第10話

 「まさか、キシン族がロボットだったなんてね。

  いや、アンドロイドって言うのかな?」


 シャターラの見た目は元の僕と同年代くらいの男の子に見える。

 ただ、目の奥に機械の様なものが見えたのでアンドロイドなのだと判断した。

 それに、キシン族と言う名前は機神と解釈できると思ったし、それで間違ってはいないだろう。


 何より、身体能力も魔法能力も測定不能だから生命じゃない可能性が高い。


 「私を……アンドロイドだと認識してくれるのか?」


 凄い流暢にしゃべる。

 まあ、これだけ人に似せてロボットを作れる技術があるんだしおかしくはないか。

 それに、シャターラの頬を一滴の涙が流れ落ちる。


 あれ? そういえばこの世界って科学的な発展は見る限りしていなかったな。

 こんな高性能なアンドロイドを作る技術があるなんて信じられない。

 それに、僕は触れてはいけない事を口走ってしまったのかもしれない。

 まあ、言ってしまったものは仕方がない。


 「うん、そう言う事になるね。

  それって何かまずい事になるのかな?」

 「私は……いえ、私達はあなたの様な人が現れるのを待ち望んでいた。

  もしかして、あなたは異世界人ではありませんか?」


 ここに来てそのワードが出てきたか。

 つまり、シャターラとジャマルは異世界人との接触を待ち望んでいたと言う事?

 でも、僕に出来る事なんてないと思うけど?


 「よく分かったね。

  でも、僕に何か求められても困るかな?

  実際問題、この世界で生きていく事に必死だし、やりたい事が山ほどある」

 「私達は神の意思を継ぎ、自らその神の思想をなぞり、神となる事を決めた。

  科学の発展こそが神の意思であり、私達の望み。

  不屈の好奇心と愛情こそが私達の原動力。

  科学の発展に協力して欲しい」


 私達と言うのは、シャターラとジャマルと言う事じゃなくて、キシン族の事を指していたのか。

 そして、キシン族にとっての神と言うのは恐らく人類の事。

 この世界で科学が発展していないと言う事から、キシン族もしくは科学者がこの世界に転生して来たのだと予想出来る。

 科学の発展と言っても、僕個人にその能力は無い。

 

 「残念だけど、僕は科学の発展には貢献出来ない。

  少しくらいなら協力出来るけどね。

  例えば、僕の作った国で研究者を募るとか?」

 「それでいい。

  科学を知る人がいるのであれば、私達は前へ進める」


 そんな事でいいのなら別に構わない。

 時間は掛かるだろうけど、キシン族の望む未来を切り開けると言うのなら協力しよう。

 

 僕がそのむねを伝えると、外からキーンとジェット機が飛ぶような音が聞こえる。

 窓の方へ目をやると、突然ガラスをぶち破って、何者かがこの部屋の中へと入って来た!


 「こーんにちわ!

  私は最近作られたばかりのキシン族!

  コゼット様をマスターと認識しました!

  好きな名前を付けてね!」


 突然過ぎで驚いたけど、僕の従者としてキシン族を一人送ってきたのか。

 変わった子だけど、受け取らない訳にもいかないし、とりあえず名前か。

 見た目が幼女だし、可愛らしい名前がいいか。

 

 「じゃあ君はこれから〝アゲハ〟だ」

 「了解しました!

  『アゲハ』登録完了!

  よろしくね! マスター!」


 シャターラからアゲハの取り扱い方を教わる。

 と言っても、動力は自分で確保できるみたいだし、基本的には殆ど手は掛からない。

 余程の事が無い限りはエネルギーが尽きる事もない。


 もしも壊れてしまった場合は、アゲハ自身が救援要請をして、キシン族達の方で回収して治してくれるらしい。

 ただ、キシン族は個人と言う概念を大切にしているらしく、新品と交換の様な事は避けてほしいとの事。


 さて、僕がロボットを知っていたせいで色々と話は反れてしまったけど、これからが本題かな。

 僕はまだジャマルの目的を聞いていない。


 「ジャマル、そろそろ本題に移ろう」

 「ああ、僕とシャターラの目的だね。

  簡単な事さ、気に食わない奴を潰したいのさ。

  だから戦力を増大して、有能な人材を集める必要がある」


 シャターラと同士と言うくらいだし、僕はテレサから聞いてキシン族が何と戦って来たのかを知っている。

 二人の目的は恐らく、番人の使徒か。

 倒すと世界が滅びそうな気もするけど……。


 「気に食わない奴って、もしかして12人居る?

  ああ、その倍の24人か」

 「その通り、詳しいんだね」


 「たまたま最近聞いた話ってだけだよ。

  でも、そんな事して何になるの?

  神様にでもなるつもり?」

 「なるつもりだと言ったら?」


 「そんなのに付き合ってられないな。

  でも、敵対するのも嫌だし、協力はさせてもらうよ」

 「よし! 今はそれで十分だ。

  それじゃあ交渉成立というわけで、感動の親子再会と行こうか!」


 なんかジャマルのペースに乗せられっぱなしで癪にさわるな。

 絶対にいつかやり返してやる。


 ジャマルに連れられて、城の地下にある牢獄へとやって来た。

 ここに王妃が捕らえられているのか。

 結構綺麗な場所だな。


 地下の通路を進み突き当りにある牢へやって来た。

 そこには、厳重すぎる程に拘束されてた王妃の姿があった。

 アイリスとセシリアが同時に「お母様」と大きな声をあげる。


 「おや? 飯の時間だと思ったら私の娘達だね。

  しばらく見ない間に成長したもんだ。

  後ろにいるのはライズ戦士長かい?

  ここに何をしに来た?」

 「ジュラ様をお迎えに来たしだいであります」


 ライズは戦士長だったのか。

 それに、珍しく緊張している。

 どれどれ……身体能力C!? 魔法能力はNだけど、とんでもない身体能力だ。

 でも、アイリスとセシリアの事を思うとアイドルには出来ないな。

 

 「そこのあんた、私の事をいやらしい目で見るんじゃないよ」

 「ごめんなさい。

  気を悪くした?」


 「娘達はあんたを慕っている様だね。

  私の勘違いだ、忘れて頂戴」


 勘違いじゃないんだろうな。

 多分僕が観察して能力を覗き見た事を感じ取ったんだ。

 バレたのは初めてだし、驚いた。


 「それで、ライズ、ジャマルと一緒にここに居るって事はスリンク王国を支配出来たのかい?」

 「いえ、我等は敗北し、こちらのコゼット殿に救って頂きました。

  ジュラ様の奪還にも協力して頂いたしだいであります」


 「そうかい。

  それじゃあライズ、今ここで腹を掻っ捌いで自害しな」

 「仰せのままに」

 「待って、どうしてそうなるの?」


 「コゼットさん、あんたは娘達の世話をしてくれたんだろ?

  感謝するよ。

  でもね、これは私達ジール獣王国の問題だ。

  私はただライズに責務を果たせなかった報いを受けさせているだけさ」

 「それなら僕からも言わせて貰う。

  ライズは現在、僕が奴隷として雇用しているんだ。

  勝手に始末されては困る」


 「それじゃ仕方ないね。

  ライズ、新しい主君に着いたんだ、精一杯やりな」

 「ご容赦頂き、感謝致します」


 「それじゃあ、そろそろいいかな?

  ジール獣王国は我等スリンク王国に敗北し、王妃ジュラの身柄はコゼットさんに渡す事になった。

  ジュラ、元王妃に相違が無ければこの場で引き渡しを行う。

  相違ないかい?」 

 「相違ないと認めよう」


 ジャマルの指示で兵士達が王妃の拘束を一つ一つ解いていく。

 全ての拘束が解かれた瞬間。

 王妃が目の前から消えた……。


 「鍛えがいがありそうだねぇ」


 冷や汗が止まらない。

 完全に後ろを取られた。

 その気になればこの場にいる全員の首を取る事も可能だと錯覚してしまう。


 さすがにキシン族のシャターラとアゲハは無理だと思うけど、よくこんな人をスリンク王国は捉える事が出来たな。

 

 僕は「お手柔らかに」と返事をすると、王妃……いや、もう王妃では無いか。

 ジュラはスタスタと階段を登って行ってしまった。


 ジャマルに別れを告げ、僕達はジュラを追う。

 ジュラに追いついたのは城門を出た辺りだった。


 「挨拶が遅れた。

  ジュラだ。

  どうか、良しなに」

 「僕はコゼット。

  これからスリンク王国と協力して建国する予定だから色々と忙しくなると思うけど、よろしく」


 今日あったばかりだけど、ジュラの事は正直苦手だ。

 だって怖いもん。

 どうにか、上手くやっていけるといいなと、僕は節に願った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る