第31話

 ライブが終わった後、ファーブルに戻って来た僕達はテレサのお墓に花を添えた。

 僕達はテレサの死を乗り越えた事で、もう涙を流す事はしない。

 アイリスも涙目ではあるけど、踏ん切りは着いたみたいだった。


 部屋に戻り、ベッドの上に横たわる。

 

 「マリルゥ? どうして僕の横で寝ているんだ?」

 「いいじゃない」


 「全然よくないんだけど……寝るなら自分の部屋へ行ってよ」

 「部屋に戻ると一人ぽっちじゃない」


 「まあ、いいけど。

  ライブをしていた時のマリルゥは凄かったよ。

  アイリスとセシリアは気分が沈んでたし、助かった。

  ありがとう」

 「別に大した事じゃないわ。

  それに、エルフにとって死は喜ばしい事だから、人族や獣人とは違った感性をしてるから」


 「それで、あんなに楽しそうに出来ていたんだ。

  悲しくは無いの?」

 「エルフだって仲間の死には悲しむし、死に対して恐怖も抱くわ。

  でも、エルフって寿命がほぼ無いに等しいから、仲間の死には心の底から喜びを捧げるの」


 長命種ならではの感覚なのかな。

 僕はテレサとの別れをとても悲しいと思っている。

 けど、マリルゥの言ってる事もよく分かる。

 生きている限り、色々な辛い目には合うだろうし、何気ない所でストレスも貯まるだろう。

 きっと人間でもそう言う感性がある人はあるんだろうなと思う。


 「うん、ありがとう。

  きっとテレサも皆に悲しんでもらうより、マリルゥみたいに喜んでくれた方がいいと思っているんじゃないかな?」

 「フフ、きっとそうね」


 僕はずっと天井を眺めていた。

 外交とか色々と考えないといけない事があるけど、今日はもういい。

 何も考えずボッーっと天上を眺めている。


 このまま目をつぶって眠ってしまおうか?

 ふと横を見るとマリルゥがずっと僕を見つめている。


 思わず内側から高鳴る鼓動が胸を打った。

 そりゃそうだ。

 思春期の僕の隣にマリルゥみたいな美しい女性が寝ているんだから興奮してしまうのも仕方がない。

 この雰囲気、僕にはちょっと刺激が強すぎる。

 気を紛らわせる為にも、会話をして落ち着こう。


 「マリルゥ、僕達が使徒と戦ったとして、勝てると思う?」

 「無謀なんじゃない?

  けど、やるなら勝てる算段を整えてからね」


 「マリルゥの天藍石てんらんせきの魔法もあるし、チャンスはあるかもしれないね。

  でも、正直に言うと、世界最強の強者相手に勝てる気がしないな」

 「世界最強?

  番人の使徒の事?」


 「ん? そうだけど?」

 「番人の使徒が世界最強じゃないわよ?」


 「番人の使徒が世界の頂点にいる存在じゃないの?」

 「支配者としては頂点にいるけど、戦ったらドラゴンとかワルキューレの方が圧倒的に強いわよ」


 信徒ですら異次元の強さに感じたのに、その上位に君臨する使徒を遥かに超える力を持っている存在がいるのか……。

 下手を打てば今でも世界は滅亡してしまうんじゃないか?

 でも、仲間に引き入れる事が出来れば圧倒的な戦力になるし、興味もある。


 「ドラゴンとワルキューレに関して教えて貰えるかな?」

 「ドラゴン自体は沢山いるけど、使徒を越える強さを持っているのは三匹のドラゴンロードと言われる個体だけね。

  神々の最後の大戦では三つの種族を滅ぼしたと言われてるわ」


 「じゃあ、最前線で戦ってたって言うエルフともドラゴンロードは戦ったの?」

 「その当時でエルフの軍勢と互角に以上に戦ってたって言うから歳を重ねた今はもっと強くなってるかもしれないわね」


 エルフの軍勢なら使徒も倒せそうな言い方だけど、エルフを使徒にぶつけるなんて事は出来そうにないか。

 それと同等以上のドラゴンロードは相当強いな。


 「ドラゴンロードを仲間に引き入れる事は出来ないかな?」

 「多分無理ね。

  余程機嫌がいい時でもなければ話も聞いて貰えないと思うわ。

  命が惜しければドラゴンロードには会わない方がいい」


 「それじゃあ、ワルキューレはどんな種族なの?」

 「ワルキューレを仲間に引き入れるのはもっと難しいわ。

  神々の大戦で最初から最後まで生き残った唯一の生物。

  そして、番人が直接手を下した唯一の生命でもあるのよ。

  ワルキューレは九人居て、無傷で大戦を生き残った。

  けど、番人はあまりに強力なワルキューレ達に直接攻撃を仕掛けたわ。

  そのうち生き残っているのは一人だけだけど、番人から見逃されたわけじゃなくて、番人の力をもってしても止めを刺せなかったって言う化物よ」


 ワルキューレの強さは異常だ。

 けど、仲間に加わってくれればこれ程心強い味方もいない。

 

 「ワルキューレは今どうしてるのかな?」

 「ずっと天空から地上を見て周っているらしいわよ。

  ただ、意志疎通を計れた者はいないとされているし、この広い世界の何処にいるかわからないから探しようもないわね。

  一応、戦争している場所にはよく現れると言う話しを聞くけど」


 戦場に現れると言う事は、北欧神話のワルキューレと同じかな?

 でも、この世界には北欧神話の主神であるオーディンはいないだろうし、死後の世界ヴァルハラもない。

 もっとよく知るには接触して見ないと分からないか。


 「ワルキューレの目的とかって分からないよね?」

 「わからないけど、エルフの言い伝えでは今も番人の命を狙っているって話ね」


 聞けば聞く程、話の通じる相手ではなさそうだ。


 そろそろ僕も落ち着いて来たし、この距離感にも慣れた。

 散歩にでも誘って、帰り際に別れよう。


 「マリルゥ、ちょっと散歩にでも行かない?」

 「良い夜だし、構わないわよ」


 僕達はベッドから下りて、城の外へ出た。

 言い夜か。

 確かに月も綺麗だし、涼しい風も気持ち良い。

 まだ森の門番には会ってないし、挨拶でもしに行こうかな。


 森の入り口へ行くとトレントが門番をしていた。

 シルウかセルヴァの支配下にあると思うけど、話は通じるのかな?


 「こんばんわ、門の管理をしてくれていると思うんだけど、何か不便な事とかない?」

 「……ない。 フタリ、許可ある。

  トオルか?」


 片言だけどちゃんと門番もしているし、最低限の会話は出来るみたいだ。

 不便な事もないみたいだし、皆ちゃんとルールは守ってくれているみたいだな。


 今日は通らないと伝え「ご苦労様」と声を掛けた後、城へと引き返す。

 そして、そのままマリルゥの部屋の前まで行って、マリルゥに別れを告げた後、自室へと戻った。


 

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