第25話

 サイファーは魔族達を引き連れて帰って行った。

 3年後とは言っていたけど、その時まで何もしないというわけではないだろう。


 でも、今は腕の中で眠るテレサの方が大事だ。

 テレサの亡骸を丁寧に布で包み、アイリスのマスコットに預けた。

 道具扱いしてしまっているけど、ここは第八階層。


 帰りは危険だし、ずっと抱いているわけにもいかない。

 僕達は地上へ向けて歩み出す。


 誰も言葉を発しない。

 アイリスとセシリアはかなりテレサに懐いていた。

 そして、まだ付き合いの短いファーリーやミルア、マリルゥ。

 僕達にどんな言葉を掛ければいいのか分からないんだと思う。


 ああ、一人だけよくしゃべってる奴がいたな。

 テレサがラストライブを使った事で新しい仲間が出来た。

 僕のマスコット。

 能力はテレサに付与した探知能力とマスコットが持っていたマッピングの能力を持っている。

 見た目はテレサが最後、元の年齢に戻ったせいか、デフォルメしたおばあちゃんみたいなマスコットだ。


 探知能力を持っているせいか、他のマスコット達と違って言葉で危険な方向などを教えてくれる。


 そのお陰で僕達は無事に迷わず地上へと戻ってこれた。


 ダンジョンの街フェルベールから僕達の国ファーブルへと戻る。

 流石に疲れていたので、帰りは馬車を使った。


 城へ戻ると、アサギがアゲハと共に出迎えてくれる。

 僕達がダンジョンに籠っていた間に色々と進展があったようだ。


 一つは冒険者ギルドからギルド員を派遣してくれる事。

 聞いた話によると、フェルベールに居た受付をやっていたメルナも来てくれているらしい。


 他にも色々とあるみたいだけど、今はテレサの埋葬を優先したい。

 アサギは泣き崩れてしまったけど、アゲハは祈る様なポーズを取り、「お疲れ様でした、どうか安らかに」と囁いた。


 僕達のお城のすぐ近くにテレサの墓を建てた。

 墓石にはテレサの名前と『偉大なるアイドルここに眠る』と彫り込んだ。

 城に住んでいる全員でテレサが安らかに眠れるよう、祈りを捧げた。


 それから一週間、皆には休息を取るように伝えた。

 僕も色々と心の整理がついていない。

 皆だってそう言う気持ちだと思うから。


 でも僕は、テレサに強くなると誓った。

 だから僕は休息を取らず、ギルドへと足を運ぶ。

 

 アサギが既に許可を出しているので、職員達が荷物を運んだり、使いやすいように改装工事なんかもしている。

 ギルドとしての機能も稼働している様だ。

 といっても、まだ仕事の方はあまりない。


 受付に行くと、メルナが僕を出迎えてくれる。


 「コゼットさん……その、なんて言ったらいいのか……。

  お悔やみ申し上げます」

 「僕は大丈夫だ。

  お城にお墓がある。

  暇な時でいいから、メルナも手を合わせてあげて」


 「はい……」


 「フェルベールのダンジョンの事だけど、ギルドはどこまで知っている?」

 「魔族と戦ったと聞いております。

  それに、三年後にまた争いが起きるとも聞いています」


 「なら、話が早い。

  戦闘員の募集をかけたい」

 「わかりました。

  それでは、どういった内容にするのか、こちらの用紙に記入して下さい」


 僕は三年後の戦いに備え、クランに加入する戦闘員を募集した。

 同時にアイドルの募集も。


 この日はヒュージビートル達の世話をしたり、溜まっていた雑務をしたり、一日中忙しく過ごして就寝に着いた。


 翌日。

 机に齧りついて仕事をしていると、激怒したセシリアとアイリスが僕の部屋に入って来た。


 「プロデューサー! これってどういう事ですか?」

 

 そう言ってセシリアが見せてきたのは、昨日出したアイドル募集のチラシだった。


 「どういう事もなにも、そのままの意味だよ。

  僕達は魔族との戦争に備えなければならないんだ。

  サイファーは強かった。

  今から備えても間に合わないかもしれない」

 「それなら、戦闘員だけでいいじゃないですか……。

  アイドルまで募集って……テレサさんの代わりですか?」


 「アイドルは僕から能力も付与出来るし、潜在能力だって最高値まで覚醒させる事が出来る。

  戦力としては申し分ないだろう」

 「プロデューサー! アイドルってそう言うものじゃないはずだろ!」 


 二人の気持ちはよく分かる。

 僕だってただの戦力としてのアイドルなんて間違っていると思う。

 でも、ここに居る仲間達を僕は失いたくない。

 今は少しでも、力が欲しい。

 

 「二人の気持ちは分かるよ。

  僕だってテレサの代わりなんてつもりはない。

  だから、今は納得いかなくても理解して欲しい」

 「私が強くなればいい!

  プロデューサー! 私が強くなるから、新たなアイドルを作るならちゃんとしたアイドルにしろ!」

 「私も強くなります!」


 「わかったよ。

  僕だって誰彼構わずアイドルにしようだなんて思っていない。

  僕達の仲間としてやっていけると判断した人だけアイドルにするよ」


 まだ言いたい事もあるみたいだったけど、二人は僕の部屋から出て行ってくれた。

 二人が出た後、すぐにドアをノックする音が鳴った。

 「どうぞ」と招き入れると、アサギとアゲハが入って来る。


 「コゼットさん、大変です!

  これを見て下さい」


 アサギが見せたのは手紙。

 封緘ふうかんにされた刻印も見た事が無いけど、アサギは知っている様子。

 差出人の名前はシェンマか、見た事が無いな。

 封を切って中の手紙を見てみると、聖都ハルモニアへ来るようにと書かれている。

 聖都ハルモニアは光の使徒の治める国。

 まあ、いきなり使徒が襲来してきたなんて事にならなくて良かった。

 あれだけ派手に聖属性魔法を使ったんだし、想定内の出来事だ。


 「アサギはこのシェンマと言う人物を知ってるの?」

 「この世界で最も有名な方ですよ?

  シャンマ様は光りの使徒の長です」


 「それは大変だな」

 「シェンマ様からお呼びがかかるなんて、皇帝陛下ですらなかなかある事ではないんですよ?」


 まあ、僕の場合、悪い意味で呼び出されている気がするけど、流石に世界の頂点相手に無視したりは出来ないか。

 この先どうなるか分からないけど、それなら早い方がいい。


 僕はアサギの横にいるアゲハに、聖都ハルモニアまで送ってもらう様に頼んだ。

 

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