第12話

 みんなとの会談の後、僕は一人で影奉仕かげほうしへとやって来た。

 目的は食事の為では無い。

 アサギを引き取りに来た。


 「いらっしゃいませ。

  どうぞ、こちらへ」

 「ああ、待って。

  今日は食事に来たわけじゃない。

  アサギを引き取りに来たんだ」


 「畏まりました。

  それでは店主をお呼びしますので、こちらへお越しください」

 

 影奉仕かげほうしの店主か。

 会った事が無いし、こういう店の人って怖そうなイメージあるから少し気負うな。

 通された部屋で待っていると、爽やかな笑顔をした若い男性が入って来た。


 「こんばんわ。

  この店でオーナーをやっているコールマンです。

  コゼット様の事は存じております。

  アサギをお迎えしに来られたと聞いております。

  お間違えありませんか?」

 「うん、間違いないよ」


 「そうですか……。

  実は、引き渡すに当たって隠し事はしない主義でして、これに目をお通し頂けますか?」

 「ここに書かれてある事は全て事実なの?」


 「はい、事実で御座います」

 

 アサギは深刻な病に侵されていた……。

 今の体力ではもって一年と書かれている。

 しかも、それだけじゃない。


 アサギの親は大罪人であり、国家転覆を計ったテロリスト。

 当時幼かったアサギだけは奴隷として売られたみたいだけど、両親と兄は既に処刑されてしまっている。


 僕としては、ただアサギを救いたいと言う思いがある。

 別に両親や兄がどんな人物であれ、アサギには関係の無い事だ。

 まあ、少しだけ問題があるけど、それは僕の都合だから二の次で構わない。 

 しかし、病気に関しては……あれをやってみるか。


 「そう、それでも僕はアサギを迎え入れたいと思っている。

  引き取らせて貰えるかな?」

 「わかりました。

  それでは、先に1000万ガネーのお支払を」


 僕はテーブルにあらかじめ用意していた1000万ガネーを置くと、コールマンは丁寧に袋から取り出し、1000万ガネーがある事を確認した。


 「それでは、アサギを連れて参りますので、しばらくお待ちください」


 少し……緊張するな。

 何て声を掛けていいのか分からない。

 アサギは喜んでくれるのだろうか?


 ドアをノックする音が聞こえたので「どうぞ」と返事をすると、コールマンがアサギを連れて部屋の中へと入って来た。


 「コゼットさん、本当に私を迎えに来て下さったのですね。

  私……嬉しいです」


 アサギは手で涙を拭いながらそう答えてくれた。

 横論で貰えて何よりだ。

 コールマンにも礼を言って、僕はアサギと共に店を出た。


 「コールマンからアサギの事を教えて貰ったよ。

  体の具合はどう?

  今も苦しいのかな?」

 「今は、幸せで満たされているみたいで、苦しさなんて感じません。

  でも……少しだけ休んでいきたい。

  かもしれません」


 開拓地は街の外れにあるし、そこまで歩かせるのもよくないな。

 それならこの辺りでやってしまうか。


 「アサギ、君を僕にプロデュースさせてくれないか?」

 「ああ、今流行りのアイドルですか?

  残念ですが、私の体でアイドルは……」


 「大丈夫。

  僕を信じて」

 「わかりました。

  コゼットさんを信じます」


 僕はその言葉を聞き、アサギを人気の無い路地に連れ込む。

 そして、契約書にサインをしてもらった。

 ん? 本名はジョージなのか……結構男らしい名前なんだな。

 よし、見なかった事にしよう。


 アサギにはやってもらいたい事があるので、他のアイドル達とは違い、フォーマルな洋風のドレスを着せた。

 ほんのり軍服の様な雰囲気も出る様にあしらっているので、落ち着いた雰囲気でまとまっている。


 「わっわ! なんですかこれ?

  それに、体も凄く楽になりました」

 「僕の能力だよ。

  アイドルは体が資本だけからね。

  僕と契約をしたアイドルは病気にならないんだ。

  だから、アサギの病もきっと治っているはずだよ」


 「凄いです!

  私、精一杯コゼットさんをご奉仕します!」

 「うん、そのつもりでいて」


 アサギも元気になった事だし、開拓地へと帰る。

 そして、再び皆を集めてアサギを紹介した。


 「あの……アサギです。

  どうか、皆様よろしくお願いします」

 「みんな拍手で迎え入れてあげて。

  これからアサギには僕の右腕、宰相になってもらうから」


 皆が大きな拍手を送る中、アサギは困惑した表情をしている。

 こんな表情のアサギを見るのは初めてだし、新鮮だな。


 「宰相……?

  とは、なんでしょうか?」

 「これから僕は建国するんだ。

  一週間後にはここを離れてみんなで新しい国へ行く。

  そこで、僕が王様でアサギが宰相。

  国政において、実質的には一番偉い人の事だよ」


 「そんな大役……私に務まるはずがないじゃないですか」

 「難しい事をして欲しいわけじゃない。

  基本的には僕が色々と決めて、二択を迫られた時に僕が迷っていたらアサギに決めて貰いたいんだ」


 「他の皆さんは納得されているのですか?」

 「大きな拍手をして貰ったでしょ?

  みんな納得済みだと思うよ」


 「わかりました。

  やってみたいと思います。

  ですが……本当にいいんですか?

  私って本当に何もできないと言うか、実力ってないと思いますよ?」

 「実力なんてこれからつければいいし、出来たばかりの国だし気を楽にして。

  もし何かあっても、ここにいる誰かがきっと助けてくれるから」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る