第6話 品性下劣な男でした

 私は魔闘技場に足繁く通うようになった。


 ペア魔法の練習の技術指導をして欲しいとシエルから依頼されたためだ。これからも相談に乗ってくれるという約束を早速果たしてくれたのだ。


 エドワードに許可をもらいに行ったところ、好きにしていいとのことだった。束縛が強いエドワードにしては珍しいと思ったのだが、パルマ家が絡んでいるからだろうか。


「王太子の選定にパルマ家の発言がかなり影響します。エドワード王子は、しばらく我々には敵対しないと思います」


 私が意外だったと報告すると、シエルがそう説明してくれた。


 ペア魔法の練習には、当然のことながらソフィアも一緒に参加しているが、シエルと二人きりで会うのは誤解を生むため、ソフィアがいる方が都合が良かった。


 シエルが練習を始めるようだ。ソフィアがシエルの両肩に両手を乗せ、魔法を繰り出した。


(え? 何なの、これ……)


 ただただ圧巻だった。


 ソフィアの魔力と魔圧もすごいが、シエルの構築する魔法構文がそれ以上に素晴らしい。複雑な構文が整然と記述され、幾つもの魔法が同時に発動し、相乗効果を上げながら数倍もの威力で繰り出されて行く。


(これに勝てる人なんて、いないわよ)


 学園でのペア魔法1位は恐らくソロランク1位の私と3位のリリアナのペアであろう。しかし、私はこの二人に勝てる気が全くしなかった。


「エルザ姉様、どこか気になる点はございますか?」


 ソフィアがちょっと自慢げで、可愛らしい。


「全然ないわ。あなたの素晴らしい才能を活かせるようになってよかったね、ソフィア」


 ソフィアは私が素直に褒めてくれるとは思っていなかったらしい。少し意外そうな表情を浮かべたあと、はち切れんばかりの笑顔になった。


「はい、嬉しいです。いいパートナーに出会えて、本当に良かったです」


 多分このときの私の対応がソフィアの琴線に触れたようで、以降私に懐いてくれるようになった。


「エルザ様、その後、いかがですか?」

 

 ソフィアがお花摘みに行っているときに、シエルが話しかけてくれた。


「私に知られて開き直ったみたい。もう遠慮なくやっちゃってくれてるわ。ソフィアは諦めて、別の新入生を狙っているようよ」


「アナスタシアです。学園内でこれ以上手を出さないようパルマ家当主から王室に申し入れしてもらいました。エドワード王子は、容姿が美しく魔法の才能の高い女性ばかり狙っています。王国のためにも、才能ある女性には、今は学業を優先して欲しいですから」


「殿下はパルマ家から目を付けられているのかしら?」


「はい、王太子不適格と見ています。ただ、魔法の才能がありますので、まだ少し可能性は残っています」


 魔法は女性の方が適性が高く、魔法学園の八割が女性で、試験のランキングもシングルナンバーと呼ばれる上位9名のうち、8人までが女性だ。そのなかでエドワードは私に次いで2位に付けている。男子がシングルナンバーに入るのは二十年ぶりだそうだ。


「不適格というのは女癖が悪いから?」


「こう言うとご不快にお思いになるかもしれませんが、王族が複数の女性と関係を持つこと自体は問題にはなりません。そこではなく、関係を持つ方法に問題があります。ソフィアのときのように、弱みを握って、弱みにつけ込んで、強引に関係を結んでいるのです」


 最低じゃないの……


「一言でいうと品性下劣で、とても王位を任せる品格ではありません。ただ、昨今は魔族との戦いが激しくなって来ており、強い王が必要です。多少品格がなくても、強くないと不味いのではないか、との意見もあり、首の皮一枚残している状況です」


 私はますますエドワードのことが嫌いになった。


 もう待てない。さっさと別れてしまおう。

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