第15話 溺愛の予感がします

 電撃的なプロポーズを受けた私だったが、ゼクウはその後は結婚の話には一切触れず、首都カサンドラの観光に私を連れて行ってくれた。


 博物館や演劇に連れて行ってくれたり、レストランで食事をしたり。物々しい警備体制のなかではあったが、私は生まれて初めて、人生が楽しいと感じていた。エドワードの婚約の呪縛から解放されたことを実感していたのである。


 今日は魔国スタイルのドレスを仕立てに行くため、皇室御用達のブティックに来ていた。防犯上の理由で店内貸し切りで、デザイナーがその場でデザインをデッサンしてくれた。


 合計二十着もの各種ドレスを仕立ててもらうことになり、お金大丈夫かしら、と心配をしてしまった。


「次はドレスに合う宝石類を見に行きましょう」


「こんなによくしてもらって、とてもお返し出来ないです……」


「ははは、気になさることはございません。私はあなたが動いているだけで幸せなのですよ。この幸せの対価として、衣服や宝石では全然足りないです」


「動いて……?」


「変な言い方ですいません。私は十年間、毎日石像のあなたに話しかけていたのです。動いて話していただけるだけで、無上の喜びなのです」


 確かに私といるときの殿下は本当に嬉しそうだ。


 これって溺愛ってやつかしら……


 ここまでしてくれてると、お断りできないと思った。次の殿下の誕生パーティに、今日のドレスを着て、参加して欲しいとお願いされてたのだ。


「殿下、殿下のお誕生日パーティに出席させていただきます」


「え!? 本当ですか!? すごく嬉しいです。本当に嬉しいです」


「あ、殿下、ちょっと……」


 殿下が私の手を取って、私の周りを回り始めた。店員たちが目を丸くして驚いている。


 この純粋で一途に私だけを見てくれる素敵な殿方に、私はだんだんと心を奪われて行くのであった。


***


 シエルとアナスタシアは、東宮殿から少し離れたところにある旧貴族邸で暮らしていた。


「シエル様、エルザ様をゼクウ殿下に取られてしまいますよ。最近のエルザ様は殿下と一緒にとても楽しそうにしていらっしゃいます」


「アナ、僕は君と結婚したいのだ。エルザ様は関係ないだろう」


「まだそんなことを。シエル様、他の女を愛している夫なんて願い下げです。私にも夫を選ぶ権利はあると思うのです。私はシエル様とは結婚したくはありません。イチさんから合コンに何度かお誘いして頂いて、人生が変わったのです。私のことは気にしなくて大丈夫ですよ」


「僕はエルザ様を愛してはいないよ。アナの勘違いじゃないか?」


「シエル様、私はシエル様を愛していましたが、諦めて新しい人生を歩むことに決めました。シエル様も思い通りの人生を歩まれてはいかがでしょうか」


「アナ……」


「それか、シエル様も合コン始められてはいかがですか? 人生変わりますよっ」


(亡命生活を送っている僕が、皇太子殿下からプロポーズされているエルザ様に言い寄っても、彼女の人生の邪魔にしかならない。それに、アナの献身的な性格に僕は惹かれていたことに、ようやく気づいたんだ。どうすればいい?)


***


 ある日、アナスタシアがイチと彼女の友人とで、合コン会場であるレストランに入って行くと、テーブルに黒髪黒目の美形が座っていた。


(シエル様によく似ているわね、っていうか、シエル様!? 何でこんなところにっ!?)


「シエル・パルマです。よろしくお願いします」


「アナスタシア・マルソーです。よろしくお願いします」


(アナ、最初からやり直して、誠意を見せて、僕が好きなのは君なんだと分かってもらえるようにするよ)

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