第15話

 あれから一週間経ち、なかなか良い感じになって来たんじゃないかと思う。

 家屋はこの世界における一般的なものよりも簡素に見えるけど、インフラ設備なんかも充実しているし、住みやすさは他国と比べ、段違いに居心地はいいだろう。


 水に関しても、山の地下に大きな水脈があり、この地下水を使っているので、どこの蛇口を捻っても、冷たい地下水が出て来る。

 しあも、山のミネラルを沢山含んでいるので、地下水は全てミネラルウォーターだ。


 キシン族の科学と僕の魔法の力との融合で、前の世界の電気の役割を魔力を担う事が出来ている。


 夜には街灯に淡い光が灯り、足元を照らしてくれたり、冷蔵庫や空調機なんかも作ろうと思えば作れると言う段階にきている。


 月が三つもあって元々それなりに明るから街灯の光は控え目にしている。

 それと、夜はちゃんと寝て欲しいので家にある照明器具も手元を照らす程度のものを採用している。

 

 後は、通信手段。

 これに関してはダンジョンの中じゃなければ通信可能な携帯電話なども作れるけど、あえてそれはやっていない。

 便利ではあるものの、この世界には神の使徒が居るし、あまり目を着けられたくないからだ。


 一応、僕の身近にいる主要人物達には通信機器を持ってもらっているけど、基本的には緊急事態以外の通信は控える様にと伝えている。

 

 他には、地下に大規模な研究所も作り、そこで研究者としてキシン族が数人待機している。

 この研究所はかなり頑丈に作ってあるので、いざと言う時にはシェルターとしても機能する。


 最後に、僕達の住む城なんだけど、見た目だけは派手にしている。

 周囲を庭園で囲い、西洋風の大きなお城を建てた。

 僕達はダンジョンにもいくつもりなので、メインでここを使うのはアサギと護衛のアゲハとジュラの三人だけ。


 僕の作った国ファーブルに関してはだいたいこんなものか。

 一応、冒険者ギルドも建物だけは作っているので、移住してきた誰かに任せるつもりだ。


 それにしても……疲れた。

 キシン族に頼りっぱなしだったけど、基本的な方針などは僕が考えないといけなかったし、発展しすぎてもまずいので、この一週間は色々と見て周りっぱなしだったから本当に疲れた。


 一段落着いたし、お城に作った出来たばかりの大浴場に行きたい所だけど……。

 その前に研究所へ向かう。


 一階にある施錠された部屋から地下へと続く階段を下り、そこから長い通路を進んで、電子ロックの掛けられた扉を抜けた先にある研究所へとやって来た。


 「同士よ、待っていた!

  驚くべき事だ!」


 興奮気味に話しかけてきたのはキシン族のヴィルヘルム。

 モデルとなっている科学者がそうだったのかは分からないけど、何かと興奮気味に話そうとする癖がある。


 「とりあえず見てみるけど、どうしたの?」

 「ああ、是非見てほしい!」


 そう言ってヴィルヘルムはモニタールームへと僕を連れて来て、一つの映像を見せてくれた。

 これは……!?

 

 そこに映っていたのは、これから僕が行こうとしていた研究所の一室。

 僕と一部のキシン族以外は立ち入る事の出来ない秘密の部屋の内部の様子だった。

 何が映っていたのかと言えば、ダンジョンに居た虫系のモンスター。

 四匹いるヒュージビートルの一匹が発光した後、なんと、もう一匹数が増えた!


 僕がアゲハに協力してもらい、フェルベールのダンジョンから持ち帰った大きな甲虫。

 最初は元気もなかったし、餌も食べなかったから心配だったけど、一体何が功を奏したんだ?


 「ねえ! この子は生きているの?

  全く同じ遺伝子を持ったクローンかな?

  餌は食べてくれた?」

 「おお、同士はクローンについての知識もあるのだな。

  この個体は今も生命活動を続けている、そして、遺伝子的には中にいる五匹共同じものを持っていた。

  餌に関しては何も食べていないが、活性化したのはついさっきの事だ」


 「成程ね……でも急に元気になったのはどうしてだろう?」

 「わからないな。

  ありとあらゆる視点で観察をしているが、未だ未知だ」


 キシン族が見て分からないとなると、魔力が関係しているのだろうか?

 でも、ヒュージビートル達は魔法を使わないし違う気もする。

 とりあえず、部屋の様子を見に行こう。


 秘密の通路を抜け、ヴィルヘイムと共に、ヒュージビートル達を飼育している部屋へと入る。

 さっそく僕に気が付いた一匹がこっちへ向かってやって来たので頭をガシっと踏みつける。


 グイグイと力強く押し返してくるけど、実は踏む力を強くするとヒュージビートルも力を増して押し返してくる。

 もっと力を入れて踏み込むと、押し返すのを止めて、しばらくして羽をバタつかせた後、じっとする習性を持っている。


 じっとしている子はもう一度踏みつけようとすると体を持ち上げ、その足にじゃれつく様な仕草をするので喜んでいるのかもしれない。


 他の子も踏みながら観察しているけど、特に変わった事もなく、どうしてクローンを生み出したのかは解らない。

 試しに、魔力の流れを体の外で循環させてみるけど、変化は無し……。


 いや……なんか妙だぞ?

 空気中に何か居る?

 魔力の流れを目に集中させると、小さい何かがいるのが見える。 

 それに、微かに何か……声が聞こえる。


 これってもしかして、微精霊かな?

 微精霊ならキシン族が感知出来ないのも納得だ。

 微精霊とヒュージビートルには何かしらの関係がある?

 

 面白そうだ!

 それなら、微精霊の数をもっと増やして見よう。

 問題は、僕の知っている微精霊を操れるショーンが情報屋と言う事か。

 一国の王がモンスターを飼っているなんて知られたらスキャンダルになってしまう。


 まあ、ショーンはこの国の貴族として迎え入れているし、僕の味方でいてくれるとは思う。

 住んでいる場所も分かっているし、協力して貰いたい。

 そうと決まれば善は急げだ。

 どうせ微精霊を通して全部筒抜けになるんだから、最初から全部打ち開けてしまった方が話も早いだろう。


 僕は早速ショーンがバザーと暮らす家に行き、微精霊を集めて欲しいと頼み込んだ。

  

 「微精霊を集めりゃいいんだな。

  まあ、それはいいんだけど……とりあえずその部屋を見せてくれ」

 「わかった。

  それじゃあ、ついて来て」


 ショーンを連れ、例の部屋へとやって来た。

 ショーンは部屋の中をキョロキョロと見渡している。

 

 「環境は悪くねえな。

  よし、それじゃあ微精霊を解き放ってみたぞ」

 「有難う!」


 「おお、食ってる食ってる。

  結構腹空かせてたんだな」

 「ん? ショーンが今、何を見ているのか説明してもらえるかな?」


 「ああ、俺にもよく解らねえんだけど、微精霊の出す粉みたいなのがあって、虫に近づくとスウーって吸い込むんだよ。

  虫の方からも微精霊達が好む何かを出しているらしいんだけど、そっちは見えねえし解らねえな」

 「つまり、微精霊とヒュージビートルは共生関係にあるのか……」


 その後、ヒュージビートル達は活発に動いていたけど、それ以上の変化は見られなかった。

 微精霊達を見れるショーンを研究者として勧誘したけど、断られてしまった。

 あまり虫が好きでは無いらしい。

 けど、微精霊の観察などの協力はしてくれるそうなので、またここに来て貰う機会はあるかもしれないな。


 観察も終えたし、楽しみにしていた大浴場へと向かう。

 僕は全裸になり、中へ入ると先客がいるようだ。

 掛け湯をした後、湯に浸かり、先客のいる場所に向かう。

 湯けむりの先に居たのはアサギだった。


 少しまずいかとも思ったけど、アサギは男の子だし全く問題は無いはずだ。


 「ああ、ビックリしたぁ。

  誰が入って来たのかと思いましたけど、コゼットさんでしたか」

 「うん、ずっとお風呂に入りたかったからね。

  湯加減はどう?」


 「すごく気持ちいいです。

  いよいよ……明日なんですね」

 「そうだね。

  明日はアサギの初めてのステージだ。

  けど、見知った顔ばかりだし、気楽にやると良いよ」


 「それでも緊張します。

  それに、顔はよく見るけど一人一人の事はあまりよく知りませんから。

  皆は私を認めてくれるんでしょうか?」

 「大丈夫だよ。

  スリンク王国の宰相ジャマルより、アサギの方がよっぽど魅力的だから」


 「そうですか?」


 はにかむアサギの顔はとても可愛らしい。

 それに、一つ一つの仕草も可憐で淑やかだし、きっと国民からも受け入れて貰える。

 明日が待ち遠しいな。

 自分以外の人の頑張る姿を微笑ましく思えるのは以前の世界では感じた事が無いし、新鮮な気分だ。


 アサギもリラックスできている様だし、そのまま会話を楽しんでいると、他にも誰かが入って来た。

 立ち込める湯煙の奥から姿を現したのはアゲハ?

 なんでキシン族がお風呂何て入るのだろう?

 それも気になるけど、アゲハは一応女の子……まあ、アンドロイドだし別にいいか。


 「マスター! お湯気持ちいい!

  それに、水質もバッチグー!」

 「そうなの?

  キシン族もお風呂に入るとリラックス出来たりするんだ?」


 「ううん、実はぁ、まねまねー」

 「まねまねかー」


 アゲハは「ゴクラクゴクラクぅー」と言いながら顔をお湯の中に沈めてブクブクと空気を出して遊んでいる。

 感情があるように見えるけど、人の真似をしているだけって考えるとなんとも言えない気分になるな。


 「そうだ、丁度話したい事があったんだけど聞いて貰えるかな?」

 「マスターからアゲハにぃ?

  なぁに?」


 「今後はアサギの護衛として傍にいてあげて欲しいんだ」

 「わかったぁ!

  宜しくねアサギ!」

 「こちらこそ宜しくお願いします」


 二人共人見知りとかしないタイプだし、すぐに打ち解けてお互い楽しく会話をしている。

 そんな様子を眺めていると、また誰かが入って来た。

 

 今度はテレサがアイリスとセシリアを連れて入ってきたみたいだ。

 流石にまずいかとも思ったけど、テレサは実質おばあちゃんだし、アイリスとテレシアはまだ子供だし問題ないか?


 いや、よくない。

 中身は兎も角、見た目は三人共年頃の女の子だし目のやり場にも困る。

 距離を取りつつ見つからない様にして出ようと思ったけど、アイリスがバシャバシャと音を立てて泳ぎながらこっちへ向かって来てしまった。


 「アイリス、お風呂で泳ぐのはマナー違反だよ」

 「プロデューサー!

  でも、ここって広いし泳ぐと気持ちがいいぞ!」


 「まあ、ここは僕達以外に使う人いないし、いいんだけど。

  もし、他の場所で入浴する時なんかは泳いだら駄目だよ」

 「わかったぞ!」


 アイリスと会話した事でテレサにも見つかってしまった。

 テレサはゆっくりとこっちへと向かって来る。

 ん? セシリアは何処へいった?


 見渡して見ると、お湯の中に巨大な毛玉がいる……。

 なんで潜水しているんだ?

 毛玉が僕の傍まで来るとザパーっと水しぶきを上げてセシリアが飛び出して来た。

 全身が髪の毛に包まれていてお化けみたいになっている。


 「プロデューサー、お風呂気持ちいいです。

  もっと全身で浸かりたいです」

 「遊んでいたんじゃないのか。

  いつでも入れるんだし、ゆっくりしていくといいよ。

  アイリスが暴れているし、ちゃんと面倒見て上げて」


 「わかりました!」

 

 セシリアはアイリスを追いかけて行ったけど、結局二人で水泳大会を始めてしまった。


 「マスター。

  風呂はいいものだな」

 「そ……そうだね」


 テレサの白い肌が火照って赤く染まっている。

 なんかいつもよりも色っぽく見えてしまうなぁ……。

 それに、ちょっとまずい。

 生理現象だから仕方ないとは言え、立ち上がれなくなってしまった。


 平常心を保たなければ。

 それに、僕はクランマスター。

 所属しているアイドル達に興奮してしまったなんて事はあってはならない。


 「アゲハ、僕に冷水をぶっかけてくれ」

 「んー?」


 アゲハ首を傾げて僕をじっと見つめてくる。

 どうしたんだ?


 「理解不能。

  何故その様な行為を求めるのですか?」

 「訳は後で話すよ。

  だから、お願い」


 「わかったぁ!

  それじゃ、いっくよー」


 そう言ってアゲハは何処からともなくホースを手に握り絞めていた。

 冷水が僕の体を冷やし、猛り狂っていた僕も静まり返る。

 よし、寒くて凍えそうだけどこのまま出よう。


 アゲハに冷水をかけるのを止めて貰い、アサギとアゲハを連れて脱衣所へとやって来た。

 

 「マスタぁー?」

 「気にしないで欲しいんだけど……理由を知りたいんだね。

  僕も男だから、女の子の裸なんてみたら体が反応しちゃうんだ。

  そう言う姿を見せるのはよくない事だと思うから冷水を掛けてもらったんだよ」


 「なるほどぉ。

  今度調べてみるね!」


 調べなくてもいいけど、キシン族の探求心から来るものだから仕方ないか。

 となりのアサギは平然としているなぁ……。

 むしろ余裕そうな笑みを浮かべている。


 「もしもの時は、いつでもお手伝いしますから」


 アサギは意味深に、そう発言した。

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