第17話 私、決断いたしました

「エルザ殿、父と母ですが、事前にお話ししていた通り、あなたの思うことを話していただければ大丈夫ですから」


「はい」


 そうは言われても、王妃教育では、魔国の皇帝は残虐非道、皇后は嫉妬深く残忍、と教えられている。正直、かなりビビっている。ただ、ゼクウのような息子のご両親という見方をすれば、そんなに変な方々ではないように思う。


 皇帝皇后の両陛下が、私たちから少し離れたところの椅子にお座りになられた。


 ゼクウと私は立ってお迎えしているが、私は伏し目がちにする必要があり、両陛下のお姿は腰から下あたりしか見えなかった。


「エルザ様、皇后様は美魔女でです。殿下は皇后様似です。皇帝陛下はめちゃくちゃイケオジです!」


 アナスタシアが小声で何か言ってくるが、最近のアナスタシアの帝国語は若者言葉が多く、正直、よくわからなかった。


 ゼクウが私を連れて、両陛下の前でお辞儀をした。私も先日習った魔国式のカーテシーでご挨拶した。


「そちらがゼクウが十年恋焦がれた石像の娘さんかな?」


 優しい渋めの低い声で話しかけられた。恐らく皇帝陛下だろう。


「はい、エルザ・ミッドランドと申します」


「ほう、王国のミッドランド侯爵の娘さんか」


「はい、さようでございます」


「ゼクウ、王国の貴族の令嬢を婚約者に迎えるのは難しいぞ。エルザ嬢から色よい返事を頂けるようであれば、エーベルバッハ公爵の養女にするとよいぞ」


「ありがとうございます。陛下」


 殿下が嬉しそうな声で答えている。陛下が婚約に反対ではないようで、私はホッとした。


「エルザさん、私にお顔を見せていただけるかしら」


 上品な口調で皇后様からお言葉をかけられ、私は顔を上げた。皇后様はすごくお綺麗だった。隣の陛下も素敵な方だった。


(あの苦しかった王妃教育はでたらめね)


「あらまあ、こんなきれいな娘さん、よく見つけてきたわね、ゼクウ」


「母上、昔から申し上げていたではないですか。好きな女性が出来たと」


「ほほほ、石像に恋したとか、馬鹿なことを言って、仕方のない子だと思っていたけど、こんなに素敵な女性だったのね。エルザさん、私たち両親はゼクウの目を信じているの。ゼクウが好きになる女性は、この世で一番素晴らしい女性に違いないわ。私もあなたからいい返事が来ることを願っているわ」


(素敵なご両親だ。うちの両親とは雲泥の差ね)


「は、はい。ありがとうございます」


「母上、あまりエルザ殿に圧力をかけないでください。エリザ殿の正直な気持ちでのお返事を頂きたいのです」


「ふふふ。いい子に育ったわ、本当に。エルザさん、ほかの女性たちの嫉妬に気をつけなさいね」


「エルザ嬢、少しまじめな話なのだが、魔国と王国は知っての通り、戦争中だ。ゼクウに嫁ぐということは、母国を敵に回す、ということになる。その点は覚悟してほしい」


「はい、心得ております。あの、殿下からのプロポーズですが、お受けしたいと思っております」


 もう殿下のことは大好きになっていたのだが、ご両親がどういう方々なのか、確認しておきたかった。百点満点以上だった。こんな素敵な人を逃すものですか。


「「「!!!」」」


「ゆ、夢じゃなかろうか。いや、夢じゃない、これは夢じゃない。母上、父上、証人になってください!!」


 殿下がはしゃぎ回っている。この人の可愛いところだ。


「ははは、慌ておって、エルザ嬢が驚いておるぞ」


「よかったわね、ゼクウ」


「よし、エルザ嬢の気が変わらぬうちに、発表してしまおう」


 皇帝陛下がそうおっしゃってお立ちになった。私たちの話を聞いていた人たちが、すでにざわつき始めていた。


「皆の者、今日は皇太子の誕生日の祝賀会への来場に感謝する。この場を借りて、皇太子の婚約発表をしたい。ここにおられるエルザ嬢を皇太子の婚約者とする。婚儀の日程などの詳細は後日発表する」


 会場はざわつきからどよめきに変わり、最後に割れんばかりの拍手が沸き上がった。

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