第16話 誕生パーティに参加しました

 ゼクウ皇太子の二十歳の誕生日はこれまでになく注目されていた。


 前例では皇太子の婚約者はこれまで十八歳までには決まっていたが、皇室からは今年も皇太子の婚約者の発表はなかった。


 たが、皇太子に意中の女性がいるとの噂が貴族社会に広がっていた。ゼクウには一途に恋焦がれている女性がいること、その女性にゼクウが求婚しており、返事待ちになっていること、その女性が誕生会に招待されていること、である。


 誕生日会はすでに都内のホテルで立食形式で始まっていたが、主役の姿はまだホールにはなかった。


「皇太子殿下は例の女性をエスコートして登場するそうだぞ」


「お名前やご出身など全くわかっていないそうですわ」


「オペラ鑑賞に殿下といっしょにいらした女性だそうだ。輝くばかりの美貌だったそうだ」


「私、馬車からレストランに入られるところを見たのです。ため息が出るほど美しい方でしたわ」


 ホールの入口が騒がしくなり始めた。ゼクウが女性を伴って、ホールに入ってくるところだった。ホール中の人々が、その女性に目を奪われた。


「何と美しい……」


 エルザはゼクウの髪と瞳の色に合わせた黒のイブニングドレスに身を包んでいた。ダイヤのイヤリングとネックレスはゼクウがエルザに贈ったものだ。


「見ろ、あの皇太子殿下の嬉しそうなお顔を」


「あんな表情をする皇太子殿下は初めてだ」


 ゼクウはエルザをエスコートして、ホールの奥に用意されている皇太子の席の隣席にエルザを案内し、エルザが腰かけた後、自身も着席した。


 エルザは今日、式の最後の方に姿を見せる予定の皇帝と皇后に挨拶をしてほしいとゼクウから頼まれており、かなり緊張していた。だが、まずはゼクウへの祝辞を述べに来る貴族たちの相手を務める必要がある。


 ゼクウとエリザの前に参加者が列を作っている。王国時代に何度か経験しているものの、エリザはこの挨拶への対応があまり好きではなかった。


 ゼクウもそれを知ってか、ほとんどゼクウが話し相手を務め、エリザはたまに頷くだけでよかった。


(エドワードとえらい違いだわ。ゼクウ殿下は神ね。それにしても、令嬢たちの視線が痛いわ。殺意すら感じてしまうわ)


 シエラとアナスタシアが挨拶に来た。


「アナさん、素敵なドレスね」


「エリザ様こそ」


「殿下、お誕生日おめでとうございます。私たちによくしていただいたうえに、このような式にもお呼び頂き、誠にありがとうございます」


「シエラ殿とアナ嬢は、私にとっては大恩人であります。また、エルザ殿の大切なご友人でありますから、当然のことです」


「お二人の雰囲気が少し柔らかい感じになってますわね」


 私はシエルとアナスタシアの雰囲気が、随分と打ち解けたものになっているのを感じた。


「ええ、アナが僕のプロポーズをようやく受けてくれまして、近いうちに結婚したいと考えています」


「おお、それはめでたい。ぜひとも私に手配をさせてほしい」


「ありがとうございます。遠慮なくお願いいたします」


「任せておいていただきたい。ところで、シエル殿、魔法の構文の講師の件、よろしくお願いしますぞ」


「ええ、もちろんです。少しでもお返しできればと思います」


 シエルは王国の進んだ魔法構文を魔国軍にレクチャすることになっていた。すでにゼクウにはレクチャを開始しており、殿下はものすごい勢いで成長しているという。


「アナさん、よかったわね」


「ありがとうございます。シエルが私のことを好きだって、言ってくれました……」


(やはり結婚は愛し合っていないとダメだわ。さらば、私の初恋。でも、殿下がいるから、寂しくないわ)


 そのとき、会場の入り口が騒がしくなった。皇帝と皇后が来られたようだった。

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