第5話〰どうして隠れなきゃなんないの〰

……という訳で透明女化した俺は、これからどう生きるかを一生懸命考えなければいけなくなった。



家族は両親ともにもう旅立ち、兄弟もいない。親戚はいるが、頼ろうとしたとして、…例えば渚の彼女を名乗る女が急に「俺へ何か援助してくれ」と言っても怪しまれるだけだ。手紙で依頼したとしても、その後俺宛に電話をかけられてしまったら声で終わる。友人も今みんな疎遠だしなぁ…。



まぁ幸い、食料含めて日用品などの必需品は殆どネットで注文し、置き配で依頼することで問題なく確保できる。心より業者さんに最大限の感謝を。

ただ、置き配出来ないもの(ポストに入らないもの…ドライフルーツのパックとか)は対面限定だったので、何回か受け取れなかった。業者さん、最大限の謝罪を。

いつか宅配ボックス買いますね。議論を重ねたのち、慎重に検討します。



この身体になってから、玄関のドアを開けて誰かと話すことが出来なくなった。姿を見られると大変なことになるから(見えないけど)。そのため、基本的には居留守を使うか、ドア越しに声でやり取りするのを余儀なくされている。



そんな中、突然俺に1つの試練が降りかかる。





それはある1枚のチラシが発端だった。


〈火災報知器の定期点検のお知らせ〉


ドアポストに入っていたそれは、1週間後に天井に設置している各部屋の熱・煙探知機の点検に来ることを知らせる、普通の人からしたら全く気にしないイベントのチラシ。消防法で義務付けられているだけのただの惰性的な点検……だと思っていた。

しかし、そこに記載されていたある注意書きを見て俺は凍りついてしまった。


【当日は立ち会いが必須となります。ご迷惑をおかけしますが、3つのうちご都合の良い日程をこちらの電話番号に……】


「立ち会いっ!?」


思わず大声をあげてしまった。立ち会いって、その場に自分がいないといけないって…ことだよな!?



姿の無い自分は当然誰かに会うことも出来ない

し、会話だって電話やドア越しで、何かを介して

ないとできないんだぞ!!!!


全身タイツみたいな服を用意して、それを着て応対するか…いやダメだ!絶対に怪しまれる!点検以外の業者を呼ばれるよ!!




……ダメもとで、点検業者に直接電話で交渉することにしてみた。以下、その時のやり取りをできるだけ正しく残してみる。

渚「すいません…点検のチラシを見て電話しました、東城と申します」

試練担当「ああ!!ご連絡ありがとうございますー!!さっそくで申し訳ないんですが、いつだったら伺っていいですかねー!!……あれ、こちら男性が契約者の方のようですが!!」

渚「あっ、その事なんですが、やっぱり点検って渚本人が立ち会わないといけないんでしょうか…?」

試練担当「いや、ご家族とかならその人が代わりに立ち会ってもらっても構いませんよー!!」

渚「そうなんですね。私も家にいない状態での点検の受け付けっt」

試練担当「その場合別の紙があって、代理で立ち会ったことをそこにいた人に署名してもらってそれで点検になるんですー!!なんで、必ず誰かに見てもらっている中での点検になりますー!!」

渚「そ、そうなんですね……。玄関のカギだけ開けておいて、誰もいない時に点検って」

クソ点検野郎「ご本人さん含めてご都合がこの3日のどこかでつかないなら、立ち会える日を教えていただければできるだけその日に合わせますよー!!」

渚「あの…、大変申し訳ないのですが今後立ち会える日が一切無くてですね、知人もいないので業者さんだけで点検をおねg」

クソ野郎「あー!!消防法で決まっていることなんで年に2回点検は必ずしないといけないんですよー!!ほら僕らも勝手に点検して、後から何か盗られた物がーなんて言われても困りますんでー!!」

渚「あっ、そのようなことは絶対言わないので、

ぜひ業者さんだけで点検をおn」

クソ「それは規則でお受けできないんですすいませーん!!じゃあ、改めて日程決まりましたら点検当日よろしくお願いいたしますー!!ブチッ」

渚「(頭が)ブチッ」


…………。

2dkの我がアパート、モーションセンサー爆弾、3ヶ所、台所と和室、洋室各天井に設置確認。


うう、どうすれば……。




もう泣きそう。でも涙すら他人には見えないからよかった。いや全然よくねぇよピンチですタスケテタスケテ…。






つづく

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