第27話

 ファーブルに帰った僕は、溜まっていた仕事を片付け、一週間があっと言う間に過ぎた。

 特に移民を受け入れた事で沢山居た元ジール獣王国の住民達とのトラブルが多発している事には手を焼いた。

 今はアサギと考えて法を作ったので、トラブルにはすぐ対応できるようになっている。

 一応ライズと一部のキシン族に自警団を頼んでいるので、治安も良くなっていくはずだ。

 

 僕の部屋にアサギが訪れる。

 客人が来ているみたいだけど、様子や言動がおかしいらしく、僕の下僕になる為にここへ来たと言っている。

 ギルドの募集を見て来たのかと思ったけど、どう見ても冒険者ギルドに立ち寄るような身形ではないらしく、アサギには上位の貴族か王族に仕える様な立派な聖騎士の様な出で立ちだと言う。


 一応、丁重に扱うべきか。

 そう思って、僕は謁見の間に皆を集めた。

 僕は玉座に座り、来訪者を待つ。


 扉を開けて入って来たのは、本当にアサギが言った様に立派な聖騎士の出で立ちをした成人男性だった。

 その男は聖都ハルモニアで僕がやったみたいに、片膝をついて頭を下げる。


 「私は、光の使徒で在られるアムルシ様にお仕えしていた光の信徒、イブローニュと申します。

  どうか私をコゼット様の下僕にしていただきたいと思い至り、着た次第であります」


 光の信徒?

 能力を見ると、身体能力、魔法能力共にAAA。

 サイファーと同格の存在だし、本当に光の信徒なのか……。

 それがなんで僕なんかの下僕になりたいだなんて言っているのか意味がわからないぞ?


 まあ、心当たりは無くもない。

 それに、戦力としては申し分ないし、色々と聞きたい事もある。

 信用するかどうかは別として、イブローニュの事は受け入れよう。


 「わかった。

  それじゃあ、今からイブローニュは僕の従者だ」

 「有難き幸せ。

  どうかこの剣をお納めください。

  かつてアムルシ様がお使いになっていた真実の剣。

  剣を向けられた相手は任意の嘘は付けなくなると言う代物です」


 嘘がつけなくなる剣か。

 あまり使いどころは無さそうだけど、くれると言うのなら貰っておこう。

 僕がイブローニュから剣を受け取ると、剣が丁度いい感じのサイズに変わる。

 すごい剣だな。

 心なしか、皆が大きく見える……。


 と言うか、凄い驚いているな。

 真実の剣……そう言う事か。

 足元を見ると、革靴じゃなくて運動靴を履いているし、袖には校章の入ったボタンも着いている。


 真実の剣の効果で、元の僕の姿に戻ったな。

 この世界の体を僕は気に入っていたのに……。

 試しに剣を手放してみたけど、学生服のままだ。


 まあ、仕方ない。

 僕はこれが本来の姿だと皆に伝え、国民に聞かれた際には光の信徒からもらった秘剣の力で若返ったと伝える様に指示を出した。


 「それじゃあイブローニュ。

  いくつか君に聞きたい事があるんだけど、いいかな?」

 「構いません。

  どんな質問にもお答え致しましょう」


 「それじゃあ、まず僕の事についてなんだけど、僕は使徒アムルシと同じ姿をしていたのかな?」

 「御姿であれば全く違います。

  ですが、コゼット様はアムルシ様の力を引き継いでおられます」


 「それじゃあ、イブローニュは僕じゃなく、使徒アムルシの力に仕えたいって事かな?」

 「その通りではございますが。

  コゼット様に対する忠誠に偽りは御座いません」


 「本当かな?

  それじゃあ、天藍石てんらんせきの魔法の事は知ってる?」

 「天藍石てんらんせきの魔法はアムルシ様が開発した魔法です。

  聖属性の攻撃では闇の使徒様達を葬れないので開発したと聞いております」


 闇の使徒を倒す為に作られた魔法か。

 そういえばマリルゥはサイファーに天藍石てんらんせきの魔法は使っていなかったな……。

 

 「天藍石てんらんせきの魔法は闇の信徒にも効果があるの?」

 「勿論です。

  闇の信徒どころか、光の信徒にも効果は絶大です」


 光の信徒にも効果絶大って事は光りの使徒にも効果はありそうだな。

 というか、イブローニュはなんでも話してるけど、信用しても大丈夫なのか疑問に思ってしまうほどしゃべってくれるな。

 それなら、もう少しまずそうな事も聞いてみるか。


 「光の使徒は何故、闇の使徒を滅ぼそうとしているんだ?」

 「原因は分かりませんが、光の使徒様達は闇の側にある全てを忌み嫌っておられました。

  その為、闇の者を葬る為の道をお作りになられました。

  それがダンジョンと呼ばれる様になったのですが、深層に繋がるダンジョンは今まで見つからず、コゼット様達が初めてそのダンジョンを見つけたのです」


 フェルベールの第十階層、魔族の国。

 あれがイブローニュの言う深層と言う奴か。

 きっとあの塔の先には闇の使徒達がいるんだろう。

 聞きたい事はまだあるし、続けて質問をする。


 「なぜ光の使徒は三人消えたの?」

 「番人の定めた秩序を乱し、調和を破壊したからです。

  罰というわけではありません。

  存在意義の消失。

  それが光の使徒様がお隠れになった理由にございます」


 本当になんでもしゃべるな。

 それで、僕がその光の使徒の力を持っていると言う事は……他にも二人僕と同じ様に力を受け継いだ人がいるって事にならないか?

 もしかすると、二人共転生者の可能性すらあるな。


 「最後の質問だけど、僕と同じ様に光の使徒の力を引き継いだ人は他にいるの?

  三人が消えたと言う事は、他に二人いてもおかしくないよね?」

 「ええ、一人は勇者と呼ばれる人族の者で、今は力を付ける為に修行の旅にでていると聞いております。

  ですが、残念な事にもう一人はまだ見つかておりません」


 やっぱり居るのか。

 アイドル活動なんてやっているし、転生者ならいつか接触してくるかもしれないな。

 面倒な事にならない様に祈っておこう。


 「ありがとう。

  それじゃあ、生活する部屋なんかはアサギに聞くといい。

  その後は自由にしてていいよ」

 「畏まりました」


 イブローニュが加勢してくれる事じたいは有難いけど、ちょっと複雑だな。

 恐らく、ジャマルとキシン族は使徒や信徒とは敵対する道を選ぶんだろうし……。


 僕達がどの勢力に着くのかちゃんと決めておかないと足元を掬われかねない。

 ちょうど今全員集まっているし、話してみるのも悪くないか。

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