第5話
「ユーリ?どうしたの、こんなところで」
ふりむくと、じょうろを持ったユウリが立っていた。
「さっき見に来たら花がしおれかけてたから、水を取りに行ってたんだけど。あれ?花が元気になってる?しおれてたのって見間違いだったのかな?」
「わ、私、わかんない。なんにもしてないわよ」
「ユーリが何かしたなんんて思ってないよ」
ユウリはクスクス笑いながら、せっかく持ってきたんだし、と、じょうろの水を花たちにかけていった。
空になったじょうろを地面に置いたユウリは、私の方を向いて言った。
「ちょうどよかった。ユーリに聞きたいことがあったんだ。ちょっとだけ、話につきあってくれる?」
そう言って、私がさっきまで座っていたベンチを指さした。
ベンチに座っても、ユウリはなかなか話を始めなかった。
なんだか考え込んでいるような表情で、地面の上を見つめている。
「あの、さ」
?
「変なことを聞くようだけど。ユーリの夢の中に、ぼくが出てきているんじゃない?」
「!なんで、それを。じゃなくて、どうしてそんなこと聞くの?」
あまりにも直球で聞かれたから、つい肯定しちゃった……ちゃんと、ごまかせているかしら?
「だって、僕の夢にユーリが出てきているから」
「なん……ですって?私が?ユウリの?」
「うん……ぼくの家は何を
ユウリの家。
確か、呪術だったり占術だったりで王族をかげにひなたに支えているって聞いたわ。
「うん。占術だとか呪術……だったわよね」
施政を支えるのはもちろんのこと、王族の身の安全を守る役目を担う、一番の重役。
「そう。そしてぼくは占術の方に長けているらしくて。よく予知夢を見るんだ。まだ修行を積んでないから、ぼんやりとしかわからないけれど。そして、夢の中に誰かが出てくることは、すごく珍しいんだ」
「そうなの?」
「うん。いつもはだいたいどこかの場所……物の場合もあるけど。実はこの前、ユーリがここに倒れていた時は、倒れていたあたりが暗くよどんだ光景を夢に見たんだ。それで気になって、何度か見に来ているうちに倒れていたユーリを見つけたんだ」
たまたま……じゃ、なかったんだ。
「お花が気になったからじゃなく?」
「花も、気になってたよ。ここは花壇があるからね。花がダメになっちゃうのかな?って最初は思ってたけど」
「でも……夢に見た何かが起こるのがその日とは限らないでしょう?」
「うーん。そういう時もあるけれど、なんていうのかな。わかるっていうか、感じるっていうか。これは今日だぞ、とか。これは用心して準備をしておかないと、とかね」
能力を持つ者のカンってやつかしら?
「それでね、ここしばらく毎日のようにユーリが夢の中に出てくるんだ。話しかけても答えてくれないし。何も言わず、ただじっとぼくを見つめてくる。そして、僕にむかって右手をさしだしてくるんだ。まるで握手を求めているように……いつもそこで目が覚める」
「……私は、ユウリとふたりで魔物の前に立っているわ。手には、何も持っていない。そうして、魔物に襲われる寸前で目が覚めるの。そんな夢を見ていたわ……昨日までは」
「昨日まで?今朝は見なかったの?ぼくは、今朝も同じ夢を見たけれど」
「夢は、見たわ。でも今日は魔物に襲いかかられて……。そこから先は、夢なのかなんなのかがわからないの。ちゃんと聞いているのに、相手が話す内容が理解……ううん理解はできているけど。納得……そう、納得ができないことを聞かされて。ずっと頭が混乱しているの」
「だから、今日は一日中、心ここにあらずといった感じだったんだね」
あ、やっぱりユウリは私のこと、時々見てたんだ。
「これで、夢の意味が少しだけどつかめたよ」
「夢の意味?」
「そう。ぼくは君と一緒に何かをしないといけない。ふたりで協力して何かを成し遂げろ……という夢だと解釈するよ」
何をか……までは知りえないとしても、ユウリの夢判断は外れていなかった。
学業その他だけでなく、術者としての能力もすごく高いんだわ。
「よかったよ、ユーリと話せて」
「え?」
「だって、クラスの中では話せないから……この前も、ほんとはいじわるされてたんじゃないの?」
「あ……。そんなこと、ないわ」
「隠しても、ダメ。読心術は身につけてないけれど、悪意とかそういう感情って結構見えるからわかるんだ。感情を出している本人もだけど、悪意を向けられた人のもね」
「夢で見たっていってたやつ?暗くよどんでって」
「うん。あの時はまだ起きていないことだったけどね。きっと悪意を向ける人、もしくは向けられた人が関わる何かが起こる、と読んだんだ」
舌を巻く……というのは、こういう感情なのかな。
敵わないな……。
今朝聞いた話が本当かどうかは、わからない。
この世界を守るだとかなんとか、わけわかんないこと言ってたわ。
それが運命だか何だかは、どうでもいいけれど。
ユウリと一緒に、だったら何かしてもいいかな、と少し思った。
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