第29話
アサギはイブローニュの部屋の用意などがあると言う事で、イブローニュは僕に着いて来ている。
地下の施設を見られるのはあまりよくないけど、僕が用があるのはヒュージビートルだけだし、施設をじっくり見る訳でもないから構わないか。
相変わらず興奮気味なヴィルヘルムがお出迎えしてくれたけど、気になる様子も無かったので、そのままヒュージビートル達の部屋へ。
この子達もいつも通り、僕に踏まれに来てくれる。
ん? なぜかイブローニュがヒュージビートル達の列の最後尾に居座っている。
まさか、踏まれたいのか?
順番に踏んで行ってあげると、最後にイブローニュが僕の足元で跪き、
「ちょっと……どういうつもり?」
「主様の
出来る事ならその御御足で直接」
気持ち悪いなぁ……。
まるっきり変態じゃないか。
「僕の従者であり続けたいと言うのなら、そう言う行為は止めてもらえるかな?」
「左様でございますか……でしたら、今一度だけ……どうかその御御足で!」
一度だけと言うのなら、踏みつけるだけだし別に構わないけど……。
僕がイブローニュの頭に足を乗せると、ヒュージビートル達と同じ様に押し返してくる。
イブローニュは「もっと強くお願いします」だとか「ああ、未発達な四肢を感じる」だとか気持ちの悪い事を言ってたけど、いつまでも満足しそうにもないし、適当な所で切り上げた。
「非常に素晴らしい光景が見えました」
その一言を無視して、アサギの部屋へと向かった。
ノックしてドアを開けると、珍しい光景が僕の目に映る。
アサギは武器を手にしてした。
しかも、日本刀?
汗を掻いているし、素振りでもしていたんだろうけど、この世界に日本刀があるのは驚きだ。
「すみません、私も自分の身を守る術を学びたくて剣の素振りをしていました」
「それって日本刀?」
「日本刀……ですか?
この剣のことでしたらコオロギと言う国の飛刀と呼ばれる剣です。
攻撃だけじゃなく、防御にも長けた剣なんですよ」
コオロギに飛刀……もしかして過去に日本人の転生者が居て、作った国なのかな?
そうだとしたら、少し興味がある。
「その国は建国してどれくらい経つんだ?」
「詳しくは知りませんが、500年くらいの歴史があると聞いてます」
500年前なら室町時代辺りになるし、戦国時代か。
「コオロギの国王について分かっている事があれば教えて欲しいな」
「では、今度詳しく調べておきますね。
私の知っている範囲でお答えするなら、現在の国王は
貴族達は国民を酷使し、力を研ぎ落して従順に振る舞う事を義務化している……そんな国です。
初代国王の名前はナガト・コオロギ。
現国王の名前はオウキ・コオロギですね」
オウキは分からないけど、ナガトは日本っぽいな。
聞いた限りなら、やっぱり転生者がいたんじゃないかと思える。
日本刀が武器として扱われているなら、服装も影響を受けているかもしれない。
僕はアサギ格好を新しくコーディネートした。
今まではフォーマルな洋風のドレスだったけど、赤と黒の振袖に変更する。
一応動きやすい様にスリットを入れたりしているけど、余計な気づかいかもしれない。
そこまで女性服の事は詳しくないので、適当でいいだろう。
そして、刀も服装に会う様に新しく作ってみた。
「どうかな?」
「有難うございます!
素敵なお召し物ですね。
少し違いますけど、コオロギの貴族がこの様な形の服を着る風習があると言う話しは聞いた事があります。
コゼットさんはご存知だったのですか?」
「僕の同郷で似た文化があったと言うだけだよ。
コオロギの事は全然知らない」
「そうなんですね」
アサギは上機嫌になり、袖をフリフリして遊んでいる。
可愛らしい姿だけど、今はアサギの方が背も高いし頭を撫でたりは出来ないかな。
それはそうと……お召し物って言ったし、アサギの故郷はコオロギかもしれない。
何故かアサギからそれを告げていないけど、一応聞いておくか。
「アサギはコオロギ出身なの?」
「違いますよ」
食い気味で否定されたって事は……まあいい、アサギが否定するのならそう言う事にしておくか。
「そうだった、イブローニュの部屋の準備は整ったのかな?」
「はい、用意は整っています!
今からご案内しましょうか?」
「うん、お願いするよ。
それと、今後は外交を広めていくつもりなんだけど、周辺諸国のリストアップも頼める?」
「わかりました。
それでは、イブローニュさんは私に着いて来て下さい」
アサギを宰相に就任させたのは僕だけど、仕事も真面目だし思った以上に有能だ。
もっと国民が増えた時に、宰相を増やそうと思ったけど、しばらくはその必要も無さそうかな。
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