第24話 ラストライブ
『ラストライブ』
本来であれば、ステージ召喚には僕も一緒じゃないとステージは現れない。
けど、ラストライブだけは例外で、アイドル単体で使用可能。
ファンの数、性格に言えばファンから得た希望や憧れなどの様々な感情。
それをアイドルは力に変換できる。
今のテレサはそれをフルに使っているので、魔力も身体能力も計り知れない程の力を得ている。
そして、ラストライブには、残ったファン達から得た力を使い、アイドルの願いを一つだけ叶えると言う効果も残っている。
ただし、ラストライブを使えば、ステージを下りた後は僕に与えられたアイドルの力を全て失う……。
テレサは賢者の石も併用して能力を底上げしているので、恐らく体に掛かる負担はかなり大きい。
そして、アイドルの力を失うと言う事は、テレサは元の80歳のおばあちゃんの体へと戻る。
そんな状態になれば、テレサは力尽きて死んでしまうだろう。
発動してしまったからには、僕はテレサの最後を見届けなければならない。
第八階層が真っ暗になり、テレサを中心にライトアップされる。
無数の白い花びらが舞う中、音楽が鳴り響く。
曲は、初めてテレサがライブをした時に最初にやった曲だ。
もの悲しい雰囲気の民族的な音楽。
きっとこの曲にはテレサの思い出がいっぱいつまっているんだ。
テレサは楽し気にその曲に合わせて歌を唄っていた。
神秘的なメロディーも相まって、それが祝福の女神の様にも見える。
例の男が黙って見ているはずもなく、テレサに攻撃をするけど、テレサの体に攻撃が当たった瞬間に花弁が舞い、蔓が伸びて拘束される。
男は何度もその拘束を解いて、テレサに攻撃を続けたけれど、結果はずっと同じだった。
曲が盛り上がる所に入ると、第八階層全てが明るく照らしだされる。
一面に広がる花のステージ。
もうすぐ終わりが来てしまう。
そう感じた僕はテレサの元へ行こうとした。
「プロデューサー!
今、行ってもテレサの邪魔になるだけだぞ!」
「テレサさんに攻撃が通らないと悟れば、こちらに攻撃をしてくる可能性があります!
ここは私が盾になります、プロデューサーも身を守っていて下さい!」
アイリスとセシリアが僕を止める。
何を呑気な事を……あれが終わったらテレサは死んでしまうんだぞ……。
けど、二人の言う事は正しい。
今の僕に出来る事なんてそれくらいしかない。
あの日から、僕は何も変わっていないのか……。
最後までテレサに頼りっぱなしじゃないか。
無情にも曲は最後のフレーズへと移行する。
そして、僕達の周囲を花弁が覆う。
最後に楽し気に笑うテレサの声が聞こえた。
「これが私のフィナーレだ!」
テレサがそう告げた後、第八階層が大きな爆音と共に真っ白な光に包まれた。
花弁の壁が僕達を守ってくれている。
爆風の後には、無数の花に包まれて横たわる年老いたテレサの姿があった。
僕は真っ先にテレサの元へ向かい、テレサを優しく抱き上げた。
「テレサ……」
テレサの体は元のやせ細ったおばあちゃんになっていてとても軽かった。
まだ息はある、安静にしていればまだ生きていてくれるかもしれない。
「マスター、私の最後のステージはどうだった?
悪いできじゃなかっただろう?」
「そうだけど……もう、しゃべっちゃ駄目だ。
安静にしていないと」
「ははは、すごく楽しかった。
最後の最後まで、私は私らしく生きた。
それが私の誇りだと思う」
「どうして、そんな楽しそうに……」
「私の死を乗り越えなさい。
きっと君はもっと凄いマスターになれる。
ずっと、見守っているからね」
「どうにかならないの?
僕はテレサとお別れなんてしたくないよ」
「フフ、マスター。
私にとって君は……アイドルだったよ」
テレサは僕に向かって、笑顔で投げキッスをした。
そして、そのまま……安らかに眠る。
僕はテレサを抱いたまま立ち上がった。
それと同時に……もう一人立ち上がった奴がいる。
「テレサか、良い名前だ。
覚えておくぜ」
「生きていたのか……」
アイリスとセシリアが同時に
流石にこの男も虫の息だろう。
今やれば勝てるかもしれない。
しかし、僕は二人を制止した。
「僕はコゼット=ファーブル。
君の名前も教えて貰えるかな?」
「俺か?
弱い奴等に名乗る名前はない」
「僕はテレサを越える。
今は見逃してやるから名前を教えろ」
「俺を見逃す? 面白れえ。
サイファーだ。
三年後もう一度ここに来る。
その時は相応の準備をしてくるぜ。
逃げるなよ?」
サイファーか。
覚えたぞ。
僕は必ずあいつを倒す。
三年後か…‥。
この日の戦いを僕は忘れない。
そして、この日見たテレサの力を越える。
腕に抱いた安らかに眠るテレサに僕はそう誓った。
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