第19話

 朝目が覚めると、とても柔らかく温かい感触……それに、仄かに花の香りがした。

 布団をめくるとあのエルフがスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。

 眠っていれば絶世の美女だな……。


 僕はマリルゥを起こさない様にして、用意を済ませ部屋を出た。

 向かった先は城の地下にある研究所。

 ヒュージビートル達のお世話をしばらく出来なかったから心配で心配で仕方がなかった。


 急ぎ足で研究所の扉を抜けると、早速興奮気味にヴィルヘルムが僕の方へとやって来た。

 

 「今まで何をしていたんだ!

  早くこっちへ、見てほしいものがある!」


 ヴィルヘルムはいつにも増して興奮気味だな。

 あの子達に余程の変化が起きたのだろうか?

 

 ヒュージビートル達のいる部屋に入ると、見慣れない誰かがそこに居た。

 その姿は少女だけど、人族でない事は確かだ。

 背中に虹色に光る透明な羽が着いているし、なんか頭から蛾の触覚みたいなのが着いている。

 髪は真っ白でフワフワのモコモコな感じでカールした髪型だ。

 羽がミルアのそれとよく似ているし、大きな妖精かな?

 

 まずは観察からだ、身体能力D魔法能力B!?

 エルフのマリルゥより潜在能力が高いじゃないか……。

 逸材……いや、まずは話の通じる相手かどうか見極めないと。


 「こんにちわ。

  君は何処からやって来たのかな?」

 「パパ!」


 その子は僕をパパと呼び、抱き着いて来た。

 この子……すごく可愛いぞ!

 僕は彼女を受け入れ、フワフワの頭を優しく撫でてあげた。


 「君、名前はあるの?」

 「名前?」


 首を傾げている。

 どうやら名前は無い様だな。

 それじゃあ、僕がつけてあげないと。


 「それじゃあ、これから君の名前はファーリー。

  僕がパパだとすると、ママもいるのかな?」

 「ママ?」


 ファーリーは首を横に振る。

 ママはいないと言う事か。

 一瞬ヴェルヘルムの方を指刺したりしたらどうしようかと思った。


 「ファーリーは人族ではない様にみえるけど、自分がなんの種族なのかはわかるかな?」

 「ファーリーは精霊だよ。

  このお部屋いっぱいに微精霊が集まったからファーリーが生まれたの」


 精霊か。

 そう言えば、ヒュージビートルと微精霊は共生関係にあったみたいだし、ここは閉鎖空間になってるから微精霊が散らずに密集していたのか。

 

 「そうか、僕がパパなのはどうしてなのかな?」

 「ここで沢山愛情を注いでくれたからだよ。

  ファーリーはパパがいなければ生まれてこなかったんだよ」


 そう言う事か。

 それならもう、ファーリーのパパに成らざるを得ないな。

 僕はヒュージビートル達の世話をした後、ファーリーと一緒に研究所を出る。


 城の通路を歩いていると、ムスッとした顔のエルフが居たので「こんにちわー」と挨拶をして素通りしようと思ったけど、案の定引き留められた。


 「なんの用だ?」

 「おいて行くなんて酷いわ」


 「僕は王様だし、色々と忙しいんだ」

 「その子は?」


 「僕の娘のファーリーだ」

 「娘? どうみても……ああ、そう言う事。

  こんにちわ、ファーリー。

  私が誰なのかしってるかしら?」


 「ん-? お姉さんは、誰ぇ?」

 「私はマリルゥ。

  ファーリーのお母さんよ」


 「お母さん? ママ?」

 「そう、ママ!」

 「お前……なに人の娘に吹き込んでいるんだ?」


 「この子精霊でしょ?

  微精霊達が集まったばかりで人格の形成がまだ曖昧なのよ。

  だから、お母さんって擦り込むと、本当にお母さんと思い込むわ。

  エルフ族はそうやって精霊との結びつきを強固にしていったのよ」

 「お前、なんて事を……ファーリー、この人はママなんかじゃないぞ!」


 「ママとパパ……喧嘩しないで」


 エルフは勝ち誇った顔をしている。

 もう怒ったぞ。

 僕は通信機を使い、アゲハを呼んだ。

 元々城で待機していたので、アゲハは直ぐに駆け付けて来てくれた。


 「マスタぁー、お呼びですかぁ?」

 「ああ、しばらくこの子を安全な場所で預かって欲しい。

  僕はこのエルフに用があるんだ」


 「おっけー! それじゃあこっちに来て、お姉さんと遊ぼうね」


 アゲハはファーリーと手を繋いで、ゆっくりとこの場から去って行った。

 さて、このエルフ、どうしてくれようか……。


 「ねえ、怒ってるの?

  なんで?」

 「当たり前だろうと言っても君は理解出来ないんだろうね。

  だったら、力ずくでここから君を追い出す。

  僕はもう、君の顔も見たくないんだ」


 僕は剣を構え、臨戦態勢に入った。

 しかし、エルフの方は……グスグスと涙を零してその場に座り込んでしまった。

 なので、僕は剣を納め、エルフの服を掴んで引きずっていく。

 エルフの鳴き声が大きくなる。


 そんなに泣かれたら悪い事をしている気分になるじゃないか……。

 騒ぎを聞いてか、ジュラが僕の目の前に来る。

 

 「珍しいねぇ、其方が怒っている姿は。

  このエルフはアインティティ家の娘だね。

  面倒な女だろう?」

 「ん? ジュラはマリルゥの事をしっているのか?」


 「知らないね。

  けど、その娘とそっくりな顔をした奴の事なら知ってるよ。

  長命なエルフだから母親か姉妹か祖父母かどうかは知らないけどね」

 「そうなのか。

  その人も図太い性格で、話の通じない人だったの?」


 「そうさね……話が通じないと言うのはその通りだけど、その娘とは事情が事なるね。

  私の知ってる奴はエレウテリアの魔女と呼ばれているうちの一人。

  エレウテリアってのは番人の使徒と真っ向から敵対している派閥でね、全員危険思想をした狂人の集まりさ」

 「私は……違う。

  エレウテリアの魔女なんかじゃない!

  あの人の娘でもない!」


 なんとなく事情が掴めて来てしまった。

 マリルゥは本当に僕と仲良くなりたかったのかもしれない。

 きっとマリルゥは母親のせいで、エルフの里でも孤立していたんだろう。

 だからコミュニケーションの取り方が分からなくて、強引なやり方しか知らないんだ。


 「僕は君を受け入れる事は出来ない。

  父親の元へ帰るといいよ」

 「あんな生活は嫌なのよ……察してよ……」


 察しても何も、マリルゥの事を全然知らないんだから分からない。

 あの時、族長の娘とは言ったけど、〝一応〟と着けていた。

 あれは、こう見えても族長の娘と言う意味では無く、族長の娘だけど、そう言う扱いはされていないって意味だったのかもしれない。


 もしかしたら、危険思想の持主と認定されて殆ど監禁された状態だったのかもしれない。

 普段は集団行動を取るエルフが一人であの森に居たのも不自然なわけだし、逃げ出して来たのかも?


 かと言って、この国で傍若無人ぼうじゃくぶじんな振る舞いをしていいわけでもない。 


 「マリルゥ、君はファーリーの母親になってしまったんだ。

  ファーリーの為に君を受け入れる事は可能だ。

  だけど、今の様な振る舞いを許していたらファーリーの教育にもよくないし、周りの人にも迷惑になる。

  だから、この城に滞在する事を許すけど、教育も受けて貰う。

  僕としてはそれが君を受け入れる最低限の条件だけど、君はそれにどう答える?」

 「私を受け入れてくれる?

  わかった、その条件を飲むわ」


 「そう言う訳で、ジュラ、かなり厳しめに教育をしてあげて欲しい」

 「丁度暇を持て余していたし、いいよ。

  けど、基本的に放任主義だからね。

  あまり期待はしないで頂戴」


 そう言えば、アイリスとセシリアは厳しく躾けられた感じは全くなかったな。

 人選を誤ったかもしれない。

 まあ、結局悩みの種を抱えるのは僕になりそうだし、今はジュラの事を信じよう。


 その後、みんなを集めて、新しい家族となったファーリーとマリルゥを紹介した。

 まあ、家族と言っても僕とマリルゥが婚姻関係でない事もしっかりと説明する。


 それにしても、悩むな。

 能力的には二人ともかなりの逸材……。

 今度テレサ達のライブを見て貰って、どんな反応をするのか見てみよう。


 二人がアイドルをやりたいと思うのなら、考えてみようと思う。

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