第14話 結婚を申し込まれました

 目が覚めたら、見知らぬ女性が私の脈をとっていた。


「起きたようじゃな」


 見た目は若く美しい女性だが、話し方が老婆のようだ。私はあの苦しい王妃教育時代に魔国語を徹底的に叩き込まれているので、間違ってはいないはずだ。


「先生でしょうか?」


「そうじゃ。おばばと呼ばれておる。ほれ、水を飲むがよい」


 私は頷いて水を飲んだ。おばばが再び脈を取り始めた。


「なるほどな。お主、魔力増強は初めてか?」


「すいません、よく分かりません」


「よいか。どんな訓練をしたのか知らぬが、いま、お主の体内では魔力強化が盛んに行われておる。喉が渇くのはそのためじゃ。魔力強化のための魔力が足りず、枯渇すると魔力を生産するために長く眠ってしまうのじゃ。だが、徐々に魔力が足りてくるようになる。安心せい」


「ありがとうございます」


 だが、魔力に変化があるような感じはしなかった。


「何じゃ。腑に落ちぬ顔をしておるのう」


「はい、あまり魔力が変わったという感じがしませんので」


「先ほど魔力計でお主の魔力と魔圧を測ってみたのじゃが、測れなかったぞ」


「魔力計……ですか?」


「何じゃ、知らぬのか。まあよい。お主の魔力、魔圧とも大きすぎて、測定不能じゃ。わしは六十年間医師をしているが、こんなことは初めてじゃぞ」


 ろ、六十年? どう見ても、二十代じゃない。


「お主、考えていることが直ぐに顔に出るの。本当に貴族か? わしの一族は魔力が循環する体質でな。長寿なのじゃよ」


 そのとき、ゼクウが入室して来た。


「おばば、どうだ? おお、エルザ殿、お目覚めか。具合はいかがでしょうか?」


「殿下、おはようございます。今のところ、大丈夫です」


「ふむ、殿下の脈が異常に高くなっておるの。恋煩いか?」


 いつの間にか、おばば先生が殿下の脈を測っていた。


「お、おばばっ。要らぬことを申すなっ。エルザ殿、お気になさいませぬよう。美しい女性を前にすれば、どんな男も脈が速くなってしまうものです」


 私はどう答えていいのか分からなかった。


「それでは、おばばは消えるとしよう。お大事にな」


「ありがとうございました」


 ゼクウは苦々しい顔でおばば先生を見送ったあと、私に向かって話始めた。


「お目覚めになったばかりで恐縮ですが、今後について、シエル殿たちと話し合いました。エルザ殿のご意見もお伺いしたいです」


「はい、大丈夫です」


「王国と魔国が長らく戦闘状態になっているのは、十年前と変わりはありません。パルマ家は魔族にとって宿敵ともいえる厄介な相手でしたが、王室がパルマ家を自在に使える戦力にしようと実力行使に出ています。それに抵抗するシエル殿は王室から命を狙われてました」


「そんなことになっておりましたの?」


「はい。王と王妃のペア魔法が強力で、王室の戦力がパルマ家を上回っているそうなのです。そういった事情で、シエル殿は魔国への亡命を表明され、魔国も受け入れました」


「そうですの!?」


「はい、そして、エルザ殿、私の妃になって頂けないでしょうか」


「キサキ……、ですか?」


「はい、私と結婚して頂きたいのです」


「け、結婚!?」


「もちろん今すぐにとは申しません。ゆっくりと私の人となりを見極めていただいて、エルザ殿のお眼鏡にかなうようでしたら、是非お願いします」


「す、すいません。そ、その、あまりにも突然で……」


「驚かせてしまって申し訳ございません。私は十二歳のときに、石像のあなたを拝見し、以来十年間ずっと想い続けて来ました。しかしながら、この想いを一方的に押し付けるつもりはございません。どんなお答えであろうとも、ここにはずっと居ていただいて結構ですので、じっくりとお考え下さい」

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