第四章 戦争編

第18話 魔力が凄いことになってます

 東宮殿には学園と同等規模の魔闘技場があり、私は殿下とのペア魔法の相性を確認しに来ていた。


 先日、私たちよりも一足先に結婚式を挙げたシエルとアナスタシアも立ち会ってくれている。


 殿下は最近は毎日ここで、軍の魔法部隊とともに、シエルから魔法構文のレクチャーを受けていて、シエルが言うには、殿下はすでにエドワード以上の構文が書けるようになっているとのことだった。


「では殿下、さっそく送ってみますね。十年ぶりですので、ちょっと心配ですが」


 私は殿下に触れられるところまで近づいた。


「エルザ、君の魔力と魔圧はどれぐらいなのだろうか? おばばから、君とペアするときにはくれぐれも慎重に対応するようにと言われているんだ」


 殿下には「エルザ殿」では固いから、「エルザ」と呼んで欲しいとお願いしたのだが、なかなか慣れないようだ。敬語で話すのもやめてもらった。


「おばば先生が測定不能とおっしゃってました」


 殿下が少しギョッとした感じになった。


「私にしっかりと制御できるかどうか、少し心配だな」


 私たちの会話を黙って聞いていたシエルが、近づいて来た。


「殿下、魔力抵抗を構文に入れるとよいです。ちょっと鑑識魔法で見ていてください。アナ、お願いするよ」


「はい、あなた」


 アナスタシアがシエルに魔力を放出した。シエルの背中全体で魔力が滞留しているのが、鑑識魔法で見ることができた。


「なるほど。エルザ、一度、試しにシエル殿に魔力を送ってみてくれるか? シエル殿であれば、万一の事態にも柔軟に対応できるだろう。私はまだ少し構文の構築速度に自信が持てないのだ」


「はい、分かりました。シエルさん、よろしいですか?」


「はい、念のため、十分の一秒だけの放出にして下さい」


「かしこまりました。さらに念のため、片手だけで放出します。行きます」


 私は右手をシエルの右肩に乗せて、魔力の放出を始めた。


 あれ? 熱い!? 私は咄嗟に魔力の放出を止めた。


「うぐっ、と、止めてください」


 シエルが叫んだ。


「は、はい。すぐに止めました。十分の一秒にも満たないですが、なぜか魔力に熱が有ります。シエルさん、大丈夫でしょうか?」


「大丈夫です。驚きました。エルザ様、とんでもない魔力と魔圧です。この程度の抵抗回路では耐えられないです。凄いです。ソフィアの十倍以上だと思います」


「そんなに!?」


「もう喉は渇かないのですよね?」


「ええ、でも、睡眠は毎日十二時間必要なの」


 石像化する前は毎日八時間だった。


 シエルが何かを考えている。やがて口を開いた。


「殿下、人族を圧倒できます。圧倒的な差ですので、大きな被害なく、戦争を終わらせることが出来きると思います。平和を実現するため、王国の王家を倒して、大陸を統一しましょう。私に案があります」


 そう言って、シエルは彼の考えた案を私たちに説明し始めた。


 一言で言ってしまうと、私を中心に魔法部隊を編成するという案だったが、殿下は私が戦場に出ることに難色を示した。


「殿下、戦争を終わらせる手段があって、それに私が必要であれば、私はお役に立ちたいです。ご心配なら、殿下がそばにいて、守ってください」


「分かった。エルザは絶対に私が守る」


 殿下は力強く答えてくれた。


「殿下」


 私は殿下を熱い目で見た。


「エルザ」


 殿下は優しく包み込むように微笑んでくれる。


「エルザ様、お二人だけのときにやっていただけますか?」


 アナスタシアが不敬にも私たちの間に割って入って来た。

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