第32話

 アサギに頼んでおいた書簡しょかんの返事が届いた。

 内容はファーブルを国として認める様に周辺諸国に出したものだったけど、流石に聖都ハルモニアで認められているお陰で周辺諸国からの返事は全て国として認めると言うものだった。


 ついでに、ファーブルではアイドル活動をしている事も伝え、冒険者ギルドの様に専用の施設でテレビ放送の許可も取ってある。

 まあ、国としては認めるけど、テレビ放送は却下した国が少ないけどいくつかあった。

 けど、殆どの国では認められたので、宣伝効果は十分だし問題ない。


 これで大腕を振って国を名乗れる。

 となると、これから外交も増えるだろうし、特産物なんかも用意しておきたいな。

 まずはアイドル。

 この世界唯一のアイドルだし、アイドルと会えると言うのはかなり価値のある事のはず、このファーブルでのみ、握手会を開こうと思う。

 宣伝は当然だけど、新に作った放送施設で徐々にやっていくつもりだ。


 施設の名前は、シンプルにファーブル放送局にした。

 他に競争相手もいないし、ショーンと相談して放送内容などを決める。

 放送に使っている機材などは全てキシン族に揃えて貰ってるので、お返しに技術者などの募集広告を放送でCMとして流す事にしている。


 しばらくはアイドルのライブを流すだけの放送になってしまうけど、そのうち日本で人気のあったバラエティー番組などをこの世界風にアレンジしてやっていこうと思う。


 この辺りは僕が少し提案するとショーンがかなりやる気になってくれているので任せておけば大丈夫そうだ。


 まだ放送局は出来ていないけど、試験的に最初の握手会を実施してみる。

 一応冒険者ギルド経由で宣伝はしたし、それなりの数は期待出来そうかな。


 ファーブルにはライブをする為に大きな広場を作っているので、そこで握手会用のステージを召喚する。

 人気にばらつきがあって、それが見えてしまうのも嫌なので、今回の握手会はアイドル全員と順番に握手する形にしている。


 アイドル達が横並びになってライズが率いる自警団の警備も付ける。

 よし、準備は整ったかな?

 アイドル達も用意は出来たみたいなので、早速会場をオープンする。


 ぞろぞろとフェルベールやファーブルの住民が整列して入って来た。

 表で数を数えていたアゲハから聞いた話によると8000人いるらしい。

 今後は参加者の人数に制限を設ける必要があるなぁ……。


 8000人って事は一人3秒でも6時間以上かかるぞ……。

 表ではショーンとバザーが物品販売などをしていてなかなか繁盛している様だ。


 ぞくぞくと握手をしてファン達が流れていく。

 ん? なぜか流れて来たファンが僕の前で立ち止まっている。

 手も差し出しているし……まさか、僕の握手が欲しいのか?


 嫌な顔をする訳にもいかないし、手を握ると、結構喜んでくれている。

 「僕はアイドルじゃないけどいいの?」と途中で聞いて見ると、グランドマスターは冒険者の憧れでもあるし、皆喜びますよと返事を貰った。


 確かにその通りだなと思い、今度からはアイドル達の横には並ばない様に、気を付けておこう。

 握手するのが嫌というわけでは無く、アイドル達が主役だから僕は裏方に回る方がいい。


 徐々に疲れてきたのか、三時間超えたあたりからアイドル達から笑顔が薄れて行った。

 これは少しまずいか?


 今並んでくれているファン達は常連ばかりだし、こちらの気持ちも分かってくれてるとは思うけど、宣伝を見て楽しみにしてくれてる人が無表情になってしまったアイドルと握手なんて事になれば幻滅されかねない。


 かと言って嫌々やらせる訳にもいかないし、どうしたものか……。

 一旦休憩を挟むか?

 いや、長時間待っているファン達に申し訳ない。


 まあ、今回は初めての試みだし、仕方がない。

 アイドル達から笑顔が消えて一時間。

 やけにアイリスが可愛いと言って去っていくファンが増えた。


 アイリスの表情は疲れているとはっきり書かれている。

 しかし、必ず握手をした時に「あーと、よろしくおながいします」と力なく答え、最後にニっと笑顔を作ってファンを見送っている。


 ああ、確かに可愛いな。

 後から握手するファン達もアイリスを頑張ってと励ましてくれている。

 セシリアは表情が硬く、引きつった笑顔になってしまっているけど、きちんとした対応を心掛けていて「応援ありがとうございます」などの受け答えを頑張っている。

 ちょっと声が掠れてきているから心配だな。


 ファーリーは……寝ているだと……?

 しかも、頭を撫でて下さいと書かれた紙を机に張っている。

 そして、ミルアがファーリーの頭の上で待機して、ファーリーの頭を撫でたファンの手を両手でスタンプを押すみたいにタッチしていってる。


 今の所クレームも無いし、これだけの数が集まるのを想定していなかった僕が悪いので大目にみるか。


 マリルゥは隣で見てたから知ってるけど、途中からファンに「飽きて来たから変わった事をして頂戴」と要望を出し、その後のファンが手を高くあげると、そこにジャンプしてハイタッチする形になっている。


 それは握手じゃないと注意しようと思ったけど、ファンは喜んでいたので止めずに続行させている。

 ジャンプしている姿がちょっと可愛いし、タッチする時に「ハイッ!」と言う掛け声も悪くない。

 たまに意地悪でハイタッチを躱して更に手を高く上げるファンもいるけどマリルゥはその時に「さーげーて!」と言ってパアンと強く手を強く叩くのでファンも楽しんでいるみたいだ。


 後はジャンプした時に……いや、僕は見ていない。

 僕はマリルゥをそう言う目で見ていないので、なにも見ていない。


 僕自身はおまけみたいなものだけど、ちゃんと「これからも応援をよろしく」と伝えている。


 アゲハから間も無く最後尾だと通信が入る。

 ようやく終わりが見えてきたな。


 アゲハの通信では、物品はすでに売り切れていて、再入荷した時の交換チケットを急遽作って配っているらしい。

 それと、アゲハはアサギと一緒にいるのだけど、アサギも握手を求められて外でも握手会をやっているらしい。

 なぜかアゲハもファン達と握手を交わしているのだとか。


 そして、最後のファンと握手を交わし、ようやく握手会が終わった。

 この場を解散して、次の日。


 ファーブルではアイリスの言っていた「ありがとう」を「あーと」、「宜しくお願いします」を「よろしくおながいします」と言う言葉が流行っていた。

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