第9話 お迎えが来られるようです

 シエルはアナスタシアを連れて魔国入りした。


 シエルが国外に出たことが知られれば、残してきたパルマ家は一時的に王家の配下にならざるを得ないだろうが、これは一時的な後退だ。シエルはいつか必ず挽回するつもりでいた。


 シエルとアナスタシアは魔国との国境の山を徒歩で越え、すっかり日が落ちて暗くなった山道を進んでいた。


「このあたりで迎えが来るとの話でしたが」


 アナスタシアが持っていたランタンを高く掲げて、夜の道を少し遠くまで照らした。


 すると、それに答えるかのように先の方にランタンの光が見えた。


 シエルたちは一応攻撃されることも想定し、防御魔法で結界を張っていたが、必要はなかったようだ。


(少なくとも石化解除をするまでは安全なようだ)


 シエルは何度もそう考えてはいたが、数百年もの間、国交のなかった魔国への訪問は、さすがのシエルにしても、肝が縮む思いだった。


 ランタンの光の方に進んでいくと、馬車が用意されていた。


 女性の使いが控えていて、丁寧にお辞儀をした後、流暢な王国語で話し始めた。


「ようこそおいでくださいました。これから首都のカサンドラまでお連れいたします。お二方のご案内役を務めさせていただくイチと申します。ご質問やご要望がございましたら、遠慮なくお申し付けくださいませ」


 馬車のほろが開けられ、シエルとアナスタシアは中に入り、隣り合わせに座った。イチも中に入って、シエルの対面に座った。


「早速の質問だけど、カサンドラまではどれぐらいの道のりかな?」


「二週間ほどかかります。幹道に沿って点在する宿場町に泊まりながらになりますが、お部屋はご一緒でしょうか。別々でしょうか」


「一緒でたのむよ。夫婦でも恋人でもないのだけれど、ペア魔法使いなんだ。離れると危険だから、って、言い訳することでもないか。ははは」


 シエルのこの言葉に対して、アナスタシアは全くの無表情だった。


「さようでございますか。了解いたしました。そのように手配させていただきます。お気づきかと思いますが、私を含めて、全部で六名で護衛させていただいております」


 馬車の前後左右に護衛がそれぞれ一名ずついることは、シエルもアナスタシアも気づいていた。


(御者とイチと合わせて六名か)


 シエルは索敵魔法をいったん解除した。


「誰からの護衛なのかな?」


「お二方のご案内は極秘裏に行っていますが、万一、漏れてしまった場合、パルマ家の戦力を落とすいいチャンスとばかりに、無作法をしでかす輩が出ないとも限りませんので」


「ははは、正直でいいね。ここでも僕たちは嫌われ者か……」


「ゼクウ様は味方でございます。石像の秘密を握るお二方を死守せよとの命を受けております」


「イチさんは石像を見たことがあるのかい?」


「はい、ございます。とても美しい石像です。下着姿ですが、伏し目がちで、おしとやかで清楚な表情をされています」


「し、下着!?」


「はい、シュミーズ姿でございます」


 シエルがそれを聞いて、そわそわし始めた。アナスタシアの表情はますます能面のように変わっていった。

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