第39話

 察してよと言われても言ってくれなきゃわからないじゃないか……。

 最初に出会った時もそうだったけど、マリルゥが何を考えているのか分からない事がある。

 人族とエルフだとやっぱり違うのだろうか?


 「マリルゥが何に対して怒ってるのか、言ってくれないと分からないよ。

  やっぱり僕の発言は失礼だったかな?

  ごめんね……」

 「謝って欲しいわけじゃないわよ」


 「わかった。

  じゃあ、どうすればいいのかな?」

 「自分で考えて」


 自分で考えてとか言われても分からないって言ってるのに……。

 アサギが後になると何をするか分からないって言ってたし、放っておくわけにもいかない……。

 食い下がってみるかぁ……。


 「せめてヒントを出してくれないかな?

  察してよって言ってたけど、僕でも分かる事なの?」

 「ヒント……ファーリー」

 

 ファーリーがヒントか。

 僕はファーリーのパパでマリルゥはママだ。

 つまり、僕が妃を選ぶとファーリーが可哀想というわけか。

 あの時は勢いでファーリーのママになっただけかと思ったけど、ちゃんとママになってくれてるんだな。


 「心配ないよ。

  僕は仕事が忙しくてなかなか構ったりは出来ないけど、その分時間が出来た時にはちゃんと愛情を持って接するよ。

  ファーリーが望むなら三人で部屋を繋げたりしてもいいと思っている」


 マリルゥは手を振り上げた。

 不正解かと思ったけど、なかなか振り抜いてこない。

 けど、結局頬を打たれたので不正解だった用だ。

 でも、少し躊躇った所を見ると、若干正解に近かったのかもしれない。


 「マリルゥがファーリーに対してそこまで母性があるんだって知らなかったんだ。

  だから、改めて聞かせて貰うけど、僕にどうして欲しいのかな?」

 「……ヒント、私」


 私? さっきの流れからすると、ヒントであるファーリーの事について僕は答えを出した。

 もしかして、マリルゥ自身の事について僕は答えを出さないといけないのか?

 となると、ヒントのファーリーも考慮したら、ファーリーの親?

 

 僕が結婚した場合のマリルゥとの関係……別になんの問題もないじゃないか。

 でも、僕も学習しないわけじゃない。

 ここで、安易に大丈夫だよと言ったらまた叩かれてしまう。


 もっと深く考えるなら……マリルゥと僕はファーリーから見れば夫婦だ。

 つまり……マリルゥは僕と本当の夫婦になりたい?

 流石にそれは飛躍しすぎている。

 そもそも種族が違うし……でも、これだけ怒っているのなら、今はその答えくらいしか思いつかない。


 「マリ――」


 待て。

 もしその可能性が正しかった場合、「マリルゥは僕の事が好きなの?」なんて聞いては駄目だ。

 その場合、当たっていたとしても「察してよ」と言って殴られる。


 状況的に見て「気づいてあげられなくて、ごめんね。 僕も気持ちは同じだよ」みたいな事を言って抱きしめるとかしないと駄目な気がする。

 でも、僕は契約しているアイドルには手を出さないと決めているし、答えるのならNOと言わなければならない。


 まだそうと決まったわけじゃないし、殴られる覚悟で聞いてみるしかないか。


 「今僕が思いついた事を話すから最後まで聞いてね。

  僕は、マリルゥが僕に恋愛感情を抱いているんじゃないかって考えてみたんだ。

  種族も違うし、それってどうなのかなって思ったんだけど、その可能性が正しければ、僕はその気持ちには答えられないと伝えなきゃいけないんだ。

  理由はマリルゥが恋愛対象として見れないとかではなく、僕の生き方の問題で、契約したアイドルとはそういう関係にならないと決めているから。

  ごめん、全然正解じゃないかもしれないけど、この答えじゃ駄目かな?」

 「じゃあ、アイドル辞める。

  ラストライブするけど、叶えて欲しい願いはある?」


 ええ……。

 本当に僕に恋愛感情を抱いているの……?

 アサギは相談でもされていたんだろうか?

 それならそうと言っておいて欲しかった。


 「ちょっと待って。

  考えさせてほしい。

  僕には覚悟がまだ足りないんだ。

  真剣にマリルゥの事について向き合える時間が欲しい」

 「わかった。

  どれくらい待てばいい?」


 そうだな……僕は13才だし、この世界での成人男性は16歳からだ。

 

 「3年で僕は成人する。

  その時までにはちゃんとした答えを出すよ」

 「私は3年かんどんな思い出過ごせばいいの……」


 ポロポロと涙を零すマリルゥの姿は見ているだけでたまれない気持ちになる。

 そんな悲壮感漂う姿を見せられてもと言う気持ちになるけど、3年は確かに長い。

 マリルゥの気持ちも分かる。

 エルフだからといって3年なんてあっと言う間、と言うわけでもないわけか。


 「ごめん。

  今、答えを出すと言うのなら仮にアイドルじゃなかったとしても断る以外の選択肢はないんだ。

  でも、僕にとってマリルゥはもう家族の様な存在だし、真剣に向き合っていきたいって思ってるんだよ。

  だから、時間が必要なんだ」

 「断るなら……ちゃんと気持ちを込めて伝えてよ……」


 マリルゥはその言葉を残して走り去って行ってしまった。

 気持ちを込めてか……ちゃんと考えるあまり、淡々とした言い方になってしまっていたのかもしれない。

 けど、僕は自分の気持ちに嘘なんてついていない。


 マリルゥの事も考えて誠実に答えたつもりだ。

 時間が解決してくれるのかもしれないけど……今の僕がやるべき事は待つ事じゃないと思う。

 けど、今のまま追いかけて行ってもきっとマリルゥを傷つけるだけかもしれない。

 僕は一度自室に戻り、アサギに相談してみる事にした。

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