第18話

 シルウとセルヴァの居た泉とファーブルまでの距離は大体把握出来たので、帰り道は急いで引き返す事にした。

 そのお陰で、日が沈む前には戻って来る事が出来たんだけど……。


 「なんで二人は着いて来てるの?」


 僕の言う二人とは、妖精のミルアとエルフのマリルゥの事だ。

 妖精のミルアは好奇心で着いて来たんだと思うけど、エルフのマリルゥがなぜ着いて来たのかは不明だ。


 「ミルアは人間さんと遊んでみたいの!」

 「それじゃあ、ミルアの事はアイリスとセシリアに任せるよ」


 そう伝えると、アイリスとセシリアはミルアを連れて元気に走り去っていった。


 「君はどうしてここにいる?」

 「別にいいじゃない。

  私がここに居るとまずいわけ?」


 「まずくはないけど、目的も分からないんじゃ持て成すにしてもどうしていいか分からないし、ここに来た理由があるなら教えて貰えると助かるんだよ」

 「じゅあ別にいいじゃない。

  別に客人として迎え入れろとは言わないわ。

  目的は無いし、暇つぶしよ」


 はぁ……思わずため息を零してしまった。

 それを見たマリルゥはムッとした顔を僕に向ける。

 テレサは先に城にある自室へ向かったみたいだ。


 僕も森の中を駆けまわったし、お風呂に入ろう。

 話の通じないエルフを置き去りにして僕は城へ戻り、大浴場へとやってくる。

 しかし、なぜかマリルゥは僕の後をしっかりと着いて来ていた。


 ここはお風呂だぞ?

 そっちがその気なら構わない。

 僕は服を脱ぎ棄て、全裸になり、ちゃんと掛け湯をしてから湯船に浸かった。

 

 「お風呂気持ちいいわね」

 「なんでここまで着いて来ているんだ?

  プライバシーの侵害だぞ」


 「プライバシーって何よ?」

 「家庭の事情とか見られたくない部分ってあると思うんだけど、それを守る権利の事だよ。

  君は他人で、僕が見られたくないものを見ようとしている。

  それがプライバシーの侵害だよ」


 「そうなんだ、へぇー」


 全然話を聞いてくれないな。

 僕はこのエルフの事、結構嫌いかもしれない。

 もしかして、エルフって皆こんな風に図太い感じなのかな……。


 「また溜息ついたわね。

  私の事嫌いなの?」

 

 嫌いって答えると面倒臭い事になりそうだし、やんわりと好意的ではないと伝えよう。


 「話をちゃんと聞いてくれない人は苦手かな。

  どう接していいのか分からないから溜息がでるんだ。

  これ以上関わりたく無いなって少しだけ思っちゃうよ」

 「ひっどーい!

  私の事全然わかって無いのに!」


 「分からないよ。

  だから困ってるって伝えてるじゃないか」

 「察してよ!」


 大浴場にパーンっと気持ちのいい音が鳴り響く。

 なんでこんな思い切り頬を打たれなければならないのか……全然わからない。

 僕は考えるのを止めて、空を見上げた。

 すると、空から小さな女の子が舞い降りて来る。


 その女の子は服を着たままだけど、トポンと音を立てて湯船の中に浸かった。

 足が着かないだろうし、僕はその女の子を手の平の上に乗せて上げる。


 「やあミリア。

  アイリス達とはもう別れたの?

  それに、羽は濡れても平気なのか?」

 「大きな音が聞こえたの!

  それで、見に来たらお風呂の方からって聞いたから先に来たの!

  アイリスとセシリアも後から来てくれるの!」


 またこの展開か。

 でも、今回はアゲハもいないし冷水作戦は使えない。

 大丈夫だ。

 来ると分かっているのなら平常心を保てば問題ないはずだ。


 「さっきのパーンって音はなんだったの?」

 「マリルゥが僕を叩いたんだ」

 「ちょっと!

  私が悪いみたいな言い方しないで!」


 「マリルゥは人間さんと仲良しになりたいって言ってたの!

  仲直りしてあげて欲しいの!」

 「ミルア何言ってるの?

  ちょっと魔法で攻撃した事……やりすぎたかなって思ったから……。

  ちゃんと謝ろうって思っただけよ!

  ごめんね!」


 別に僕はその事を気にしていないし、勢いに任せて謝って来たのならそれも受け取ろう。

 けど、このエルフは根本的に正確に難ありだ。

 関わりたくないと言う僕の主張は変わらない。


 「あれは僕にも非があるから気にする事ないよ。

  それを伝えたかったのなら、もう用は済んだね」

 「そうね、用は済んだわ」


 じゃあ、なんで帰らないんだ……。

 やっぱりこのエルフの事が分からない。

 ミルアが言っていた様に、僕と仲良くなりたいって本当に思っているのか?

 

 そうこうしている内に、アイリスとセシリアが入って来た。

 アイリスはまたバシャバシャと水しぶきを上げて泳いでいるし、セシリアは何が楽しいのか、潜水して毛玉お化けみたいになっている。

 ミルアは二人を見てケラケラと笑い、泳いでいるアイリスに着いて行ってしまった。

 

 「帰らないの?」

 「帰らない」


 帰らないのかぁ……。

 本当になんなんだこのエルフ。


 「マリルゥ・アインティティ、一応、族長の娘」


 いきなり自己紹介を始めた。

 族長の娘って事はお姫様って事になるのかな?

 それは兎も角、名前は森で接触した時に聞いたし知っている。

 それに、僕も名乗っているから別に自己紹介する必要もないと思うけど、一応僕のほうからも自己紹介しておくか……。


 「コゼット=ファーブル。

  一応この国、ファーブルの王様だよ」

 「コ……コゼ、コゼ、コゼっと……よろしく、ね」


 「よろしくね、マリルゥ」


 妙な反応をする……それに、顔も真っ赤だ。

 余計接し方が分からなくなってきた。

 なんであんなに名前を呼ぶのを躊躇ったのか?

 もしかして、すごく人見知りだったりするのかな?


 「エルフってすごい種族なんだって聞いたよ。

  本物の魔法が使えるし、七度目の大戦では最前線で戦ってたて聞くし」

 「うん、それで?」


 ふう。

 もういいや。

 お風呂にもゆっくり浸かれたし、ここから出て寝よう。


 僕は脱衣所へ出て体を拭き、浴衣を着て寝室へと向かった。

 ベッドの上にゴロンと横たわると、エルフもそれを真似てゴロンと横になる……。

 いい加減にして欲しい……。

 どこの馬鹿が王様の寝室で一緒に横になるんだよ……。

 そんな事したら投獄されても文句も言えないはずだけど。


 ゴロンと寝返りを打つとエルフと目が合う。

 そして、異様に距離が近づいてしまった。

 互いの吐息が触れ合う距離……。


 しかし、僕は彼女のせいで疲れている。

 だからそのまま目を閉じて眠る事にした。

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