第17話
テレサの感知能力を頼りに山の中にある森を進む。
とりあえず妖精か精霊に出会えたら、そこから長にあたる人物にコンタクトを取ろうと思ってるけど、相手次第では戦闘になってしまうかもしれないので、警戒は怠らないようにしよう。
「マスター、そこの木の先に妖精がいるけど、とりあえず捕まえてみる?」
「なるべく手荒な事はしたくないし、話しかけてみよう。
逃げ出してもこっちからは手を出さない」
「わかった。
それじゃあ、魔法を使っておびき出してみる」
テレサが花の魔法を使い、木の先にいる妖精を誘う。
僕達が身を隠して待っていると、ヒラヒラと光る羽を羽ばたかせ、手の平サイズの妖精が寄って来た。
妖精は花を出しているテレサの手の平の上に乗ると、優しくその花を撫で始める。
テレサが小さく「こんにちわ」と声を掛けると、妖精は花に向かって「こんにちわ」と返事をしていた。
花がしゃべったと思ったのか?
テレサの花には魅せる能力があるので、妖精からはテレサが見えていないのかもしれない。
「貴方達の長を探してるの。
居場所を教えてもらえる?」
「シルウとセルヴァならもっと奥の泉にいるの!
でも、お花のあなただとそこまで行けないの。
ミルアが連れて行ってあげるの!」
妖精はテレサの花を持ち上げようとしたけど、持ち上がらない。
そして、テレサが魔法を解除すると、驚いた妖精は小さな悲鳴をあげて失神してしまった。
「マスター、この子どうする?」
「一応連れて行ってあげよう。
泉まで目を覚まさなかったら事情を説明して、誤解されないようにすればいい」
そう言う訳で、僕達は泉を目指し、更に森の奥へと進む。
しかし目的の泉は見つからず、辺りが暗くなり始めてしまった。
月が三つあるとはいえ、この森の中では真っ暗になってしまうし、これ以上先に進むのは危険と判断して、野営の準備を始めた。
何が楽しいのか分からないけど、アイリスとセシリアはニッコニコでしっぽをバタつかせながら野営の準備を手伝ってくれている。
準備と言っても少し開けた場所に火を
後はセシリアのマスコットから食料を出し、軽い食事をして、焚火の番を交代しながら見る。
一晩くらいは平気なので、僕はずっと起きているつもりだ。
アイリスとセシリアはいつの間にかテレサにすごく懐いていて、二人で挟む様にして眠っている。
さっきまで起きていたけど、テレサも眠ったみたいだ。
焚火を眺めながら枯れた木を
寝落ちしない様に、僕は剣の素振りを始めた。
無心になって剣を振り続けていると、光る鱗粉を散らしながら僕の周りを妖精が飛んでいる。
「やあ、起きていたの?」
「あなた、人間さんなの?」
「そうだよ。
君は妖精さんだね」
「そうなの、ミルアは妖精なの!
シルウとセルヴァに会いたいって言ってたのはあなた達なの?」
「そう、君達の長に会って話がしたいんだ」
「それは止めた方がいいの。
シルウとセルヴァは人間さんにすごく怒ってるの」
「そうだろうね。
だから僕が言って話をしなきゃだめなんだ」
「そうなの?
でも、エルフも来ているし、あなた達殺されてしまうの」
「エルフだと?」
急にテレサが声を発し、驚いた妖精が僕の服の中に隠れてしまった。
僕は「テレサは仲間だし大丈夫だよ」と声を掛けると、服の中からひょっこりと顔を出してくれた。
「テレサはエルフを知っているの?」
「知っている。
ミルア、エルフは何人いる?」
「どうしてミルアの名前を知ってるの?
あなた凄い人?
エルフは一人だけなの」
「私はミルアの心が読めるんだ。
だからミルアの名前も知っている。
エルフが一人なら問題ない」
「エルフってそんなに警戒すべき相手なのか?」
「世界が七度滅びたと言う話しをしたでしょ?
エルフは七度目の対戦の時、最前線で戦っていた種族の一つだと言えば伝わるかな?」
「最前線で戦って生き残った種族か。
それは警戒して当然だ。
人族とは敵対関係なのか?」
「敵対はしていないけど、森の守り手と呼ばれるくらい森を大切にしている種族だから、私達とは敵対関係と言ってもいいかもね」
「そうか、でも一人なら僕達でも対等以上には戦えるんでしょ?」
「戦えるけど、犠牲は出るかも知れない」
「そんなに強いの?」
「本来エルフは集団で行動をする種族なんだ。
それを一人で、戦争になるかもしれない地に来ているから、戦闘に自身のあるエルフが来ているんだと思うし、人族には使えない上位の魔法をエルフは使えるからね」
「上位の魔法?」
「私達は魔力を操作して、魔法と言う形を取っているだけに過ぎない。
エルフが使うのは本物の魔法だ」
そう言えば僕達の中で一番魔法能力が高いセシリアでもGだったし、その上が居ても全然おかしくないな。
「わかった。
最大限の警戒はしておくよ」
「賢明だ」
それから僕達は寝る事無く、夜が明けるまでおしゃべりを続けた。
ミルアの話しでは、エルフ族は現在、ドワーフ族と交戦しているらしく、ここに戦力を割く事が出来ないから一人で来ているらしい。
それならチャンスだ。
エルフも人とドワーフの板挟みにはなりたくないだろうし、話し合いで解決できるかもしれない。
アイリスとセシリアも目覚めたので、焚火の火を根入りに消してから出立する。
泉の場所はミルアが知っているので、そこまで僕達を案内してくれると言ってくれたので着いて行く。
ミルアはすぐ近くと言っていたけど、泉に辿り着いたのはそれから三時間後だった。
泉に辿り着くと、僕達の周囲を何者かに囲まれた。
植物っぽい何か……。
女性っぽい人はドライアドかな?
気のお化けみたいなのはトレント?
そして、僕達の前から三人、こちらに向かって歩いて来る。
あれがミルアの言っていたシルウとセルヴァか、そしてエルフが一人。
「ここに人間を連れて来るとは何を考えているのですか? ミルア」
「シルウとセルヴァに会いたいって言ってたから連れてきたの!」
「全くこの子は……。
この森の女王シルウと、精霊シルヴァになんの用があって来たのですか?」
「僕は開拓した土地に国を作ったファーブルの国王コゼットだ。
君達と敵対するつもりはないし、話をしに来た」
「そんな虫のいい話があってたまるものか。
と言いたい所だけど、そちらにはキシン族が居たのでしたね。
エルフが着いてくれたとは言え、戦力ではそちらに分があると見るのが妥当でしょう。
こちらも森の民を守る為であれば和解には応じるつもりです」
話の通じる相手で良かった。
けど、この感じじゃあ和解しても仲良くは出来そうにない。
周囲にいるドライアドやトレント達はそれほど能力は高くないな。
僕と話をした女王シルウは身体能力がGで魔法能力がE。
精霊セルヴァは身体能力がEで魔法能力がD。
エルフの方は……!?
エルフの能力を覗き見ようとした瞬間、電撃の様な魔法が僕を貫いた。
速すぎる……テレサですら僕が貫かれた後に臨戦態勢に入ったくらいだ。
まだ全身が痺れているけど、ダメージはそれ程でもない……。
「マリルゥ・アインティティ。
何故攻撃をした。
こちらから戦争を仕掛けるつもりか?」
「フフっ別に相手は怒ってないわよ。
だって私、やり返しただけだし、ちゃんと殺さなかったわよ」
凄いな。
あれで加減されていたのか。
それにしても……マリルゥと呼ばれたエルフの身体能力はEで魔法能力はBだった。
流石にBともなると異次元の強さだな。
「ごめんね、趣味で失礼な事をしてしまった」
「私も攻撃した事を謝るわ。
でも、森を破壊した事に関しては許せないかしら」
「マリルゥ・アインティティよ、これは我等の問題だ。
事を荒立てる様な発言は避けて貰いたい」
「セルヴァってば気の弱い精霊ね!
強気にいかないと、相手は欲望塗れの人族よ?
そんな弱腰だったら丸め込まれて不利な条件を飲まされるわよ?」
「そうですね、ですが、マリルゥが攻撃したのはやりすぎです。
交渉は私が勧めます。
貴方達は見守っていて下さい」
セルヴァは「ウゥ……」と、低い唸り声をあげた。
マリルゥとシルウの間に挟まれてるのを見るとなんか可哀想だな。
例えるなら、思春期の娘と妻に挟まれた尻に敷かれっぱなしの父親みたいな……。
「それでは話を進めましょう。
こんかいファーブル国、国王コゼットは私達と和解しに来た。
間違いないですね?」
「ああ、間違いない」
「それでは、これ以上、森への侵略はお止め下さい。
それと、許可なく森へ立ち入る事も禁じます」
「その条件を受け入れよう。
森への侵入に関しては誰に許可を取ればいい?
連絡手段はあるのか?」
「明確にその理由があるのであれば、この場で私が許可しましょう。
連絡手段に関しては、森の入り口で私の名前を告げれば、私に伝わるはずです。
何度か繰り返し、返事を待っていて下さい」
「わかった。
僕達が森へ侵入する理由は山のダンジョンへの通り道と、天然資源の探索だ。
天然資源が見つかれば改めて許可を取る様にしよう」
「わかりました。
それでは、森に入り口を定め、そこへこちらから門番を配置します。
必ずその門を通って下さい。
それ以外の侵入者は有無を言わず攻撃対象とします」
「それで構わない」
交渉は成立した。
出来れば仲良くしたい所だけど、それには時間が必要かな。
そして、僕達は来た道を引き返した。
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