

魔物は私たち2人にむかって鋭い爪が生えた大きな手を振り下ろしてきた。

(あんな爪で襲われたらケガしちゃう!ううん。死んじゃうかもしれない)

言いようのない恐怖が私を捕らえた。

 

 「いやぁぁぁぁぁぁ!」

私は悲鳴をあげながら、無意識に両方の手のひらを魔物に向けて突きだした。

この前、カリナが私を突き飛ばしたように。

 

 カッッッッッッッ!

まばゆい光があたりを満たす。

私はまぶしさに目を閉じた。

≪グォォォォォォォォォ!≫

耳をおおいたくなるほどの咆哮が聞こえる。

 

 ……ふいに静寂が戻った。

おそるおそる目を開けると、まぶしい光はもうなくて。

目の前にいた魔物もいなくなっていて、ただユウリと2人で地面の上に立っていた。

 

 「ようやく覚醒したか」

 

 どこかから声が聞こえた。

 

 ユウリの声ではないし、家族の声でもない。

もちろんメイドの声でもない。

 

 「……だれ?」

「我は、そなたを導く者だ」

「導く……?」

「そう。そなたはには【この世界を守る】という使命がある」

「はぁ?!使命?なによ、そんなこと勝手に決めないでよ。というか、世界を守るって何のことよ?なんで私がそんなことしなくちゃいけないわけ?そんなヒーローもどきのお役目だったら、こっちのユウリに任せたらいいじゃないのよ」

私は隣にたったままのユウリを指さした。

 

 ユウリは……微動だにしない。

「え?」

そっと肩に触れてみる。

「実体が……ない?!」

ユウリの肩を触ろうとした私の手は、ふっと空を切っていた。

 

 姿はそこにあるのに、見えているのに。

触れないのは、ここが夢の中だから?

 

 「そなたの隣に居る者は、そなたの相棒バディと定められたものだ。その姿は、そなたにしか見えておらぬ」

 

 ユウリが、相棒?

いや、その前に!

「相棒だなんて、適当なこと言わないでよ。というより、私、そんな使命に従うなんて、これっぽっちも同意していないわ」

「そなたの同意は、必要ない。そなたの運命として、定められたこと」

 

 「運命……」

「そなたのユーリという名。それが【この世界を守る】使命を担うものにつけられる名なのだ」

「名前?」

そういえば、名前は神様からいただいたもの……。

 

 「でも!だからって私じゃなくても。ユウリだって、というか、ユウリの方がにふさわしいんじゃないの?」

「血筋だ」

「え?」

「そなたのように、魔法師の血筋に生まれておらぬと、この使命は遂行しえぬ」

 

 「魔法師の血筋って、私、魔法の才能はほぼ皆無って。だからデキソコナイだのなんだのと言われているのよ」

「そなたに授けられた能力は“魔法”ではないからな」

「魔法じゃないなら、なんだって言うの?」

神秘力オーラと呼ばれる力だ」

 

 神秘力。

初めて聞く言葉だ。

 

 「おって、神官より改めて使いが来よう。それまで待つがよい」

「そんな、勝手な!ちょっと待っ……」

 

 ドアをノックする音に続き、ドアが開けられた。

「朝食をお持ちしました。まだ、お休みだったのですか?」

いつものメイドだ。

私はベッドの中に居て。

ということは、さっきの会話は……夢?

 

 学校に行っても、今朝のことが気になって授業に全然身が入らなかった。

……まあ、いつも身は入ってないんだけど。

時々、ユウリがこっちを見ているような気がした。

夢?で、相棒だなんて聞かされたから、気になっているだけかもしれない。

 

 授業が終わって、私は校舎裏のベンチにぼんやりと座っていた。

別に、呼び出しを受けたのではなく、一人になりたかったから。

「神秘力……」

今朝聞いた言葉が、ふと口をついて出た。

 

 夢の中とはいえ、魔物を消し去った力。

目の前の小石を、じっと見つめてみる。

心の中で(動け、動け)と念じてみる。

でも、小石は微動だにしない。

 

 「……あたりまえ、だよね。夢よ、夢」

帰ろうとベンチから立ち上がると、花壇が見えた。

花壇に近づいてみると、一本の花がしおれかかっていた。

(水が、足りなかったのかな?でも、じょうろなんてどこにあるか知らないし)

そう思いながらしゃがんで、花をそっと触った。

 

 「ごめんね。じょうろの場所知らなくて、お水があげられないの。このままじゃ、枯れちゃうよね……」

お花がかわいそう。

そんな感情が胸をよぎったとき、ぽわんとした光が私の手から発せられて、花を包んだ。

光は、すぐに消えた。

 

 光が包んだ花は……。

「!元気を取り戻してる?」

さっきまでしおれかけていた花はすっかり元気を取り戻し、茎をすっとのばしてきれいな花を咲かせている。

 

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