第26話

 アサギとアゲハと共に部屋から出ると、マリルゥにばったり会ってしまったので、これから聖都ハルモニアまで行くと伝えると、マリルゥも着いて来ると言いだした。

 アゲハは飛行できるので抱えて飛んで貰おうと思っていたけど、流石に二人は難しいんじゃないか?


 「残念だけど、聖都ハルモニアまでは僕とアゲハだけで行くよ」

 「そうなんだ。

  でも、私タクシーあるわよ?

  アサギも一緒に行きたいんじゃない?」

 「私は大丈夫ですよ。

  コゼットさんが出掛けるのでしたら、私は残っていた方がいいと思いますし」


 「ふーん。

  アゲハってアサギの護衛よね?

  それじゃあ、私と二人で聖都ハルモニアまで行くってのはどう?」

 「アゲハと一緒の方が早いと思うけど……。

  ここから聖都ハルモニアまでは馬車だと一週間くらいかかるんだよ?」


 「私は構わないわ」


 構わないと言われても……。

 まあ、馬車より遅いと言う事もないだろうし、一緒に行きたいと言ってくれているのら、構わないか。


 城にアサギ達を残し、マリルゥと共に国の外にまでやって来た。

 そして、マリルゥがマスコットにお願いすると、マリルゥのマスコットが車の形になる……?


 これ、車なのか?

 なんか大きな船みたいだし、スチームパンクな感じだしよく分からないな。

 扉が空いたので、マリルゥと一緒に中へ入ると、ゆったり座れるし、空調も良い感じで居心地は悪くない。


 運転席にはレトロな潜水服みたいなのを来たロボットなのか人なのかよくわからない人物が居る。

 

 「聖都ハルモニアまで行って貰えるかな?」

 

 運転手は僕の言葉には返事はしなかったけど、慌ただしく運転席? を操作し始めた。

 運転席と言うより操縦席と言った方がしっくりくる。


 しばらくすると、プシューッと蒸気を噴射して車が宙に浮かびあがった。

 そして、すごいスピードで走りだす!

 走り出したと言うのに運転手は慌ただしく機械を操作しているしちょっと……いや、かなり怖い。


 ホバークラフトの様に宙に浮いているから、揺れたりはしないけど、スピードも出てるし、ブレーキとかちゃんと出来るのか心配になる。

 

 「なかなかいいじゃない。

  ねえ、どれくらいで目的地に到着するの?」


 マリルゥが質問すると、運転席の後ろにある電光掲示板に文字が流れる。

 1時間20分!?

 それが本当ならとんでもないスピードが出ている事になるけど……。


 「今、時速何キロで走ってるの?」


 僕が質問すると、電光掲示板に約420キロと流れた。

 新幹線より早いじゃないか……。


 外の景色を見ると、確かに速い。

 何かにぶつかったら大変な事になるぞ……。


 「ねえ、私に付与した能力の事覚えてる?」

 「天藍石てんらんせきの魔法の事?」


 「そう、あれね、魔族にはあまり効果がなかったしダンジョンのモンスターにも試してみたけどイマイチだったのよね」

 「そう? 結構あれで魔族達を倒してたと思ったけど」


 「雷の魔法の方が倒せたわ。

  一応シルウ達にも聞いてみたんだけど、こんな魔法は知らないって言ってた」

 「未知の魔法か……どうしてそんな能力を付与出来たんだ?」


 「わからないわね。

  でも、心当たりがないなら、それが答えなんじゃない?」

 「色々と想像してしまったじゃないか。

  怖い事言わないでよ」


 アイドルには僕の経験から能力を付与出来る。

 そして、未知の魔法を付与出来たと言う事は、僕の中に別の誰かの経験があるって事なのかもしれない。

 もしくは、別人格とか?

 他人事じゃないし、想像すると怖い。


 でも、この体って元の僕が成長した姿ではないと思うし、もしかしたらこの世界で生きていた誰かだったのかもしれない。

 嫌だな、考えたくない。

 誰かの人格を乗っ取ったとか考えると凄く嫌な気分だ。


 僕はこの見た目を凄く気に入ってるのに……。


 電光掲示板に間も無く到着と言う文字が流れ出す。

 1時間20分の旅はあっと言う間だったな。


 運転手が更に慌ただしくガチャガチャと機械を操作して、車が止まった。

 最後にプシューッと蒸気が抜ける様な音が鳴ると、沈んで地面に下りたみたいだ。


 ドアが開いたので外に出て見ると、真っ白な国の門の前だった。

 門番は立派な鎧を着た聖騎士と言った風貌で、こっちを不可解な物でも見る様な目で見つめて来る。


 それも当然か。

 変な乗り物でやって来たんだから不可解な目を向けられても仕方ない。


 僕は門番に挨拶をし、使徒シェンマからの手紙を見せると、砦のような建物の中へ通される。

 椅子に腰かけると、お菓子と紅茶を出して貰った。


 「お城までは少し遠いので、馬車を手配しております。

  しばしここでおくつろぎ下さい」


 門番が部屋の外へ出ると、マリルゥはお菓子を食べ、紅茶を楽しんでいる。

 凄く美味しいらしいので、僕も一口食べてみると本当に美味しい。

 というか、この世界に来て甘いお菓子なんて食べて無かったからなおさら美味しいと感じる。


 それに、紅茶も香りが控え目で飲みやすい。

 フェルベールではお菓子なんて殆ど無かったし、世界の頂点である使徒が住む国だから、かなり栄えているのかもしれないな。

 趣向品なんかも沢山ありそうだ。


 マリルゥと一緒にお菓子を食べているとドアがノックされる。

 入ってきた門番に案内され、馬車へ乗り込んだ。


 馬車が出発し、城へ向けて走りだす。

 タクシーとは違いかなりゆっくり走っている様に感じる。

 窓から見える街並みは真っ白で、ドアや屋根は色が着いている。


 人はと言うと、カソックやローブを来た人が多い。

 出店は見掛けないけど、所々に看板を出している店なんかはある。

 一際大きな建物が見えたので、聞いて見るとオーダー教会の教会だそうだ。


 馬車が門を通り、しばらくして止まったので、下りて見ると、真っ白のお城……。

 正直に言うと、白ばっかりで面白みも無いし、うんざりな気分だ。

 カソックを来た修道士の様な人が僕達を城の中へと案内してくれる。


 いよいよだな。

 世界の頂点と言われる使徒がどんな姿なのか想像も出来ないし、この後何をされるのか分からないけど、不思議と嫌な気分では無い。

 新たな一歩を踏み出す様なすがすがしい気分だ。


 「こちらが謁見の間に御座います」


 修道士の様な人が扉を開け、中へ進む。

 玉座は三つあり、それぞれに一人が座っている。

 これが使徒か。


 外見は普通の人とそれ程変わらないけど、頭上に天使の輪みたいなのが着いている。

 闇の使徒なら黒い輪っかでも付けているのだろうか?


 とりあえず、頂点相手に立ったままはまずいと思うし、片膝をついて頭を下げた。

 流石に空気を読んだのか、マリルゥも僕を真似て同じ動作をした。


 「お初にお目に掛かります。

  非公式ではありますが、ファーブルの王、コゼット=ファーブルです。

  隣にいるのは私の従者ですのでお気になさらず」

 「遠路はるばるよく来てくれた。

  私達は君を歓迎する。

  国を作ったのならそれも認めよう」


 意外な事に僕は歓迎されているようだ。

 聖属性の魔法を使えるから面倒な事になると思っていたけど、そうでもないらしい。


 「君は闇の信徒と戦ったと聞いている。

  引き分けたともね。

  次やれば、どうだい?

  勝てそうかな?」

 「次に戦う事があれば、必ず勝ちます」


 「そうか。

  それは、とてもいい事だ」


 ん? どういう事だ?

 光の使徒と闇の使徒はもしかして、争っている?

 そんなわけは無い。

 世界の秩序と調和の為に協力しているはずだ。


 「アムルシ……ああ、アムルシ」


 なんだ!?

 玉座に座っていた光の使徒の一人が近づいて来て、急に僕の顔を触ってアムルシと言うわけのわからない事を言っている。

 下手な事も出来ないので、茫然としていると、中央の玉座に座っていた使徒が彼女を制止する。


 「フェルナ、玉座に戻りなさい。

  すまないね、君は今は亡きアムルシによく似ているんだよ」

 「いえ、少し驚きましたが、問題ありません」


 「うん、それでね、アムルシもそうなんだけど、僕達光の使徒は闇の使徒に攻撃されて三人失ってしまったんだ。

  そのせいで調和が乱れてしまってね。

  そこでお願いがあるんだけど、どうにかして闇の使徒達を倒して欲しいんだ」


 闇の使徒を倒す?

 闇の信徒よりも強いのに出来るわけがない。

 そもそも話もめちゃくちゃだ。


 闇の使徒の力で光の使徒が倒されるわけがない。

 それはサイファーとの戦いで分かっている。

 お互いの攻撃は効果がないはずだ。


 なんか胡散臭い話だな。

 けど、世界の頂点である光の使徒から言われたのならノーと答えるわけにもいかない。


 「つつしんでお受けします。

  必ず闇の使徒を倒してみせましょう」


 サイファーならともかく、今の所そんな事をする気は全くない。

 けど、こう言っておけば相手も満足するだろうし、早く帰れるだろう。

 

 「よく言ってくれた。

  その言葉が聞きたかったんだ。

  もう、下がっていいよ」


 僕は立ち上がり、礼をしてからその場を去った。

 扉を出ると、案内してくれた修道士みたいな人が再び僕達を外まで案内してくれる。

 そして、馬車に乗り、門番の所へ連れて行って貰い、聖都ハルモニアの外へ出る。


 マリルゥのタクシーに乗り、しばらく無言だったマリルゥが口を開いた。

 

 「なんか、ヤバイ事に巻き込まれてない?」


 間違いなくそうだろうなと僕も思ったので「そうだな」と返事をした。

 

 とんでもない事に巻き込まれただけならマシなんだけどなぁ……。

 僕にも事情があるし、とても複雑で面倒な事になってしまった。

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