第11話
フェルベールにある開拓地へと帰還すると、沢山の掘っ立て小屋が並んでいる。
すっかり難民キャンプと化してしまったな。
でも、建国をする事になってしまったし、不都合はない。
ライズには獣人達に開拓作業を止めさせる様に指示して貰い、僕は主要人物達を集めてそれぞれ自己紹介をして貰った。
「皆挨拶はすんだね。
それじゃあテレサに報告があるんだけど、実は――」
「建国の事?」
「なんで知ってるの?」
「ジャマルから書状が届いていた」
ジャマルの書状を確認する。
建国する場所はフェルベールの草原地帯を少し抜けた先にある山の
山は緑豊かな森となってるし、大きな川も流れている。
ジャマルの調べでは
それだけ聞くと、凄く良い立地なんだけど、実二つ問題がある。
山の中腹にダンジョンがあるせいで、モンスターの数が多い危険地帯と言う事が書状に書かれている。
ダンジョンのモンスターはダンジョンへ帰る習性を持っているみたいだけど、山の周辺は常に危険だと言う事らしい。
まあ、対策案は考えつくし、獣人達は戦闘慣れしているからそれ程心配はない。
もう一つの問題は原住民。
と言っても人族では無く、妖精や精霊が森にいる。
森を伐採して建国するとなると争いは避けられないらしい。
僕はそんな事はしたくないけど、既にジャマルが開拓を進めてくれていて、一週間後に荷物を纏めて持ってこいと書かれていた。
もう後には引けないじゃないか……。
僕に伝えると反対される可能性があるから、それを見越して先に開拓を始めたな。
ジャマルに関わると面倒な事が増える。
かと言って今更拒否する訳にもいかないし……。
対策するのは一週間後、難民達を引き連れて行って、それからになるな。
書状に書かれていた事はこれで全部。
厄介だな。
このままじゃ、ダンジョンにも行けないし、アイドル活動もままならない。
それに、今後は国政などにも関わらないといけないし、どうしたものか……。
せっかく皆集まって貰ってるわけだし、ちょっと相談してみるか。
それに、ジュラは元王妃だし有用な意見を言ってくれるかもしれない。
というわけで、皆に問題点を一通り説明して意見を求める。
「特に王妃だったジュラの意見が聞きたいんだけど、何かある?」
「王が他人の意見を募るでない。
一応答えてやるとするなら、本能のままに、血と闘争を求めよ。
「そうか、有難う」
駄目だ。
ジュラは完全に独裁者的な考えの人だ。
経験者だから国政の半分くらいは任せて、僕の負担が軽減するならと思ったけど、そんな事を頼んだら今にも戦争を仕掛けそうだ。
「まだ始めたばかりだけど、アイドルとして活動しているアイリスとセシリアの意見も聞かせて貰える?」
「逆らう奴は殺せばいい!
腹の中をいくら探っても相容れぬ者の考えなどわからん!
なれば、臓物を引きずり出し、血の色を見るのがいい!」
可愛らしい見た目をしているのに、アイリスの思想は母親譲りなのか……。
まるで参考にならない。
どんな形であれ、人は争う。
だから、ある意味で真理を付いていると言えるんだけど、僕の理想とはかけ離れている。
「プロデューサー、私は争いが嫌いです。
なので、お母様達とは違う意見になりますが……」
「大丈夫、セシリアの話しを聞かせて」
「はい、どんな生物でも生存の為の選択肢を最優先に選びます。
なので、お母様達の思想であれば抑止力と言う形で争いは避けれると思います。
ですが、闘争とは畏怖すべきもの、住人にとっては深層心理として、必ず
獣人族全体が攻撃的な種族となったのも、その弱さから強者である事を望んだ結果であり、自らが闘争を求める様になってしまいました。
上には上がいるものです。
私は、良い環境を作り、周囲の国家すら真似をしたいと思うような理想郷の実現を目指して欲しいと思います。
争うのが馬鹿らしくなるような夢の世界。
アイドルを生み出せるプロデューサーなら、そんな世界を作ってくれるのだと私は信じています」
「セシリアは平和な道を選ぶと。
参考にさせてもらう」
理想郷か……それもありなんだけど、根本的な解決にはならないと言うか。
それを実現するには僕が率先して国政をしないといけないだろうし、そもそも日本の社会を考えると一筋縄ではいかない事が分かっている。
でも、ちゃんと考えて自分の意見が言えるのは偉いし、僕の事をそんな風に見てくれていた事に関しては素直に嬉しい。
大本命のテレサに聞く前に、一応アゲハの意見も聞いておこうかな。
「アゲハの意見も聞かせて貰いたい。
特に、僕がダンジョンに行ったり、アイドル達とライブ活動をしたりする為にはどうするのがいいか」
「そんなの簡単だよー。
科学を発展させてー、幸せになればいいのー!
この世界には魔法がある、我々にとってそれは科学を否定し、この世界では魔法こそが偉大な人類の遺産とする忌まわしき呪いの力。
好奇心の向かう先に、全てを魔法で解決に至るこの世界の人類の思想を呪いと言わんとして何が呪いか。
しかし我々は学んだ。
この世界における我々の進化の先に魔法と言う存在が我々を学ばせたのだ。
ならば我々は魔法の存在を認め、科学と魔法の融合した新たな科学の発展を望む。
マスター、研究者、職人、特異な技能を持つ者を募り、新たな科学を発展させる事を望む。
その為ならー! アゲハ! なんだってやっちゃうんだからねー!」
急に別人格みたいなのがしゃべってたけど、科学と魔法の癒合は面白そうだな。
それに、セシリアの言う理想郷とまではいかなくても、日本に居た時の知識とキシン族の知識があれば周囲の国家が真似したくなるような国くらいには出来そうだし。
「ありがとう、それじゃあ最後に、テレサの意見も聞かせて貰える?」
「ん? 私にも意見を聞くのか?
私の意見なんて最も参考にならないぞ?」
「実力もあって経験も豊富。
参考にならないわけないよ」
「そうか? じゃあ私からも言わせて貰うけど。
国政なんてサイコロを振って決めればいい。
それがなんであれ、マスターは精一杯頑張ってしまうのだろう?
マスターがそうしている限り、私はマスターの為に死ねる。
逆に誰かがマスターと全く同じ事をして、どんな成功を得ようとも私はそれで納得はしない。
せいぜい、いい世の中になったな。
その程度の感想しか出て来ない。
結局の所、誰でも失敗はするだろうし、その逆も然り。
善人だろうと悪人だろうとそれは同じで、好きや嫌いなんてのも同じなんだ。
結論、頭の中に浮かんだやりたい事をやろう」
「有難う、すごく参考になったよ」
流石物乞いもやっていただけはある。
結局はそう言う事だ。
人類の歴史において人が人を裏切らないなんて歴史は無い。
馬鹿のいない世の中もなければ天才のいない世の中も無い。
かといって馬鹿になる必要も無い。
気分がずっと楽になった。
思い描いた事を一つ一つやればいい。
サイコロの目でいいなら、僕が何をされても納得してあげられる人に国政を投げてしまってもいい。
それならいっその事……。
僕は頭の中に馬鹿な考えを過らせた。
そして、笑った。
今まで出した事も無いような大きな笑い声をあげた。
僕は気が触れてしまったのだろうか?
そう思われても仕方がない。
だけど、この場にいる皆が僕に釣られてわらってくれる。
むしろジュラなんかは僕に対抗するようなくらいの大声を出して笑ってくれている。
そこから大笑い大会みたいなノリになってしまって、それがおかしくてお腹が痛い。
そうか、馬鹿でいいんだ。
僕はこの人達と最高の理想郷を作ろう。
そう決めたのだった。
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