第23話

 以前の僕なら諦めていただろうな……。

 そう思うと何故か笑えて来た。

 いつくしみって言うのかな?

 信じられないくらいに、皆の事を大切に思っている。

 

 そして、悔しくて涙も溢れて来る。

 今の僕ってどんな感情なんだろ?

 泣いているし笑っているし、絶望もしているし、希望も抱いている。

 そう、希望だ。

 僕の視線の先にはファーリーとマリルゥが地に伏している。

 

 最後の賭けだ。

 僕は二人の元へと走った。


 あの男は僕の行動を不敵な笑みを浮かべたまま眺めている。

 何をしても無駄だと言わんばかりのその態度……後悔させてやるぞ。


 「ファーリー、マリルゥ。

  まだ動ける?」

 「パパ、ファーリーは大丈夫だよ」

 

 「よし、マリルゥは?」

 「ちょっと疲れたから休んでいただけよ。

  秘策でも浮かんだ?」


 「ライブをやる。

  二人は僕に合わせて欲しい」


 ありったけの魔力を使い果たしたばかりだけど、僕はまだやれる!

 希望を抱いた瞬間。

 僕の体の中を循環する魔力を感じた。


 もっと湧き出てこい!

 僕は湧き出した魔力を循環させ続ける。


 そして、三人でステージ召喚を行う。

 この場に戦う為のステージが現れた。


 僕達は意識を共有。

 二人の魔法のイメージが頭の中に流れる。

 

 これなら当てられる!


 いくつもの魔法陣が浮かび上がり、そこへ僕の聖属性の魔力を流していく。

 僕はその魔力をひたすら注ぐ事に集中する。

 二人がそれを上手く操り、魔法を作り上げていく。


 三人の意識が一つになり、魔法を発動させた。

 『神々の怒りタイタンズバーン


 聖属性による落雷の様な魔法が無数にある魔法陣から放たれ、狙い撃つ。

 スピードも威力も申し分ない。

 真面に当たっているはずだ。

 

 いくら能力が高いとは言え、アレを喰らって生きている訳がない……。

 ただ漠然と、そんな風に思っていた。

 しかし、現実は違った。


 砂埃の中から、あの男が平然と立っている。

 あまりダメージを受けている様にも見えない……。


 「哀れだな、光の信徒よ。

  俺も半信半疑だったからさっき試してみて、確信した。

  俺もお前も、光と闇の属性ではダメージを与えられない」


 さっき試した?

 あの闇の炎で拘束していた時の事か。

 確かに熱くもなかったし、物理的な効果しかなかった。


 成程な。

 僕は馬鹿だ。

 考えてみれば当たり前の事だった。


 テレサが最初に言っていたはずだ。

 番人の生み出した闇と光の属性は番人の意思そのものだと。

 秩序と調和の為に作られた能力なんだから、同士討ちみたいな真似ができるはずもない。


 「君は闇の信徒なのか?」

 「あぁん?

  他に何があるんだ?」


 「闇の使徒の可能性もあるじゃないか」

 「使徒の可能性?

  ある訳がない。

  お前、まさか使徒に会った事がないのか?」


 この男は僕を光の信徒だと思い込んでいる。

 どう答えるのが正解なのか……。


 「沈黙って事は、図星か?

  ハハハ、面白い事もあるもんだな。

  調和が乱れるとこんな事が起こるのか」


 男はご機嫌な様だ。

 調和が乱れたと言っていた……。

 もしかして、僕がこっちの世界へ転生した原因は調和の乱れによるものなのか?

 今考えても分からないし、どうでもいい。

 生き延びる術を考えろ。


 「命乞いをさせてくれるかな?

  君の目的を教えてくれたら協力するつもりなんだけど」

 「俺の目的?

  そうだなぁ、とりあえず人族の国を滅ぼしてみたら面白い事になりそうだな。

  本物の光の信徒達は強えだろうし、そいつらと戦うのも悪くねえ」


 交渉の余地なんてなかった。

 こいつ、禄でもない奴だ。


 そう思った瞬間、突然テレサが男の横に現れた。

 まるで瞬間移動したみたいに忽然と……。

 そして「強い相手ならここにいるぞ」と言って、思い切り男の顔面を殴った!


 男は遥か後方へと吹き飛び、壁に激突した。

 どうなっているんだ?

 テレサが強いとは言っても、あの男を殴り飛ばせる程の力なんてないはずだ。

 

 よく見ると、テレサの胸元に赤い石が埋まっている。

 賢者の石を使ったのか……。

 

 「おもしれえ!」と雄叫びを上げた男が立ち上がったと思った瞬間、テレサの元に男が現れた。

 そして、二人は互いに攻撃し合う。


 僕の目には殆ど映らない。

 けど、激しくぶつかり合う音と、時折見える姿でなんとなくだけどテレサが押している様に見える。

 

 見えない戦いを必死に目で追うと、だんだん慣れてきたのか、少しづつ見える様になってくる。

 いつの間にかテレサの方が押されている……。


 今の僕に出来る事なんて無い。

 でも、テレサなら形勢逆転のチャンスを与えてくれるかもしれない。

 僕は今のうちに仲間を集め、テレサを信じてその時が来るのを待つ。


 しばらくすると、テレサは息も上がり、足も止めた。

 賢者の石を使っても、駄目なのか……。


 「そろそろ、本番と行こうか」

 「おいおい、どう見ても本気で戦ってただろう。

  息も上がってるし、強がるなよ」


 「強がり?

  私は強いと言っただろう。

  マスター」 


 テレサが僕を見る。

 素敵な笑顔だった。

 気づけば、第八階層が白い花で埋め尽くされていた。

 燃費の悪い花の魔法でこんな事が出来るはずがない。


 僕は止めろとテレサに言い放つけど、その声は届かなかった。

 僕はテレサの考えが分かってしまった。

 テレサがスキルを使い第八階層全てがテレサのステージと化す。


 『ラストライブ』


 それがテレサの使ったスキルの名だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る