第4話〰透明になるということ〰

透明な自分の身体を3日くらい調べて、いろいろとわかった。すごく疲れた。



まずは食事について。

食べ物を口に入れて、口内で咀嚼する様子ははっきりと見えてしまう。グロい。だが飲み込んで、咽頭付近に食物が到達した瞬間になぜかパッと見えなくなる。グロくない。

そのため、食べ物・飲み物が食道や胃の形で浮遊するような状態にはならなかった。なぜ。



体つきについて。

透明女化(適当にそう呼ぶ)する前は170cm、70kgのちょいデブおじさんだったが、今は150cm(冷蔵庫の高さから推測)、54kg。BMI(体格の指標)は似通っている。

胸は味噌汁のお椀から少し肉がはみ出るくらい(すぐによく洗ったよ)。

台所の上の棚にしまっているいつもの煮物用の鍋は、イスを持ってこないと届かなくなった。


手指も骨格も、お尻以外1回りくらい小さくなった。顔については小顔の部類だろう。

洗顔フォームで確認したが、整った童顔……のように見えたがパック中の女性の顔より怖かったのであまり見れていない。


髪はちょうど肩にかかるくらいの長さだった。洗顔後Tシャツの両肩が濡れていたのは、毛先が洗面台に付いていたかららしい。汚い。


体毛は陰部を含めて全く無い。と思う。

この情報は、入浴してみてわかったことだ。

ちなみに、浴槽に入るとその部分だけ水が人型になって違和感Max。だが水面下に全身で潜ると完全に透明になる。スマホで動画撮ったから間違いないはず。いろいろ苦しかった。

湯気が立ち込める場所だとうっすら小柄な女性が浮かび上がり完全に幽霊。銭湯は無理だな。



排泄について。

全部透明。以上。言わせんなクソ。



物について。

透明になるのは自分の身体だけ。そのため持ち物全て空中に浮かぶように見える。また、服によってはある2ヶ所の突起、お尻が目立つので、全裸より恥ずかしい。

物を手のひらで握ったら見えなくなるかとも思ったが、バッチリ見えた。



声質について。

やや鼻につく感じだが、平均よりはかなりかわいい声だとは思う。とりあえず数日仕事を休むため

「東城渚の家族の者ですが、渚の声が風邪で出なくなってしまってて代わりに電話してますすいません…」

と病院に電話したら「あらかわいい方ね。わかりました。お大事にするように伝えてね」とお局師長に言われた。その声の主が俺なんだが気づかれなかった。まあ性別変わったら殆ど別人だしな。



思考・嗜好について。

今は甘いもの、酸っぱいもののほうが好きになっているようだ。なんでニュースサイトの広告でチラッと見ただけのスイートポテトが頭から離れなかったのだろう。

あとは、異性…女性への興味は殆ど無くなっている。女湯…なんて当初は思ったが、今は同性の裸なんて見に行きたいとは思わない。

逆に整った顔、声の男性の配信者の動画も興味本位で見てみたが、ときめくことは無かった。

煩悩まみれの欲望は衰退したようだ。




…そして最後に、この透明女化はいつまで続くかが分からない。これが1番の問題点だ。もしかしたら一生このままかもしれないし、この後急に元に戻るかもしれない。

透明人間って、こんなに不安定な存在なんだ…。

このまま元に戻らなかったら……



「もうニート確定じゃん……」



大きくため息をついた。うなだれたその姿を見る者は俺も含めて誰もいなかった。



つづく

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