第46話 自己中でエゴで
気が付けば、時計は夜10時を回っていた。
7時過ぎから始まった化け物狩り。行った戦闘は全3回。
最初の1回目は少々危うくなくもないかもしれない始まり方であったが、後の戦闘は特に危機という危機も無く、俺も能力を使うことなく終わっていった。
そして最後の戦闘が終了すると、冴島さんが「今日はこれで切り上げよう」と言い出したので、俺達は一旦出発地である公園に戻ることにした。
「はぁ......」
公園のベンチに座り、小さな溜息を一つ。
張っていた肩をらっくりと下ろし、心的ペースを安定化させる。
そんな俺の姿を見て冴島さんは、
「君さ、こう言うべきではないのかもしれないけど、そこまで疲れる? 戦闘は主に私がやってたんだから、そんな仕事終わりのサラリーマン的な感じ、ちょっと謎なんだけど?」
と言いながら腕を組む。
「ほぼ戦闘してなくても、一般高校生にとって3時間の歩き詰めはキツいんだよ。加えて、能力使ったからひっきりなしに頭は痛いし。これくらいは仕方がないと思っていただいて。逆に、冴島さんは疲れてないの?」
「私、丈夫なので。鍛えてますから」
フンと鼻を鳴らす冴島さん。どこかの鬼というか、おっさんライダーが言いそうなセリフである。「シュッ」と口にしたら確定だ。
「そっか。流石だなぁ」
感心し、当然のことだと納得する。
魔術師というのは、一般人と体の作りが少々異なると冴島さんから聞いたことがある。であるのならば、体力面も恐らくそうなのだろう。
でもなんか......それだと違和感がある気がするけれど......
ま、気のせいだろう。何せ魔術世界は全く分からん。
一般人からの違和感も、魔術師から見れば普通なのだろう。
だが、そんなことよりも。
「......冴島さん、1つ気になってること聞いていいか?」
「唐突ね。何?」
首を傾ける冴島さん。
「化け物退治をするのは、当然今後も手伝うつもりだ。しばらくはこれが続くんだろうとも思ってる。でも、本来の目的は化け物とか怪物とかの撲滅じゃない。どう考えても、この行動は目的とズレてると思うんだ」
そう。この活動は本来の目的と関係はあるが、解決のカギではない。あくまでも関係があるだけのものだ。化け物退治を続けたところで、根本的な解決までは至らないのだ。
では、本来の目的とはなんなのか?
「......うん、それで?」
「本来の目的–––––––それは化け物達の殲滅とかではなく、発生の原因となる魔術師の捜索、そして排除だ。けれど、そうなると疑問が出てくる。–––––––なんで化け物を殺す必要があるんだ? 殺して回ったところで、敵魔術師には辿り着けないだろう?」
ずっと気になっていて拭えることのできなかった疑問。そもそもの謎。
冴島さんは難しそうに視線を揺らす。
「確かに、君の疑問はごもっとも。普通だし、当然ね。理由としては多々あるんだけど、主な理由としては敵魔術師のいぶり出しね?」
「いぶり出し?」
「ええ。分かってるとは思うけど、私達は依然、敵の居場所を突き止めることができていない。今も絶賛捜索中ではあるけど、居場所に関しては半場お手上げ状態と言っても過言ではないわ。そうなると、敵魔術師が表に出ざるを得ない状況を作り出すしかない。化け物が減っていけば奴も気が気でなくなる筈。駒が使えないのなら、邪魔者は自分の手で直々に......ていう考えにさせるの」
冴島さんはそう言う。
確かにその考えと手段は間違っていない。隠れ家を探すなら自分から出てこさせる......ドラマなんかでよく見る手だ。
でも、同時に疑問が出てくる。
「そんな都合よくいくものなのか? 考えとしては良さそうだけど、現実的かって言われればやっぱり疑問が残る」
「正しい疑問ね。でも魔術師っていうのはそういうものなの。何せ彼らにとって魔術の研究、実験、開発は人生そのもの。それ故に、他人に妨害されるなんて溜まったものじゃない。だから排除はなるべく早めに、徹底的にしておきたいって考えになるの。たとえ自身の身を危険に晒してでも–––––––南くんには分からないかもしれないけど、魔術研究の失敗=死みたいなものなのよ、魔術師にとって。まあ、私も魔術師だけどよく分かってないんだけどね、本来の魔術師としての考えとか」
どうしようもなく呆れるように溜息を吐く冴島さん。
同族嫌悪......いや、異属嫌悪というべきか。彼女も魔術師だが、その考えは理解ができていないようだ。
「......そう言われてみてしまうと、複雑そうに見えて意外と単純なんだな、魔術師っていうのは。なんかガッカリだ」
「今更? 魔術師なんてロクでもない連中だって、知らなかった?」
「教会で腹黒い事実を聞くまでは知らなかったよ。最初に会った魔術師が良い魔術師だったんだからさ」
冴島さんに視線を向ける。お前のことだと目で知らせる。
彼女は俺と目線を合わせると、一瞬ほんのりと頬を赤く染めた気がしたが、すぐに冷めたように視線を逸らした。
「良い魔術師なんて......そんなわけないでしょ」
眉間にシワを寄せ、彼女は否定する。
「いいや。冴島さんは良い魔術師だ。謙遜するなって」
俺はそれをさらに否定する。
しかし、彼女は首を横に振る。
「謙遜とかじゃなくて。ホントに私は–––––––」
納得できないのか、するわけにはいかないのか。彼女じゃない俺にはその真意を理解することはできない。
でも......それでも俺は自身のエゴ的考えを貫く。
「冴島さんがどれだけ自らを否定しても、俺はその分だけ否定してあんたを肯定する。あんたが自身を悪い魔術師だと言い続けても、俺はあんたのことを良い魔術師だと思い続ける。たとえどちらかが正しくて、どちらかが間違っていたのだとしても、今この瞬間は、冴島さんは良い魔術師なんだって言い張るさ。異論は認めない」
真っすぐに、正面から。
顔を背ける彼女に対して、俺は顔を逸らさない。
だって、本気で思っているのだから。
やがて、彼女は「はぁ」と溜め息を1つ吐き、呆れたように微笑みながら、
「まったく、自己中すぎ」
「今更? 生憎、俺は自己中心的でエゴな人間だ。知らなかった?」
「知ってた。でも、まあ......うん、そういう君みたいな自己中は嫌いじゃないかな」
ニヒっと笑う冴島さん。
太陽に照らされるヒマワリのような笑み、というよりは、月に照らされる湖のような笑みである。
その微笑みはやはり、言うまでもなく......美しい。
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