第14話

 明日旅立つと言うのに開拓地では宴会ムード。

 みんなお酒を飲んでいるけど、大丈夫なのだろうか?


 そして、主要メンバーに声を掛けて集まり、国の名前について相談をした。


 「僕は名前なんてなんでもいいと思っているんだけど、そう言う訳にもいかないと思うし、何かいい名前はないかな?」

 「其方そなたの国だ。

  好きな名前で良いのではないか?

  いっその事、コゼット王国などにしてみてはどうだ?」


 確かに国の名前は、初代国王の名前から付けられるって言うのはよくある話だ。

 見つけた国を探検家などの名前にちなんでつけるケースもあるし……。

 でも、僕はなんか嫌だなー。


 「それでもいいけど、皆の案も聞かせて欲しいな」

 「マスターの好きな物に関する名前でもいいんじゃないか?

  私もなんでもいいと思うし、マスターが愛着を持てる国名ならそれが一番だ」


 僕の好きなものか……。

 それでいて国の名前としておかしくない……。

 それなら。


 「ファーブル……がいいな」

 「ファーブル? それってどういう意味なんですか?」

 

 セシリアの疑問は当然の反応だ。

 だってこの世界にはいない人物の名前だから。


 「意味はね、これから僕達の頑張りで作っていくんだ。

  だからこの世界においてファーブルと言う言葉に意味はない」

 

 みんな首を傾げていたけど、僕が異世界から着た事を知ってるテレサだけは理解してくれているらしく「マスターらしい名前だ」と言ってくれた。

 そう言う訳で、新たな国の名前はファーブルに決まった。


 翌朝。

 案の定二日酔いでろくに動けない人がわんさかいる。

 普通に歩けば日が暮れるまでには到着する距離なので、分断しても迷わないだろう。

 そういう訳で、ライズとジュラには残って貰い、全員が動けそうになったら出発してもらう。


 僕達は動ける人達を連れて先に新天地を目指す。

 方角を確認しながら草原をただひたすらに直進する。

 テレサのマスコットの能力で地図を見られるから方角に狂いも無いし、周辺の環境も分るのですごく助かっている。


 そういえばアサギにはまだ能力の付与とマスコットキャラクターを与えていなかったな。

 やっぱり宰相として役立つ能力がいいかな?

 いや、一人でも身を守る術を用意していた方がいいか?

 でも、アゲハを護衛に付けるつもりだし……迷うな。

 一応アサギに欲しい能力がないか聞いてみるか。


 僕はアサギに能力の付与と、マスコットの説明をしてどんな能力がいいのかを聞いてみる。


 「能力とマスコットですか?

  それは、迷いますね。

  コゼットさんのお役にたちたいので、決めて貰える方が嬉しいです!」

 「僕が決めるとなると、そうだなぁ……」


 何かいい能力がないかと探していると、変な能力を見つけてしまった。

 『魅了能力』?

 アイドルに付与できる能力は僕の経験によるもののはずなんだけど……僕が何を魅了したんだ?

 でも、国のトップになるならカリスマとかって大切だと思うし、悪くないんじゃないか?


 後はマスコットには、抜け道職人と言う能力があったのでそれにする。

 この能力はどんな場所でも抜け道を作って主人の救出をサポートする能力だ。

 アサギに付与した能力とマスコットの事を伝えると、早速アサギは能力を試しているようだ。


 「どうですか? 魅了されてますか?」

 「いつも通りのアサギだね

  僕には効果ないんじゃないかな」


 「そうですか」


 アサギは少し残念そうな顔をしたけど、きっとこの能力は近いうちに開花する。

 僕がそのステージを用意してあげないとだな。

 

 それにしても……アイリスとセシリアは元気だな。

 旅立ってからずっと飽きもせず鬼ごっこの様な遊びをして楽しんでいる。

 難民達の数は大体3500人くらいなんだけど、その中に飛び込んで行っては見つけてを繰り返し行っている。


 難民達が隠れている場所を教えているのですぐに見つかるんだけど、皆微笑ましく見ているし、いい遊びなのかもしれない。


 アサギと会話しながら進んでいると、テレサが僕の隣に並んだ。


 「マスター、これ見て」

 「どれどれ……これって、新天地かな?」


 テレサの地図には開拓地と書かれた街が乗っている。

 山のふもと付近だし間違いないだろう。

 それにしても、少し規模が大きいんじゃないか?

 まあ、国なわけだし、大きくてもいいんだけど、たった一週間でこの規模の開拓を進めたのか……。

 見てみるまでは分からないけど、どんな街並みになっているのやら。


 しばらくすると、街の外観が見えて来る。

 急速に街を立てただけあって、やっぱり木造の簡素な作りの街だ。

 近くまで行って確かめてみたけど、結構しっかりした作りになっていると思う。

 ただし、基礎となる土台部分が心配かな?


 僕達の姿を見て兵士が駆け寄って来る。

 建物は自由に使っていいと教えてくれたので、難民達に好きな家で生活する準備を整えていてくれと指示を出し、僕は主要メンバーを引き連れてジャマルの元へと向かう。


 「おっやっと来たな。

  どうだい? そこそこ良い感じになってるだろ?」

 「一週間でやったにしては凄いとは思うけど、一週間じゃないでしょ?

  元々誰かに建国させる予定だったと思うし、スリンク王国から建材を用意して運ぶ事を考えるなら……半年くらいって所じゃない?」


 「ほう、流石に見る目あるな。

  ほぼその通りだ。

  だが、実は結構大変でね、原住民との戦闘やらで実際には一年掛かっている」

 

 原住民か、いきなり侵略されて可哀想だけど、ここまで開拓を進めてしまっているのだからどうしよいうもない。

 問題の解決には至らないかもしれないけど、ジャマル達が去った後に一度接触してみようと思っている。

 共存を受け入れてくれるのなら、それが一番いい。

 対立を選ぶならその時は、更なる侵略を進めるしかない。


 ジャマル達には開拓を止めてもらい、後は僕達の方で進めると言う事を話した。

 そして、今後の支援について。

 スリンク王国からは家畜を数種類と、畑などに使う苗、そして保存のきく食料などを持って来て貰う様に頼んだ。

 国の名前も伝えて、スリンク王国へと帰っていくジャマル達を見送る。


 追い出すみたいな形になってしまったけど、ジャマル達が居たら、どうしても元ジール獣王国の難民達が殺気立ってしまうし、危ないので仕方がない。


 さてと、早速色々とやりたい事があるけど、まずは僕達の住むお城かな。


 「アゲハ、この世界にコンクリートはある?」

 「あるよぉー!

  でも、この世界のコンクリートわぁ、脆弱ぜいじゃくなの!」


 「キシン族のおすすめする建材なんかはあるか?」

 「安価で加工がしやすくてぇー丈夫な素材と言えば!

  やっぱり鉄筋コンクリートかなぁ?

  それと、木材も悪くないよね!」


 「それじゃあ、セメントを作って砂利とかを用意しなきゃいけないな。

  砂利は……あそこにいっぱいあるけど、あれは建材になりそうか?」

 「あれは小さな魔鉱石だよ!

  建材にするにはちょっと物足りないかな?」


 「魔鉱石!?

  なんであんなに大量にあるんだ?

  かなり高価なものなんだろ?」

 「使える魔鉱石は高価だけどぉー。

  あのサイズだと何の役にも立たない石ころ未満の価値しかない産廃だよぉー」


 「産廃? つまりあれって廃棄する為に集めているの?」

 「そうだよぉー!

  こういう山の開拓だといっぱい取れるから集めてダンジョンにポイするの!」


 僕は砂利山の中から魔鉱石を手に取る。

 そして、僕の唯一使える魔法スキル『マジックグランツ』を使い、魔法効果を付与する。


 付与した効果は周囲を明るくする力。

 成程、ほんのわずかに周囲が明るくなったけど、魔鉱石に込めた僕の魔力が尽きるとその効果が消える。

 そして、もう一度魔力を込めると明るくなる。

 何度もそれを繰り返しても壊れる事はなかった。

 しかし、強すぎる魔力を込めると魔鉱石は粉々に砕け散った。


 これは使えるぞ!

 今最も欲しい建材と言っても過言ではない!

 これをコンクリートの材料にすれば良い建材になる。

 それに、建材として最適な割合などの調整はかなり難しいだろうけど、キシン族であるアゲハの演算能力があれば早い段階で実用可能な状態に仕上げてくれるだろう。


 「アゲハ、魔鉱石を建材として利用する。

  僕が魔法効果を付与するから、最適な割合を出してくれ。

  あと、魔力を込め過ぎると拡散してしまうから、米過ぎた魔力を吐き出す、もしくは再利用したり、溜めて置ける装置の開発も頼む」

 「マスター! それってすっごく素晴らしいアイデア!

  まさに科学と魔法の融合!

  石に込める魔法効果は〝再生〟〝結束〟〝結合〟〝柔整〟〝硬化〟〝変換〟が有効。

  適切な配置の為のプログラミング、同時に循環路の構築も行使。

  魔力貯蔵バッテリーをキシン族の里へ手配シマシタ。

  タダイマ解析中――受理イタシマシタ」


 上空からキーンと言う音と共に、キシン族が数人やってきて、バッテリーだけを押してすぐに飛び立っていった。

 すごく便利な種族だな……。


 「マスター! バッテリーだけど、結構希少な素材なんかも使っているから大切に使ってね!

  ここにあるもの以外は新しいのを作るのに十年くらいかかるから!」

 「バッテリーは全部で五つか、どれくらいの魔力を貯蔵できるんだ?」


 「この規模の街を全て魔鉱石コンクリートにしたと仮定するとぉー。

  一つを満タンにすれば一年は安定した魔力を循環させる事が出来るよぉー!」

 「それなら五つあれば十分だな。

  アゲハには頼りっぱなしで悪いんだけど、インフラ設備なんかも充実させておきたい。

  特に上水道と下水道、それに処理施設も優先して欲しいかな」


 「そこまでやっちゃうぅー!?

  それじゃあぜーんぶアゲハに任せてぇ!

  マスターには魔鉱石おじさんになってもらうね!」

 「ああ、うん。

  わかった」


 それから派手な見た目は城だけと言う条件を付けて、様々な設備がキシン族達の手によって建てられていく。

 ジャマルが作ってくれていた建物も魔鉱石を使った建材のものに変えられ、あっという間に街が書き換えられてしまった……。


 追加の魔鉱石もどんどんキシン族達が運んできてくれるので、僕は一日中建材用の魔鉱石に魔法効果の付与を行っていた。

  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る